4.その聞き方じゃ誤解を招くと思うけど
ここは地下の洞穴のはずなのに、バリバリと暗闇に稲妻が走る様は外の曇天を見るようだった。
僕は必至に踏ん張っていたが、今にも身体が前のめりに倒れてしまいそうだ。
自分の左手には真っ黒い風が渦を巻いている。確かに僕が出したものなのに、それが何なのか僕にはわからないし、その渦は僕をも吸い込まんとしている。
目の前でモンスターが黒い渦に吸い込まれ、跡形もなく消えていく。バチバチと閃く稲妻も黒いのに、何故か光っているように見える。
「ヨナハン! 魔法を停止しろ!」
怒鳴りつけられても、僕にはどうしようもない。
なんでこんなことになっているのか、途方に暮れながら昨日までの平穏な日常を思い返した。
* * * * *
部屋に戻った後、そのまま眠ってしまったようだ。
小鳥がピーチクパーチク囀る音で目を覚ます。
いつの間にか戻っていた同室の連中はまだ眠っているけど、僕はさっさとベッドを出た。
この部屋ではいつも一番に起きるのは僕だ。農家はいつも朝が早かったというのもあるが、込み合う食堂で食事をするのが嫌なのだ。
外の井戸で顔を洗ってから、まだ空いている食堂に入る。朝食はセルフサービス、というかパンとスープしかない。
お盆を持って席に着こうとしたら、初心者講習担当の一人グレンさんが食堂に入ってきた。
「おはようございます」
「おう、あ、おまえ、頭大丈夫か?」
その聞き方じゃ誤解を招くと思うけど、昨日の頭打って気絶した件を言っているのはわかる。
グレンさんは初老というくらいのオッサンで、背は高くないがガッシリした体形をしている。元B級冒険者で、現役引退後に冒険者ギルドに就職したそうだ。
昨日、僕が気絶した講義を担当していたのもグレンさんだった。
「大丈夫です、昨日分の補講をお願いしたいので、今日お部屋にお伺いしてよろしいでしょうか?」
「おまえ……随分お行儀がいいな」
普通にアポ取りをしたつもりだったが、グレンさんは眠そうだった目をギョッと見開いて、こちらを凝視してくる。
うっかり前世の記憶に釣られてしまったが、田舎の農家の倅がビジネスマナーなんて知るはずもなかった。
冒険者を目指すような人間はどっちかと言えば荒くれ者だから、補講をお願いするのも、講師の部屋に突撃して「補講お願いしやーす!」と元気だけを取り柄に頼むのが普通だ。
「商家の丁稚でもやってたのか?」
「えー、いやー……村長のところで、ちょっと行儀を教わっただけです」
この世界は労働基準法なんてないから、貧しい家なら十歳くらいで子供を奉公に出すのも珍しくない。
ただ、子供に行儀を教えるような真っ当な商家に雇われたなら、普通はそのままそこで働き続ける。わざわざ安定収入を捨てて冒険者になろうなんてやつはいない。
「へー、面倒見の良い村長だったんだな」
グレンさんはとりあえず納得してくれた。この五日間は毎日顔を合わせているが、プライベートの話しはしたことがない。講習生たちの詳しい内情なんて興味はないのだろう。
「それで、補講は……」
「ああ、今日の午後は自習だから、そん時な」
「ありがとうございます」
礼を言ってから僕はそそくさと端っこの席に着く。元より口下手だから誰かと仲良く食事をとろうとは思わない。だから、こんな朝早くスカスカの食堂を狙っているのだ。
食事の後は講義室で講習会の資料を眺めて時間を潰す。資料は持ち出し禁止だが、講義室での閲覧は自由だ。勿論、汚損した場合は罰がある。
そのうち、他の講習生たちも集まってきた。
講習生は十二人、初心者講習は半年に一回のペースで開催しているから、この人数は多くも少なくもないらしい。
男性が九人と女性が三人だ。種族は人間や獣人や亜人やハーフが混在している。
僕の生まれた村はほぼ人間の村だったから、この街に出てから亜人や獣人を見た時は驚いたものだ。
村にはせいぜいオークの血が混ざっているという家族がいたが、混血してほとんど人間になっていたから、ちょっと身体の大きいだけの人だった。
年齢も結構バラバラだと思うけど、これについては種族によって寿命が違うからよくわからない。人間の講習生たちは、たぶん僕と同じくらいの十代後半が多い。
「よーし全員集まっているな」
講義の始まる時間に入ってきたのは、初心者講習担当のレヴィさんだ。まだ若々しい男性で現役のA級冒険者だが、今は足を怪我しているので、療養を兼ねてギルド内でアルバイトしているそうだ。
「今日の実力検査を担当してくれる鑑定士のアルバートさんだ、ギルドの買取カウンターにいるから、おまえらも今後世話になることがあるだろう」
レヴィさんと一緒に入ってきたのは、ひょろっとしたノッポの男だった。確かに、冒険者ギルドの受付の方で見かけたことはある。
「今日はそれぞれの実力を鑑定してもらい、属性について復習するだけで終わり、午後は明日の実地訓練の準備をしてさっさと休め」
「では早速、一人ずつ鑑定を始めます」
鑑定についての説明はほぼなく、アルバートさんは前に座っているやつから順番に鑑定を始めた。
それというのも、ここで出来る実力検査なんて、極々基本的なことしかわからないからだ。
冒険者ギルドの隣にある教会に行けば、もっと詳しく調べることはできるそうだが、有料だ。
どうでもいい情報ですが、グレンさんはバツイチで男手一つで息子と娘を育て上げました。
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