5.能ある鷹だとて、爪かどうかもわからないものは隠しようがない
一人ずつ名前を名乗って、青白い水晶玉に手を乗せる。素人が見てもわからないけど、鑑定士のアルバートさんは水晶から何かを読み取って紙に書きつけていく。
この実力検査でわかるのは、総合レベルと魔法属性、あとは体力、魔力、戦力、技力の六個だけだ。
魔法の属性は基本の火、土、水、風で、人によっては属性が混在していることもある。たまに基本四属性以外のレア属性もあるらしい。
体力と魔力はその名の通り。戦力はどれだけ身体が動くかの身体能力で、技力は魔法を扱う技術力と言ったところだ。
実は、戦力だけはこの初心者講習を受ける前に簡易検査を受けている。
なにせ、戦力の最低値は十とされている。戦力が十に満たなければ、戦力を鍛えるだけの戦力がないということになるのだ。
簡易検査は本当に簡易で、リトマス試験紙みたいな紙切れを触って終わり。紙が赤くなれば戦力十以上、青くなれば戦力十未満、青が出たやつは文字通りの戦力外通告で、初心者講習も受けられずに帰される。
だが、この世界で普通に生きていれば戦力は十以上になる。水がいるなら汲みに行かないといけないし、火がいるなら薪を割らなければならないのだから、当たり前に日常生活をしていれば、男女問わずある程度動けるようになるわけだ。
だから、まずこの場にいるやつらは間違いなく冒険者になる。
そもそも、初心者講習はあっても、認定試験があるわけではない。普通に動けて普通に常識があれば誰でも冒険者の仲間入りだ。
今回の初心者講習でも、申し込み人数は十四人、簡易検査を通らなかった虚弱体質の一人と、講習二日目に飲み屋で乱闘騒ぎを起こして拘留されている馬鹿一人以外は、このまま冒険者になるだろう。
そう言えば、いつもの癖で一番端っこに座ってしまったが、検査が席順だったなら、もう少し前の方に座っとけばよかった。
簡単な鑑定は順調に進んで、残るは僕一人になっていた。試験やオーディションではないけど、トリってなんか緊張する。
しかも、僕には一つ懸念材料があるのだ。
神様に授かった能力「や」とは何なのか。
ハイパーレアだとか言っていたけど、あのルーレットには「体」という魔法属性ではないものも入っていたから、必ずしも魔法に関するものとは限らない。
何かヤバい能力だったら隠しておくべきなのだが、ヤバいかどうかもわからない。能ある鷹だとて、爪かどうかもわからないものは隠しようがない。
「ヨナハン、あとはおまえだけだ、さっさとしろ」
ここまで来たらぐだぐだ考えても仕方がない。
僕は意を決してアルバートさんの前に立った。
「名前を」
「ヨナハン」
「こちらに手を」
言われるままに水晶に手を乗せる。
傍から見ているとわからなかったが、硬質なはずの水晶玉が、触れた瞬間ニョロッと柔らかい感触がした。水晶は硬く冷たくガラス質な触感だから、たぶん魔法的な何かが触れたのだろう。
アルバートさんは水晶玉を凝視して、手元の紙を見ないでペンを動かす。紙には最初から決まったことが書いてあり、そこに数字を書き込むだけだ。
まず、僕の総合レベルは五だった。
戦闘経験もない初心者冒険者はだいたいレベル一~三だというから、初心者としては高い。
だが、冒険者歴一年のD級冒険者で平均レベル十二だというから、調子に乗れるような数値ではない。
体力は二十三、一般的な十五歳だと平均が十八だというから、これもそこそこ高い。
魔力は三十四、これは結構な高さだ。
そもそも魔力を上げるには魔法を使う必要があり、魔法を使うには誰かに魔法を教わる必要がある。だから、親が魔法使いでもなければ、一般的な十五歳だと魔力は十を切るもんだ。
魔力については十以下でも伸ばしようはあるから、初心者講習を受けるにあたって、魔力の最低値などは決まっていない。最悪、魔力0で一切魔法の素質がなくても、他の方法で戦うことは可能なので冒険者にはなれる。
何の訓練もせずに魔力三十を超えているというなら、魔法使いの才能があるということになるが、これも調子に乗れるほどではない。D級冒険者の魔法職で魔力平均は四十八だ。
戦力は十五、戦闘訓練を受けていないなら普通だ。
技力は二十五、魔法使いの家系でないことを踏まえれば高い方だが、やっぱりすごく高いわけでもない。
残るは肝心の魔法属性だ。魔法の素質がなければ属性ナシということも有り得るが、これだけ魔力と技力が高ければ属性ナシということはないはずだ。
ならば、神様が授けてくれた謎の能力「や」の答えも、ここでわかるかもしれない。
意気込んで水晶玉を覗き込んでみたが、まあ僕が見ても何もわからない。
そう思ったのに、素人目にも水晶に異変が起きた。
さっきまで青白かった水晶玉は、今は中に黒いものがクルクル渦を巻いている。
「おや」
他の人の鑑定中は始終無言だったアルバートさんも声を上げる。プロが声を上げるのはビビるからやめてほしい。隣に立っているレヴィさんも水晶に顔を近づけている。
最初に感じた掌を舐められるようなニョロッとした感触が再び走ると、黒い何かが渦巻いていた水晶の中が、スッと元通りの青白い色に戻った。
「ほうほう、これはこれは」
心なしかアルバートさんの目が輝いているように見える。
「お、終わり、ですか?」
「何だったんだ、今の?」
僕だけじゃなく、一緒に眺めていたレヴィさんも少しビビッた様子で声を上げる。
気が付けば他の講習生たちも僕の後ろに集まっている。今更だけど、みんなで実力検査受けるって、プライバシー的に良くないと思う。
「はい、終わりです、手を放していいですよ」
僕は恐る恐る水晶玉から手を放して掌を見る。当然、舐められて涎まみれになっているなんてことはないけれど、ニョロッとした感触がまだ残っているようで、エンガチョしたい。
「ふふふ、私もこれは初めて見ました」
本当に目をキラキラさせているアルバートさんに、結果の書かれた紙を渡される。
魔法属性以外はもう既に見ていたので、驚くことはない。
最後に書き加えられた属性の欄には、几帳面な帝国文字で「闇」と書かれていた。
「……ああ、なるほど」
神様が最後に言っていた「や」は、闇のことだったのか。
基本と言えば体力じゃないかと思われるでしょうが、体力が十未満だと寝たきりです。歩いてギルドまでこれたなら体力は十以上あると判断されます。
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