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闇属性の方向性  作者: 稲垣コウ
ステップアップ…?
37/47

37.駄目だこりゃ

 危険と言えば、見るからに罠っぽい石畳の凹んだところや、色の違う壁があったくらいだ。今はまだ余裕ないけど、ここに慣れたら隠し通路とか探してみたい。


 突き当りを左に曲がって奥に向かうと、一マスほど進んだところに丸い石みたいなものがあった。


 ファングタートルだ。第一ダンジョンの一階層で最も多いモンスターだ。


 名前の通り牙のある亀、ほぼカミツキガメだ。甲羅だけでも五十センチくらいあって結構大きい。

 でもほとんど動かない。周囲に生き物がいると甲羅の中に閉じ籠り、正面に近付いたところを頭だけ出して噛みついてくる。噛みつく力は強く、腕とか簡単に食いちぎられるらしい。歩くのは遅いのに首の動きだけは異様に速いという。


 僕はファングタートルの頭が届く範囲に入らないよう注意しながら、ぐるりと見て回ってカメの前後を見極める。


 完全に甲羅に籠っていると見た目は石そのものだ。手足が出る穴は甲羅の下にあるし、頭の出る穴は首を引っ込めていると蓋が閉まるように固くなるから、穴から武器を突き刺すことはできない。


 ファングタートルの甲羅は非常に硬いし、火にも氷にも強い。防具の材料として売れる。肉は美味しくないそうだけど、内臓が薬の材料になるから甲羅以外も売れるそうだ。


 甲羅や身体を傷付けずに倒す方法は一つ、頭を出した瞬間に首を落とす。


 試しに、僕は剣を構えて甲羅の横の方に立ち、頭が飛び出すところに小石を投げてみた。

 小石が地面に落ちた瞬間、ガチンッと金属がぶつかるような音がして、何かが飛び出した気がした。


 気が付けば、投げた小石は粉々になっていた。


 頭を出したはずのファングタートルは、相変わらずただの石のように通路の片隅に転がっている。剣を振り下ろすどころか、頭は残像しか見えなかった。


「駄目だこりゃ」


 僕は早々に剣をしまった。


 ファングタートルは頭だけ注意していればいいから、初心者向けのモンスターと言われているけれど、ファングタートルの噛みつきに追いつける剣士もなかなかいない。


 一般的には、何か物凄く硬いものにトリモチを付けて、それを噛ませてくっ付いている間に首を切るのだが、ファングタートルは人の太腿ほどもある金棒すら噛み砕くというから、牙に敵う物を用意するのが難しい。


 そんなわけで、僕は魔法を使ってみることにした。

 人前ではあまり使いたくない指ぬきグローブを装着する。魔法の封印は左てだけなのに、グローブは何故か両手に嵌めないと効力を発揮しないことは検証済みだ。


 それから、ブラックホール小を出してみる。

 出力調整は問題ないようだ。


 でも、さっき残像で見た限りだけど、ファングタートルの頭は思ったより大きく見えた。首も予想以上に長かった気がするので、ブラックホール中にしておいた方がいいかもしれない。


 僕はしゃがみ込んで、左手にブラックホール中を出しながら、慎重にファングタートルの正面から近づく。

 あまり長いこと出しているのも魔力の無駄遣いだけど、片腕食いちぎられたら死ぬかもしれないし、四肢欠損は教会でも元通りにできない可能性がある。


 ビビりながら、じりじりと左手を近づけていたら、ファングタートルが動いた。


「ぅひっ」

 思わず左手を引っ込めてしまった。手を握りしめた瞬間にブラックホールも消えていたのは、たぶんグローブのおかげだろう。


 真正面にいたはずのファングタートルはと言えば、身体が半分になっていた。

 失敗だ。


「う、うわぁ~」

 自分のやらかしたことではあるけど、ドリルで引き裂いたような、生き物のぐちゃぐちゃになった断面はグロかった。


 ミニコカトリスの頭とか切り落としてきたから、もう解体も慣れたと思っていたけど、内臓が飛び出しているようなものはまだ駄目みたいだ。


「ううう……ごめんなさい……」

 僕はそっちを見ないようにしながら、ファングタートルの残骸も全部ブラックホールで吸い込む。放っておけばダンジョンに吸収されるけど、大きな亀の下半身だけ落ちている横を通れる気がしなかった。


 第一ダンジョンでの初めての狩りは失敗したけど、これでファングタートルにブラックホール中は大き過ぎることがわかった。

 それに、首だけ動いているように見えたけど、どうやら大きな獲物に対しては、身体ごと前のめりに飛び出しているようだから、間合いを測るのもなかなか難しそうだ。


 もう一度ファングタートルの習性を思い返してみる。

 とにかく動くものに反応して噛みついてくる。基本は正面だけど、横に首を伸ばしてくることもあるらしい。あとは、人間くらいの生き物なら腹を噛みつかれることが多い。


 流石はモンスター、ちょっと噛みついて肉を食ってやろうというのではなく、確実に食い殺す気できている。恐い。


 でも、つまり、人間相手だと、上の方に首を伸ばしてくるということだ。


 今はファングタートルの頭が出る穴の高さに合わせて近付いたけど、腹あたりを狙ってくるなら、しゃがむ必要はなかったのかもしれない。


 狩りのやり方を考え直してから、僕は再び通路の奥へ進む。


 一階層によく出るモンスターは、他にはクローラビットくらいだ。

 こちらも名前の通り、後ろ足に鋭い鉤爪のある肉食のウサギだ。素早くてジャンプ力もあるけど、生き物の多いところに向かうという習性があるため、一人で歩いている時はあまり遭遇しないらしい。

第一ダンジョン一階層に入れるのは北口だけです。他の入り口は下の階層へ直通なので主人公はまだ利用できません。


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