33.街の再開発に乗り遅れた市役所みたいだ
遺跡のような地下通路は真っ暗で、僕のライトの灯りだけが勢いよく躍っていた。
息も絶え絶え、心臓も爆発しそうだし、足も動かし過ぎて痛みすら感じる。
だが、走るのを止めるわけにはいかない。
僕の背後には人生最大級の危機が迫っており、今の僕には走って逃げる他にこの窮地を脱する術はない。
「し、死ぬ……っ、しぬぅ……?!」
ドスンドスンと重たい足音は確実に近くなっている。己の力不足を痛感し、最悪の事態が頭を過った。
だがしかし、これは僕が掛け替えのない仲間を得るための試練だったのだと思う。
……そう、思いたかった。
* * * * *
見た目ガッカリだけど、ようやく魔法の制御アイテムを手に入れた僕は、早速ルビウス第一ダンジョンに挑戦するつもりだ。
いつもの中古品装備を付けて朝の早くから寮を出た。
なにせ、第一ダンジョンは冒険者ギルドから一番離れているダンジョンなのだ。
ダンジョンを管理するのも冒険者ギルドの仕事なのに、どうして街の周辺の一番大きなダンジョンが、ギルド本部から一番離れているのかというと、これは街の発展の順番のせいだ。
まず、このルビウスという街は、王都への街道沿いにできた宿場町が起源である。
街道は大陸の外れの魔物の森まで繋がっており、王都から魔物の森へ行く冒険者の行き来も多かったから、途中の宿場町ルビウスにも冒険者ギルドが建てられた。
その後で、ルビウス周辺でダンジョンが発見され、ダンジョンで獲れる素材などを求め人が集まり、ルビウスは大きな街へと発展したのである。
ルビウスの冒険者ギルドの本部は宿場町の頃は街道沿いにあったが、街が大きくなるにつれメインストリートも変わっていった。だというのに、ギルド本部の場所は変わらなかったから、現在は微妙に交通の便が悪く寂れた場所に建っているというわけだ。
街の再開発に乗り遅れた市役所みたいだ。何度か本部を移転しようという話しも出たらしいが、土地の権利関係とか移転費用とかでごたごたして未だ叶っていない。
僕はまだ見たことないけど、第一ダンジョン北口にある冒険者ギルド支部の方が新しくて綺麗だそうだ。本部より第三ダンジョンへも近いから、支部の方が本部と間違われることもあるらしい。
本部の方が寮とか食堂とか訓練場とかあるから大きいんだけど、なんせ建物が古くて立地が悪い。近くに遊ぶ場所がないのは、新人の教育には良いのかもしれない。
というわけで、本部の寮住まいの僕は、朝早くに出発するか、第一ダンジョン近くで前泊でもしないと、まともにダンジョン探索をしている時間が無くなるのである。そして僕に宿に泊まるような金の余裕はない。
大抵ギルド本部の近くに住む人は、第一ダンジョンに行く時は転移門を使うらしいが、こちらも金がかかるので僕は徒歩を選んだ。
転移門とは街中で唯一転移魔法を使える場所だ。
街中では基本的に転移魔法の使用は禁止されている。人や建物が多いと衝突事故の危険性があるし、犯罪者の不法侵入や逃走などの可能性もあるからだ。
だが、街中でも転移門から転移門への移動だけは魔法の使用を許されていた。
基本的には人の行き来だけど、荷物の転移を行うこともある。魔法使いなら自力で転移魔法を使ってもいいし、転移魔法を使えない人でも、常駐している魔法使いに転移してもらうこともできる。
転移門の利用料は、常駐魔法使いに転移してもらうなら、時間が決まっていて集団で転移する定期便で五百イェン、即時単独で転移する特急便で千イェンだ。自力で転移魔法を使うなら三百イェンになる。
大荷物を持っていたり荷物だけ転移する場合は、荷物の大きさや重さで料金が変わるらしい。
ルビウスの街中に転移門は四か所ある。冒険者ギルドの近くにもあるし、第一ダンジョンは目の前に転移門があるという。
今日初めて冒険者ギルド近くの転移門を見てみたけど、それほどファンタジー感はなかった。
門というより、線路のない駅舎だ。小さい建物の中には、受付と発着場が一つと到着場が一つあるだけだった。
まず受付で行き先や目的や荷物の有無を伝えて料金を払い、あとは発着場から転移する。
一応、逃亡中の犯罪者じゃないかとか、魔法発動中に悪さをしないかとかを確認するため、利用の目的も聞かれるそうだが、そこまで厳密な審査があるわけではない。
到着場は、着いた人数を数えればすぐに外に出られる。
稀に転移魔法が失敗して、発着した時と到着した時の人数が違うことがあるそうだ。転移中に行方不明になった場合、即座に捜索するけど見つからないこともあるという。でも、そんなのは滅多にない大事故だ。
同じ制服を着た魔法使いが数人で魔法を発動し、人が消えたり現れたりしている光景はすごいと思うけど、全体的にシステマチックで、やっぱりファンタジーっぽさは薄いんだよな。
いずれ使ってみたいとは思うけど、今は節約だ。街の中心街を見てみたいというのもある。
「大ニュースだよ! 大ニュースだよ!」
転移門を通り過ぎようと思ったら、新聞売りの少年が道端で大声を出していた。
転移門はルビウスの街中には四か所ですが、街の外に都市間を繋ぐ長距離用転移門もあります。
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