46.厄ネタ同士だろ
昼時だったから、二人で取り合えず飯屋に入った。
ほとんど屋台みたいな店で、明らかに道という場所に屋根を張ってテーブルとイスを出している。
僕一人では絶対に入らなそうな細い路地にある店だ。でも安くて量が多くて、まあまあ美味しいらしい。
メニューはイモのスープとイモのサンドイッチしかなかったから、ネニトスと同じものを持ってテーブルに着く。テーブルも椅子も全部寄せ集めの不揃いで、なんかいい。この街の住人になったって感じがする。
「俺も別にソロに拘りがあるわけじゃないけど、パーティ組んで上手くいったことが無くてさ」
ネニトスはそう言いつつサンドイッチに齧りつく。
香草をふって焼いたイモの挟まった堅パンは、美味しいけどもっさもっさでいつまでも飲み込めない。だからスープがセットになっているらしい。
「噂で聞いた、女性トラブルで解散になったって、本当?」
僕はスープに口を付けながら聞いてみる。スープも香草が利いていて、スープカレーみたいで美味い。
「ああ、でも、別に俺から女の子に言い寄ったことはないからな、いや、こう言うと嫌味に聞こえるかもだけど……」
しどろもどろに言い訳するのを聞くと、ネニトスが女遊びが激しいやつじゃないことはわかる。自分の顔を活かしてやって行くつもりなら、今頃ぼっちで冒険者なんてやってないだろう。
「うんうん、勝手にモテちゃうのは見ればわかる、まあ僕は今のところ恋人いないし、女の子追いかけてる余裕ないから、女性トラブルで解散する心配はない」
やっぱり僕寂しいやつじゃない? と言ってて思うけど、本当のことだから仕方がない。今のところ恋愛に現抜かしている暇がないんだマジで。
「誘いは俺としても有難い、やっぱソロだと限界あるもんな」
ネイトスもパーティ解散してからは、第一ダンジョンの一階層から二階層をうろうろするだけだったという。
それでも最低限の生活はできるけど、強くもなれないし、生活は悪くもならず良くもならず、将来にはかなりの不安がある状態だ。
借金が無くても、やはりソロは厳しい。
「ただ、僕もちょっと問題があって……その、実は、借金がある」
お金の問題は、パーティを組む前に言っておかねばならないと思った。
人間関係で揉める理由第一位に金があると思う。第二位が恋愛。そう考えると、僕とネニトスは人間関係で揉める理由ツートップが揃っているわけだ。不安になってきたから考えないでおこう。
案の定、ネニトスは眉を潜めた。
「そこまで酷い額じゃないんだけど、ギルドで魔法の試し打ちして、ちょっと建物壊しちゃったんだ」
「ああ、今期の初心者講習で魔法暴走させたっていうの、ヨナハンだったのか」
うえ、噂になってる。ギルマスの執務室半壊してるから、この街の冒険者なら知ってて当然だけど、今度は僕が眉間をくちゃくちゃにする番だ。
「うん、すぐ教会で封印してもらったから、もう暴走することはない、でも、やっぱり魔法の癖が強くて、だからパーティになってくれる人が見つからなくて」
こう言ってしまうと、ネニトスにも問題ありだから声をかけたと言っているようなもんだ。本当のことだけどイメージ悪くないだろうか。
「だから俺か」
案の定バレた。はいそうです、とは言いづらいのでお茶を濁す。飲んでるのはイモのスープだけど。
「いや別に厄ネタ同士とか思ったわけじゃ」
「厄ネタ同士だろ」
「……まあ、うん」
苦笑するネニトスに、僕も苦笑するしかない。たまたまダンジョンで会っただけの仲だ。他にパーティに誘う理由も思いつかない。
「まあ、俺も期待してもらえるほどの腕前じゃないし」
「それは僕も、取り柄は癖の強い魔法だけだし」
お互い問題はあるけど決め手はないという状況、食べづらかったサンドイッチとスープもなくなる。腹はちょっと苦しいくらいに満腹だ。
「じゃあ、今度試しにダンジョン潜ってみようか、一緒にやっていけるかどうかは、一回共闘しただけじゃわからない」
ネニトスの提案に僕は嬉しくなる。とりあえずやってみるのは大賛成だ。
「そうだな、あ、パーティ組んでなくても一緒なら第一ダンジョン二階層行ける?」
腕試しなら第一ダンジョン一階層では物足りないだろうが、E級冒険者同伴というだけでも二階層以下に行けただろうか。初級ダンジョンだとお試しにもならない可能性がある。
「うん、行けたはずだ、俺は明後日潜るつもりだけど」
ネニトスもそこら辺はちょっと不安そうだから、冒険者ギルドで確認してみよう。
「丁度良い、僕も鎧の修理があるから」
明後日第一ダンジョン前で落ち合う約束をして、僕らはその場で別れた。
冒険者になってから初めて人と一緒にダンジョンに潜る。緊張するけど少し、いや、かなり、すごくワクワクする。
防具を修理に出していたら、予定よりも大分遅い時間になってしまった。
明日の午後には修理が完了するといわれたから、買い物は明日にしてもいい。どうせ防具が戻ってこないことにはダンジョンに潜ることはできないし、薬草採集もクマ出没中で危なくて行けない。
今日はもう帰ろうか、と思っていた時、すぐ近くに見知った顔があった。
同期で同室のケルビンとショーンだ。
二人とも今日は第一ダンジョンに行くと言っていたから、防具を付けているけれど、一緒にいるのはパーティを組んでいる先輩冒険者ではなさそうだ。
僕は人見知りを発揮して、見なかったことにして通り過ぎようと思った。
同期でも知らない人と一緒なら声をかけられない。例え同期でも街中で見かけたら隠れてしまう。それが人見知りの悲しき性だ。
それを思うと、ダンジョンで一回会っただけなのに街中で声をかけてくれたネニトスのコミュ力には感謝だ。向こうから気付いてくれなかったら、僕は確実に声をかけようかどうしようか迷っているうちに通り過ぎていた。
しかし、物陰に隠れてやり過ごそうとした時、知らぬふりでは済まされない話が聞こえた。
「大丈夫大丈夫、ちょっとだけだから、な」
「みんなやってることさ、今の生活に不満があるんだろ」
「君たちと同じようなやつばかりだ、みんな同志さ」
ケルビンとショーンの周りにいる男たちは、口々に二人に誘いをかけているようだ。
冒険者ギルド本部の周りでは見たことのない連中だ。身なりは小綺麗だから、商人か役人だろうか。冒険者に仕事を依頼しているというふうでもない。
なんの誘いかはわからないけれど、ケルビンとショーンの顔色を見ると、なんだか不穏な空気を感じる。
昼食をした店に店名はありません。
アパートの大家が気分で店を出しているので、知る人ぞ知るというか近所の人しか知らない違法営業店です。
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