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闇属性の方向性  作者: 稲垣コウ
ステップアップ…?
35/47

35.と、都会こわ……

「あんたルビウスに来たばかりかい?」

 僕の呟きに、傍に立っていた知らない男が反応した。何やら熱心に素人歌唱を聞いていた青年だ。


「は、はい、中心街に来たのは初めてで……」

「そうなんだ、良い時期に来たね! これは町娘コンテストだよ!」

「まちむすめ、コンテスト?」


 僕は眼が点になったけど、青年は何枚ものビラを見せて説明してくれた。ビラは全部違う店のものだった。


「まだ始まって二年目だけどね、ルビウスの街にある店がそれぞれ自慢の可愛い店員を出してきて、一番の町娘を投票で決めるんだよ」


 説明しながら青年はずらずらと名前の書かれた紙をくれる。町娘コンテストの出場者一覧らしい。


 店名と出場者の名前しか書いてないから、どんな子が出ているのかはわからないけど、店名を見ると食堂とか居酒屋だけじゃなく、八百屋や道具屋や薬屋、床屋だの洗濯屋なんて店名もある。

 個人事業ならどこでも参加できるそうだ。出場者も店主の妻や娘、女店主本人というのもいるし、何人かいる女性従業員から一番可愛い子を選出したという店もあるらしい。


「朝から色んな店が宣伝しているから見てみるといいよ」

 言われてみれば、ここ以外にも色んなところに人だかりができていて、演奏が聞こえてきたりする。


 よく聞いてみればどの歌も「うちの店の酒は美味い」とか「なんでも揃うよ国一番の道具屋」とか、CMソングみたいな歌詞だ。

 歌以外にも踊っていたり、職人技を披露していたり、おすすめ商品の実演をしていたり、大道芸とは趣が大分違う。


 言うなればアイドル総選挙みたいなものか。江戸時代の看板娘番付の方が近い気もする。

 よく見ればファンクラブとか応援団みたいな集団もいて、説明してくれたお兄さんも合わせて、前世のアイドルオタクを彷彿とさせる。


「けっ、どいつもこいつも素人ばっか、ナナトちゃんの足元にも及ばないぜ」


 そして、こういうお祭り騒ぎの場には、必ずヘイトがいるのも世界共通らしい。

 食堂の店員さんの歌に唾を吐いているオッサンがいるけど、素人なのはその通りなんだから貶し文句にはならないと思う。


「ナナトちゃん……?」

 出場者一覧を見てもそんな名前は見つからない。


「ナナトちゃんは伝説的な町娘さ、このコンテストが始まる切っ掛けになったパン屋の店員さんで圧倒的な可愛さとパフォーマンス力を誇りファンクラブ文化も生み出したのに四年前にぱったりと姿を消してしまった謎多き美少女だよ今でも根強いファンがいるね」


 説明のお兄さんが早口で説明してくれた。助かるけどちょっと怖い。


 つまり、ナナトちゃんとはめちゃくちゃ可愛いパン屋の店員さんで、町娘ブームの火付け役にもなったけど、四年前に消えたということは、コンテストに参加したことはないと。


 ヘイトを呟いてたオッサンは、素人ばっかとか言ってたけど、ナナトちゃんもとどのつまり素人の一般人じゃんか。


「かくいう僕もナナトちゃんのおかげで町娘の追っかけに目覚めた口さ、複製だけどナナトちゃんのポートレイトをどうぞ、ナナトちゃんフォーエバー」

「あ、ありがとうございます……」


 説明のお兄さんはポートレイトを押し付けて去っていった。


 写真というものがないから、ポートレイトは小さな似顔絵だけど、結構リアルに描かれている。


 この絵が実物の通りなら、ナナトちゃんは本当に美少女だったのだろう。

 単色だから色はわからないけど、色素の薄そうな巻き毛に、色素の薄そうな大きな目に、小さい鼻と小さい口、少女漫画に出てきそうな可憐な少女だ。耳がちょっと尖がっているから、エルフか妖精系の血が混ざっているのかもしれない。


 僕はアイドル方面にはそれほど興味はないし、ましてや一般人の女の子を追いかけるのもどうかと思うから、ただ美少女だなと思うだけだけど。


 貰ってしまったビラとかポートレイトは、扱いに困ってとりあえず財布に突っ込んでおく。

 いかんいかん、うっかり観光気分になっていたけど、僕の目的は第一ダンジョンだ。こんなところで遊んでいる暇も金もない。


 賑やかさを振り切るように大通りを抜けようとしたけど、人が多過ぎてなかなか前に進めない。

 更には、馬車のたくさん行き交う道に信号機はない。みんな馬車の合間合間を、自力で見極めて道を渡っている。


 勿論、田舎もんの僕に、馬車の通り過ぎるタイミングを計るなんてスキルはない。


 横断歩道のない道を見ていると、前世で亡くなる間際の長期出張を思い出す。

 あの頃も僕は、外国の横断歩道のない道路を渡れなくて、現地スタッフたちに笑われて、休日でも社員寮からあまり出られなくなった苦い思い出がある。


 通りをキョロキョロして、何度も二の足を踏んで、もうわけがわからなくて、通り抜けていく人の後を追いかけてどうにか対岸へと辿り着いた。

 ダンジョンで初めてモンスター倒した時よりも緊張したかもしれない。


「と、都会こわ……」


 中心街、活気があるのは結構だが、朝っぱらから色々疲れてしまった。

 今度からは交通費をケチらずに転移門を使おう。

町娘コンテストは町内会とか商店街組合とかが集まって開催している下町イベントなので、貴族などにはあまり知られていないです。領主様は、どうだろう……


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