32.ドラゴン柄への憧れは小学校くらいで卒業している
僕は観念するしかなかった。
何が起きるかわからないから、誰もいない森の中で、昨日手に入れたアイテムを試してみることにしたのだが、結果は予想通りだった。
「うわ、制御できた……」
空に向かってブラックホールを発動して、小さくなれと念じたら、黒い渦が掌にのる程度の大きさに萎んだ。
そこらにあった人の頭くらいの大きさの石に左手を翳し、小さめと念じながらブラックホールを出してみれば、だいたい石だけが吸い込まれた。
石の下の土も少し抉れたけど、今まで周囲のものを手当たり次第に吸い込んでたブラックホール大より、各段に被害は抑えられるようになった。
ブラックホール小をもっと小さくはできなかったけど、もう少し大きくと念じたら、大と小の間くらいの大きさにもなった。
ブラックホール大よりも大きいのは出せなかったし、大と小の間も細かく大きさを変えるということはできなかった。
しかし、最大出力で発動と停止しかできなかったブラックホールが、グローブを着けていたら、大中小くらいの出力調整ができるようになった。これは大きな進歩だ。
このアイテムが僕のために出現したことは、認めざるを得ないらしい。
喜ばしい結果なのに、僕は手に嵌めたグローブを見て微妙な表情になる。
ギラギラと黒光りする生地、無駄に尖った銀の鋲、謎めいた雰囲気の意味のない古代文字、それらが僕の鍛えてもいなければ整えてもいない手先と、酷くミスマッチだ。
それに僕は黒革のグローブに合うような服も持ってない。着られれば良しというだけの古着しか持ってない。
冒険者になってから傷みも激しくなり、服の六割くらいがパッチワークみたいになってるけど、まだまだ着続けるつもりだ。勿論、修繕は自分でチクチク縫っている。
だから、ボロ布の如き服装の中で、新品ピカピカのグローブが浮いている。持っている装備も全部中古品だから、防具を着けていたってグローブが浮く。
それに、例え高級な服屋に行っても、この格好付け過ぎて逆に格好悪い装備に合う服なんか作ってもらえるかどうか。
「いや作らないし、いらないし」
例え金があろうとも、お洒落をする余裕があろうとも、黒革の指ぬきグローブに合うような服をオーダーする気はない。
そもそもこのグローブに合う服ってなんだ。袖をむしり取られた革ジャンか、黒いロングコートか、し〇むらに売ってるドラゴン柄のパーカーか。
どれも絶対着たくない。何故なら好みじゃないから。
前世の小学生の頃に、学校で購入する裁縫セットにドラゴン柄を選択したが、いつの間にか親が無地に変更していた覚えがある。当時こそただの水色の裁縫箱ダセェと思ったけど、大人になってから思うと母ちゃんグッジョブだ。
ドラゴン柄への憧れは小学校くらいで卒業している。
今更、こんな古傷を抉られるとは思わなかった。
左手を封印している布や刻印はまだとれていないから、左手は包帯の上に黒革のグローブを付けている状態だ。
魔法を使いこなせるようになったら封印は勝手に解けるそうだけど、どういうふうに解けるのかはよくわからない。たぶん、まだ封印は解けていない気がする。
そんな左手に、更に黒革の指ぬきグローブを嵌めているわけで、これで鎖とか巻いたら、いよいよ完成だと思う。
完成させたくない。
そういう方向性はいらない。
街中の常識を調べるため、ちょっと道具屋などを覗いてみたが、この世界にはまだ指ぬきグローブというものはなさそうだった。
そりゃあ革の手袋と言えば防具か防寒具、指先なんて一番護りたい部分なんだから、指の部分がない手袋なんて使う意味がない。
一部の細工師とか、手は保護したいけど指先の感覚が大事という職業だと、指のところを切り落とした手袋を使うらしい。それも需要は少ないから、最初から指の部分がない手袋なんて作られていなかった。
僕は細工師でも何でもないから、なんでグローブに指がないのか聞かれても答えようがない。僕の方こそ、ダンジョンが何を思ってこんなデザインを出してきたのか問い質したい。
「エルンさんのアドバイスなんて聞く気はないのに……」
謎の力によって、僕のキャラ付けの外堀が埋められているような気がする。
しかし、僕はまだ認めない。闇属性にはこの方向性しかないとは限らない。
なにより、このグローブを日常使いする勇気は、僕にはない!
「ダンジョンの中だけで使おう」
僕はグローブを外してポケットに突っ込んだ。
特定の企業を貶めようという意図はありません。主人公の好みじゃないだけです。
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