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闇属性の方向性  作者: 稲垣コウ
ステップアップ…?
34/47

34.屋台はコンビニみたいな感覚なのだろうか

 この国にも新聞というものがあるけど、定期刊行ではなく、何か大きなネタがあった時だけ売り出されるようだ。その他の情報は週刊誌とか月刊誌として売っている。

 魔法があるとはいえ、基本的に移動は馬か徒歩だし、情報伝達は人伝えか手紙だから、前世みたいに毎日朝夕新聞を作るなんてことはできないのだろう。


 僕は新聞を買う気はないけど、大ニュースは気になるので、新聞を買った人たちの会話に耳を傍立たせてみる。


「アルージュで暴動か」

「あそこは工場街だろう、よっぽど給料をケチったのか」

「いいや、工場の連中の仕業じゃないらしいぜ」

「ほら、王都の方で騒いでるだろ」

「王位継承争いか?」

「なんだってまた、そんなもんがこんな田舎で」


 どうやら、王都での王位継承争いのごたごたで、アルージュの街でも暴動があったらしい。


 なるほどな。僕には全く関係ない話題なので、聞き耳を止めてその場を離れた。


 王位継承争いなんてお国の一大事ではあるのだが、さっき新聞を読んで駄弁っていたオッサンたち同様、こんな田舎にはぜんぜん関係ない話しだ。

 ルビウスの街はこのあたりでは大きな街ではあるけど、王都からはかなりの距離がある。ダンジョンのおかげでそこそこ栄えてはいたって、王都から見れば取るに足らない地方都市だ。


 領主様やその周辺の貴族たちにとっては大いに関わる問題かもしれないけど、王族どころか領主にも会う機会がない一般庶民にとっては、王位継承争いなんて御伽噺くらい現実味のない話しだ。王様なんて暴君や暗君じゃなければ誰でもいい。


 それに、アルージュの街も、ルビウスから遠くはないが近くもない街だ。工場を中心に栄えているというが、僕は何の工場があるのかすら知らない。そんなところで暴動があったって所詮は他人事だった。


 ただ、ちょっと、数日前の真夜中に見た、怪しげな取引が頭を掠めたけど、それもまあ、だからどうすんだって話だ。

 誰か知らないやつが何かわからない取引をしてました、なんてどこに通報すればいいかもわからない。なんの後ろ盾もない一般市民は、関係ないことに首を突っ込まないのが吉だ。


 歩いているとだんだん人通りは増えてきて、大通りを抜けると、もっと大きな通りに出た。

 この世界では二車線くらいの通りが一番広い道だと思ってた。そんな田舎もんの僕の目の前に、いきなり四車線よりも広い道が現れたのだ。


「お、おお……!!」

 これはもう、田舎もん丸出しだろうと、ただただ道の広さと建物の大きさと人の多さに目を丸くするしかない。


 いや、前世の都心の方がぜんぜん人も多いし建物も大きかったんだけど、なにせ今世はド田舎出身の若僧だ。田舎には畑と森しかなかったし、会う人全員知り合いだった。


 馬車が何台も行き交っている光景なんて初めて見る。大きな道の両脇に、ずらっと背の高い建物が並んでいる光景も初めて見る。


 たぶん、今は通勤時間なのだろうが、道の両脇には食べ物を売る屋台がたくさん並んでいる。屋台で朝食を食べたり、もしくは昼食を買って行ったりする人が多いようだ。


 道行く人も、屋台でものを売る人も、色んな種族が入り混じっている。

 馬車を引いている生き物だって、馬だけじゃなく大きな鹿みたいな生き物や、ヤギみたいな生き物、見るからに肉食獣っぽい生き物までいる。


 でも、特に事故もなく、みんな整然と移動しているし商売している。


 僕はこんなところで買い食いしてる余裕はないけど、キョロキョロするのを止められない。

 屋台は飯屋が多いけど、中には靴磨きとか髭剃りとかの店もあるし、冒険者の多い街らしく、防具磨きだの武器研ぎなんて看板もある。回復薬や治療薬を売っている店もあった。


「へえ、忘れ物があっても安心……」


 なんて思ったけど、値段を見ると、どれも道具屋で買うよりもお高めだ。

 屋台はコンビニみたいな感覚なのだろうか。急遽必要になった時とか、準備は当日行うズボラな人向けなのだろう。やっぱり事前に準備するに越したことはない。


 屋台を眺めながら歩いていたら、広場のようなところに出た。そこも仕事に向かう人や馬車がたくさん行き交っていたが、中には人だかりができて楽器を奏でる音も聞こえる。


 大道芸は休日とかお祭りの日にやっているもんだと思ったけど、僕は好奇心を抑えきれず、フラフラと人の集まっている方へ足が向いてしまう。


 人だかりの中央にいたのは、芸人というには少々地味な女の子が歌っていて、何故か料理人風の男性がアコーディオンの小さいやつを奏でている。

 歌も演奏もすごく上手いわけじゃないし、女の子も可愛いけど普通、料理人の男性も男前だけど普通という見てくれだ。


 客に混ざっていたから気付かなかったけど、エプロンを付けた子供がビラのようなものを配っていた。こちらも見習い芸人というより、厨房の手伝いみたいな子だ。


「ベギッド食堂のマルーナちゃんをよろしく!! ホラあんたも、マルーナちゃんをよろしく!!」

 子供に押し付けられるように紙切れを貰った。


 判子で押したみたいな簡素な印刷で、ベギッド食堂の文字と、マルーナちゃんと思しき女の子の絵、あとは店の住所とか名物料理とかが隅っこに書かれている。

 これを見るに、今歌っている女の子がマルーナちゃんなのだろう。アコーディオン奏者とビラ配りの子供は、本当に食堂の店員のようだ。


 気になるのはビラの中央に書かれた「投票よろしくね」の文字だ。


「なにこれ?」

ルビウスの中心街は台所がない家も珍しくないので、食事は屋台で買い食いが一般的です。


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