31.闇属性って、こういう方向性なのかよ!?
息も整わないまま、影の中を泳ぎ、頭を出して咳き込んでは影に潜り移動するを何度か繰り返す。
ライトを消していればダンジョン内はどこからでも出入りできるけど、影から出ると真っ暗だから、足音だけでミディアムフットの接近を把握しなければならない。初手で片足に怪我を負わせたおかげで、何とか逃げきれてはいる。
でも逃げているだけじゃ倒せない。
咳が治まってから、ミディアムフットの背後に回り込む。そこから狙いを定めて、上半身だけ影から飛び出し、ミディアムフットの脇腹に剣を突き立てた。
「おおあっ?!」
今度はミディアムフットの声に惑わされず、即座に影の中へ回避する。
一撃だけではまだ暴れているから、のた打ち回る手足を避けながら、もう一度影の中から腕だけ出して剣を突き刺した。
距離を取ってからシャドウウォークを解除して、ライトを点ける。
しばらくミディアムフットを睨んでいたが、もう動く様子はなかった。
「ぃ、よっしゃあ!」
久しぶりに拳を掲げた。危なげあり過ぎだけど、一人で初級ダンジョンの最強モンスターを撃破した。僕に怪我もないし、上出来だと思う。
そう、このミディアムフットがルビウス第二ダンジョンの最強モンスターとされている。そもそも、ここに出るモンスターはネズミとコウモリとモグラと虫と鶏、あとミディアムフットだけだ。
下に行くとネズミとコウモリがどんどん大きくなるそうだけど、それだけだ。ミニコカトリスやミディアムフットは、下に行っても大きくならないらしい。大きくなったら、ミニじゃなくなるしミディアムでもなくなるからね。
だから、ここは常に人がいない不人気ダンジョンなのだ。
ミディアムフットを倒せたら、第一ダンジョンに挑戦しようと思ってた。
さて、ミディアムフットは身長こそ僕より低いが、体重は僕の倍はある。運ぶのはキツいから、ここから帰還の輪で地上に戻ることにする。
「あ、ナイフ……」
最初に落としたナイフを探さなければ。
怪我はないものの、シャドウウォークを使い続けたせいかへとへとだ。でも、ライトを点けていても照らせる範囲は限られるから、影に潜った方が探し易いかもしれない。
そう思ってライトを消した瞬間、ぽてっと頭の上に何かが落ちてきた。
「ひょわっ?!」
間抜けな悲鳴を上げて飛び退いてしまった。
周りにモンスターの姿はなかったはずだけど、例え小さなコウモリでも突然頭に当たったらビビる。
情けなくも反射的に影の中に潜っていたが、落ちてきた謎の物体は動く気配がない。大きさからしてネズミかコウモリみたいだし、ビビり過ぎてしまったようだ。誰もいないけど恥ずかしい。
ついでに影の中から目的のナイフを見つけたから、地上に戻ってナイフを取り、謎の物体にライトを向けた。
「あ! これはもしかして……ダンジョンアイテム!」
ぜんぜん出ないから忘れていたけど、ダンジョンの中では稀にアイテムが出ることがあるらしい。
どんなふうに出現するのか知らなかったから、勝手に前世のゲームみたいな、宝箱がそこらに置いてあるのを想像していたけど、こんな唐突に降って湧くとは思わなかった。
落ちているアイテムは小さい。柔らかそうだから武器の類ではなさそう。黒くてツヤツヤしていて、一見、虫かヘビみたいにも見えるから、僕は恐る恐る手を伸ばした。
「こ、これは……!!」
拾い上げれば何かはすぐにわかった。
しかし、僕はその正体にショックを受けた。
正確には、正体がわかった瞬間に、嫌な予感も的中してしまったことがわかりショックを受けた。
「うわあああああ黒革の指ぬきグローブ!!」
どこからどう見ても、それは黒い革で作られた、何故か指の部分がない、つやつやとした手袋だった。
今世では見たことがない。前世でも実物は見たことがない。
なにせこれは、ヒーローとかライダーとか有名作家とか、とにかく許されし者しか使いこなすことができないピーキーなアイテムだったのだ。
もしも、勘違いしてイキッた中学生が身に着けて登校しようものなら、クラス中から「うわダッセェ」という視線を集めてしまう。恐ろしき中二病アイテムの代表格である。
いや、でも、前世でも普通に実用品として指ぬきグローブを使っている人もいたから、一概に中二病アイテム扱いは良くない。このグローブだってダンジョンアイテムなのだから、きっと実用的にこういうデザインになったはず……
と考えようとしたけど、無理だった。だって手首のところに尖った銀の鋲とか並んでるし、手の甲に無駄に凝った飾り文字が刻印されてるし。
古代文字だけど、闇属性の僕には読めてしまうのだ。
『闇』って書いてある。
闇属性のアイテムに『闇』って、意味ある? 絶対意味ないだろ。古道具屋で他属性の魔法アイテム見たことあるけど、火とか土とか書いてあるアイテム見たことないもん。絶対格好良さ重視で適当にそれっぽい文字入れただけだろ。
僕は黒革の指ぬきグローブを見つめて、頭を抱えた。
闇魔法の呪文を見た時から、薄々危機感は覚えていた。封印されし左手を得てからは、どんどん危機感は増していたが、出来るだけ目を反らしてきた。
しかし、これはもう、逃げることも言い訳することも許されないようだ。
ダンジョンの中で、僕だけがいるところに現れたということは、僕用のアイテムであることは間違いないのだから。
「闇属性って、こういう方向性なのかよ!?」
影の中で闇飲んだ時は特に何も飲んでません。空気ないところで息しようとするから咽てるだけです。
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