41.グローブもそんなボロボロになって……
一階層でヒベアを狩ったというと、買取カウンターの人も驚いていた。
「F級でヒベアと遭遇したなんて大変でしたね、グローブもそんなボロボロになって……」
言われてから、僕は指ぬきグローブを着けたままだったことを思い出した。人前では着けないようにしようと思ってたのに。
愛想笑いで誤魔化しつつ、そっとグローブを外してポケットに突っ込む。ボロボロになったんじゃないんです、何故か最初からこうなんです、とは言いづらい。
ギルド支部は本部よりも利用者が多かったけど、買取カウンターも広かったから、査定も精算もすぐに済んだ。
ファングタートル二匹とヒベア半分で、儲けは八万イェンほどになった。初級ダンジョンの三倍の儲けに僕は顔がニヤつきそうだ。
しかし、今回みたいな命がけの戦いは御免こうむりたい。命の代償としては八万イェンは安すぎる。
「ありがとう、いつもより稼げた、指は大丈夫か?」
「ぜんぜん大丈夫お気遣いなく」
ネニトスはクローラビット三匹分含めて十万イェン以上の儲けだったようだ。今さっき僕のグローブに気付いたという様子で心配してくれるが、出来れば気付かないでいてほしかった。
「こちらこそ予想以上だった、でも僕にはまだ早かったかも」
ネニトスがいなければ確実に死んでたと思う。今更ながら肝が冷える。
「ヒベアが出るのは珍しい、めげずに挑戦した方がいいよ」
「ありがとう」
ネニトスとはギルド支部で別れた。第一ダンジョンの近くに自宅があるらしい。
僕はもうくたくただし、予想以上の収入があったから、帰りは生まれて初めて転移門を使ってみようと思う。
それでも安く済む定期便を使う。受付で利用料を払うと、行き先と出発時刻の書かれた小さい紙切れを貰った。これが切符らしい。
出発時刻までまだ時間があるから、転移門の建物の中をブラブラする。前世の公共交通と同じで、往復券とかセット券とかもあるらしい。でも流石に通勤定期券はなかった。
「ヨナハンじゃん」
料金表や時刻表を眺めていたら声をかけられた。
振り返ると同期のセシリアがいた。人間の女性でたぶん十代だけど、狩人の両親に鍛えられたそうで、僕よりもずっと大きくてどっしりしている。戦闘力も僕より上だ。
彼女もまだ冒険者ギルドの寮にいるはずだが、女子寮は建物が別だから、初心者講習が終わってからは会うこともなかった。
「久しぶり、一人?」
「うん、今日はもう解散したから、この後ファーラと食事に行くけど」
ファーラも僕らと同期の女性だ。二人は初心者講習で仲良くしてたけど、プロになってからは別のパーティに入ったそうだ。でも、プライベートではよく遊んでいるという。
「ねえ、さっき一緒にいた人とパーティ組んだの?」
ネニトスが去った方向を見て、セシリアが何故かひそひそと訊ねてきた。本人もいないのにヒソヒソする意味がわからない。
「いいや、ダンジョンの中でたまたま共闘しただけ」
「そうなんだ、あの人、半年で二回もパーティ解散させたって有名だよ」
ゴシップネタだからセシリアはヒソヒソしていたのか。僕はその話に眉を顰めた。一応、ネニトスは僕の命の恩人だ。
「そんな問題あるようには見えなかったけど……」
「性格とかに問題はないらしいけど、ホラ、あの見た目じゃん、二回とも女性問題だって」
女性ってどの世界でも恋愛方面の噂話が好きなんだな。
前世でも姉ちゃんは小学生の頃から、誰が告ったとかフラれたとか、付き合ってるとか別れたとか、毎日のように喋ってた。それでいて、本人に彼氏ができたという話しは、大学生になるまで聞いたことはなかったけど。
今世でも、故郷のおばちゃんたちは見合いとか結婚とかの話ばかりしていた。今世については、家事炊事はほぼ人力、食料はほぼ自給自足、田舎での一人暮らしはほぼ不可能だから、結婚結婚煩くなるのはしょうがないとは思う。
僕は恋愛の話は興味ないけど、セシリアは暇なのか勝手に話し出した。
ネニトスが最初に所属していたパーティは、メンバーに女性が二人いて、二人に惚れられて取り合いになって解散したそうだ。
それを教訓に、二回目は女性のいないパーティを選んだそうだが、リーダーが惚れる女性がみんなネニトスに惚れてしまうから、リーダーとの関係がぎすぎすして解散になったという。
「……苦労してんな」
だから、ソロで活動してるって聞いたら話しにくそうにしてたんだな。
女性にモテモテだけど、ぜんぜん羨ましくないモテ方だ。顔が良いのも考え物だ。
「だから、あんたには丁度良いんじゃないの」
「丁度良い? あー……なるほど?」
セシリアは僕がブラックホールを暴走させたのを見ているし、借金を背負っていることも知っている。訳あり同士ならパーティを組めるんじゃないかと言いたいらしい。
「うーん、でも今日たまたま会っただけだからな」
それに、訳ありだからって誘うのは失礼な気がする。特に訳ありの僕に訳あり扱いされたくはないだろう。
「パーティ組んだ方がランク上げはしやすいよ、もうあたしもEに上がるし」
確かに、パーティだと儲けは仲間で分けることになるけど、ソロよりは大物を狙いやすくなる。
それに何より、上級の冒険者と一緒なら、自分のランクでは入れない階層まで行くことができる。セシリアもまだF級だけど、今日は第一ダンジョンの三階層まで下りたそうだ。
ダンジョンは下の階に行くほどモンスターは大きく強くなる。討伐難易度は上がるけど、その分、買取価格も高くなる。
良い先輩に拾ってもらえればきっちり指導してもらえるし、ただの雑用係だって、下の階層に付いて行くだけで経験は積める。
「ま、あんたは魔法の兼ね合いもあるだろうけど、じゃあ頑張ってね」
セシリアはそう言って、僕とは別の発着場に向かった。
同期が既にランクアップが決まっていると聞くと、ちょっと焦る。
僕はまだ生活費で苦労しているのに、冒険者しながらもう遊ぶ余裕があるのも羨ましい。
「パーティ、か……」
指ぬきグローブについては前世の記憶のせいで主人公が過剰反応している感じはあります。
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