40.こうなると譲り合いというより押し付け合いになってきた
「このヒベアどうしようか?」
ネニトスは大きなヒベアの死骸を見下ろして腕を組む。
「ネニトスが狩ったんだから、ネニトスが持っていけばいい」
「え、いやいや止めを刺したのはヨナハンだ、君がいないと俺だって隙をつけなかった」
言う通り、突発的な共闘だったけど、僕は囮役になった後に止めを刺したということになるのか。ものは言い様だ。
「でも、僕だけじゃあのまま殺されてただろうし、それに今日は帰還の輪を買い忘れたから、外まで運ぶのも無理だ」
「あ、帰還の輪……」
どうやらネニトスも帰還の輪を買い忘れていたようだ。それを今思い出したらしい。入場がスムーズ過ぎる弊害だ。
こうなると譲り合いというより押し付け合いになってきた。しかし、ヒベアは放置するには勿体ない収穫だ。
でも、この場で解体するのは難しいし、先に狩っていたファングタートルを捨ててもリュックには入りきらない。
「うーん、俺のバッグにも入りきらないし……」
バッグと言ってもネニトスが持っているのは、腰に下げた小さい袋だけだ。見た目よりも大きなものが入る魔法がかかっているのだろうが、それほど高性能ではないようだ。
「じゃあ、一緒に運んで、儲けは半分にしよう」
ネニトスが提案してきた。
「二人でも運べるかな?」
僕は首を傾げる。目の前に転がるヒベアは推定百五十キロはありそうだ。男二人がかりでも持ち上がりそうにないし、引き摺ると毛皮が傷んで買取価格が下がる。
「これで縛ればなんとか運べると思う」
そう言ってネニトスが腰に下げた袋からロープを取り出した。やっぱり袋よりも取り出したロープの方が大きいから、空間魔法がかかっている袋なのだろう。
しかし、ロープは本当にただのロープに見える。
「縛ったものの重さを半分にできるんだ」
「へえ、便利」
体重が半分になれば七十キロくらいか、それならなんとか持ち上がるだろう。
「でも大きさは変わらないから一緒に運ぼう」
ネニトスの提案に僕も頷いて、ヒベアを縛るのを手伝う。
縛り方はどうでもいいというから、ヒベアの両脇の下にロープを一周させて、ネニトスが片腕で担ぎ上げた。軽々とではないけど、大きなヒベアが持ち上がった。
でも、背の高いネニトスが背負っても足を引き摺ってしまうから、僕がヒベアの両足を持つ。
なんだか僕の方が楽をしているような気がするけど、ファングタートルを入れたリュックも背負っているから、正直有難い。
「ネニトスは他に狩りしなくていいのか?」
「ああ、クローラビットを三匹狩ったから、もう帰ろうと思ってたんだ」
「へえ、すごい」
ネニトスは荷物がないと思ったけど、魔法バッグの中に獲物を入れていたらしい。
ヒベアを縛ったロープを片腕で担いで、もう片方の手で斧を持つネニトスに倣って、僕もヒベアの両足をまとめて脇に抱えて、片手には剣を持つ。運んでいる間もモンスターが出ないとも限らないからな。
「そうでもないよ、あいつは真っ直ぐ正面にしか跳んでこないから、結構狩りやすいんだ、ヨナハンの方こそ他はいいのか?」
背の高いネニトスと大きなヒベアのおかげで、僕からは通路の前方はまったく見えないけど、せっかく二人いるのだから前はネニトスに任せて、僕は後方を警戒して歩く。
一人の時は全方位警戒しないといけなかったから、半分になっただけでも大分楽だ。
「僕もファングタートルを二匹狩って帰るとこだった」
「え? 重くない?」
重いです。あとリュックが大き過ぎて、油断すると後ろに引っ繰り返りそう。
「一応、リュックに重さ三割減の魔法がかかってる」
「そうなんだ、でもすごいな、俺はあの首の動きには付いて行けないんだ、あ、通路右にファングタートル」
通路を一部塞いでいる亀を刺激しないよう、そろりそろりと横を通り抜ける。
歩きながらお喋りできるのも、思った以上に気分が楽になる。真っ暗な中で一人でいるだけで気分が滅入るから、一人でも仲間がいるというのは頼もしいもんだ。
「僕も剣では無理、魔法使ったけどなかなかうまくいかなくて、すっかり魔力切れだ」
「第一ダンジョンは初めて?」
「うん、ソロだから、そう言えばネニトスもソロでやってるんだ」
「あー、うん、まあ、色々あって……」
なんだか微妙な返事の後で会話が途切れてしまった。何か地雷でも踏んでしまっただろうか。僕も魔法のことを突っ込まれると話しづらいからいいけど。
会話は途切れたがもう出口も間近だった。
階段を昇るのがやっぱりしんどかった。
二人でよろよろしながら階段を上る。こんな大物を狩ったら普通は帰還の環で地上に戻るから、大物担いで階段上っている時点で帰還の環を買い忘れたのはバレバレだ。
「頑張れ~」
「帰還の環忘れんなよ」
周りから生温い応援が飛んでくる。こんな時間からでもダンジョンに潜る人は結構いるらしい。僕らを見て慌てて地上に戻っていく人は、きっと帰還の環買い忘れに気付いたのだろう。
「ひえ~重っ」
「ハァ……着いた」
ようやっと地上に出たら、その場でへたり込んでしまった。ギルドの買取カウンターまではもうひと踏ん張りだ。
外に出ればまだ日の沈む時間には早くて、明るい空を見ると、なんだかドッと疲れが押し寄せてきた。
でも身体は軽い。生き残れたという安堵感だ。
魔法バッグには色々なタイプがあります。
だいたい冒険者は細かいことは気にせず容量だけ見てますが、物によっては生き物は入らないとか、鉱物は入らないとか、制約がある場合もあるので購入の際は注意書きを良く読みましょう。
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