45.思春期の頃に患った癖はなかなか治せないもんだ
別にこんなに盛り上がっているなら、推し町娘の一人や二人いたところで可笑しくもないだろうに、なんとなく、イベントごとに流されるのも、女の子を追いかけるのも、恥ずかしいと思ってしまうのは何故だろうか。
こういう時は「興味ねーし」みたいな顔する方が格好悪いと思うのに、反射的に突っ張ってしまう。思春期の頃に患った癖はなかなか治せないもんだ。
そんな僕の無暗な反抗心なんか気付かれることもなく、ネニトスは僕の手元を睨みつけている。
「これは、どこで?」
「え? あー、ナナトちゃんだっけ?」
財布から出てきたのは、伝説の町娘ナナトちゃんのポートレイトだ。
「この前広場に来た時に知らない人がくれた、複製だって言ってたけど」
ネニトスの尋常じゃない形相にちょっとビビりつつ、僕はくれた人を思い出そうとしたけど、特に特徴もない男だったから顔もほとんど覚えていない。
ネニトスはポートレイトを睨みながら「まだあるのか」とか呟いている。
確かに、ナナトちゃんは四年前に姿を見せなくなった町娘だというのに、未だに忘れられずポートレイトが出回っているのは、よっぽどの人気だ。
そう言えば、ネニトスの少し耳の尖がったエルフ混じりはナナトちゃんと同じだ。
「もしかして、身内だったりする?」
「……いいや」
ネニトスは言葉少なだ。もし本当に身内だとしても言うわけないか。伝説の町娘の親戚なんて知られたら煩くなりそうだ。
僕は本当に興味がないので、いわくありげなポートレイトごとビラは全部捨てる。
いや、生活にもう少しゆとりがあればアイドルとか興味なくはないけど、今は本気で女の子追いかけている余裕がない。借金を返し終わったら趣味とか彼女とか探すんだ。
ポートレイトを捨てたらネニトスはあからさまにホッとしていた。
「町娘コンテスト嫌いなのか?」
「別に、嫌いではないけど、あまり良い思い出が無くて」
ネニトスの表情は微妙だ。町娘コンテストでなくても、女性関係で色々苦労していそうだから、あまり聞いてやらない方が良いのだろう。
「今日は何してるんだ? 買い物?」
話しを変えるために聞いてみた。ネニトスはいくつか袋を持っていた。
「うん、食料の買い出し、ヨナハンは? 大荷物だな」
僕の背負うリュックは確かに、これから大冒険に行くのかというような大きさだ。でも服装はよれよれの古着だから、どうにもちぐはぐに見えるだろう。
「鎧を修理に出そうと思って持ってきたんだけど、新しいのを買おうか迷ってる」
「あー、中古なら修理代と大差ないもんな」
やはり、冒険者の間では鎧を修理して使うか買い直すかは、みんな考える悩みのようだ。防具は安くない買い物だからな。
前世でも、中古の自動車を買うか新品の軽自動車を買うかで延々悩んだ記憶がある。車も防具も毎日使うものだし、命に関わるアイテムだから、テキトウに選ぶわけにはいかない。
「うん、新しく買うなら新品が良いんだけど……ネニトスが使ってるのは? 新品買ったやつ?」
ダンジョンで見た時にネニトスが付けていたのは、使い込まれているけど結構綺麗に見えた。
「いいや中古、でも中古もピンキリだからな、あれは古道具屋でほぼ未使用品を見つけたんだ、掘り出し物だよ」
得意げなネニトスを見て、僕は更に迷う。でも、掘り出し物を探して古道具屋めぐりをしている時間も勿体ない。
「中古でも良い物は高いから、まだ使えるなら修理して使った方がいいと思う、たまにダンジョンアイテムとして鎧が出現することもあるっていうし」
なんと、新品防具を拾うという可能性もあるのか。それは想定していなかった。
「なるほどな、やっぱダンジョンアイテムなら、自分に合った性能の鎧が出るのかな?」
道具屋で買ったなら、中古でもその場でサイズ直しをしてくれる。ズボンの裾上げ感覚で、金属鎧もトンカン直してくれるのはちょっと驚いた。時には魔法で調整してくれるという店もあるらしい。
まさか、ダンジョンアイテムがサイズ違いで使えないなんてことはないと思うけど、魔法が付与されているような防具は、お直しができないと聞いたことがある。
「さあ、俺もダンジョンで出たのは斧とブーツだけだし」
ネニトスは首を傾げた。斧とブーツと言うと、この前ダンジョンで見た時の装備かな? どちらもそこらで売ってそうな普通のブーツと斧で、僕のグローブみたいな無駄な個性はなかったと思う。
「なんかすごい機能付いてた?」
「まあ、刃こぼれしないし錆びない斧と、絶対水が沁みないブーツだな」
すごいっちゃすごいけど、地味だな。絶対水が沁みないブーツってゴム長靴じゃないか?
でも、そういうのでいいんだよな。タダで貰えるなら特別な機能なくても嬉しいから、闇属性の魔法使い宛てだからって変なとこ拘らないでほしい、という要望はどこに出せばいいんだろう。神様に祈っとけばいいのか?
「やっぱり修理してもらおうかな、新しいのは、良いのが見つかった時に買えばいいし」
「結構良い物見つかる古道具屋あるよ、案内しようか」
ネニトスはこの街の出身だから、穴場も良く知っているそうだ。
それにしても、こんなに人と喋ったの、村を出てから初めてかもしれない。
思い当たると、自分寂し過ぎない? って思うけど、口下手人見知りの僕は友達もなかなか作れないのだ。
同期で同室のやつらとはそこそこ喋るけど、初心者講習が終わった後は、みんなと行動範囲も生活リズムも合わないから話せる機会も少なくなった。
なにせ、同期はみんな先輩たちとパーティを組んでいるから、ダンジョン探索は深層に潜っているし、他の護衛任務などを行っているやつもいる。
話すことと言えば、仲間との連携だの愚痴だの、もう既に寮を出ることを考えて物件探しも話題に出ている。
僕は元から口下手な上に、ぼっちでダンジョン浅層をうろついているだけだし、寮を出るなんて考える余裕もないから、同室の連中との会話では「へーそうなんだー」しか言えない。
ただ会話しているだけで感動しているなんて知られたら、気持ち悪がられるかもしれない。
でも、今言わずしていつ言うんだ! という言葉が僕の頭に閃いた。
「なあ、僕とパーティ組まないか?」
そう言えば、木から作られる紙が流通しているので再生紙とかもあります。羊皮紙もまだまだ現役です。
ファンタジーなので時代とか文化レベルとか気にしないでください。
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