30.ハーブティーだと言い聞かせれば飲めなくもない不味さだ
ミニコカトリスが動かなくなってから、羽を切り落としてリュックに詰め込む。ちゃんと切れる剣を持ってからはモンスターの解体にも手間取らなくなった。
ついでに、この中古のリュックは中に入れたものの重さを三割軽減してくれる、という微妙な魔法がかかっている。
あくまでリュックに入っているものの重さ軽減だから、多少はみ出る分には問題ないが、ミニコカトリスを丸ごとリュックに引っかけても重さは変わらない。
魔法バックは他にも、完全に重さを無くすやつとか、見た目以上に容量があるやつとか、時間を止めるようなものまであるらしいけど、僕の貧弱な財布では手が出なかった。
重量七割なら頭と羽くらい重たくも感じない。僕の筋力も上がっているのかもしれない。
その後もオオネズミやオオコウモリを狩りつつ、四階層まで辿り着いた。
上よりも魔力が少し濃くなっているような気がする。魔力感知とかよく知らんから、ただの気のせいかもしれない。
階段を下りたところでちょっと休憩、立ったまま買ってきた携帯食料を齧る。
冒険者ギルドの食堂で貰えるパンだけでは腹持ちしないので、最近は携帯食料のビスケットを買っている。味は二の次で栄養補給だけを目的としたビスケットは、硬くて甘くてしょっぱくてざらざらしてて、食えなくはない不味さだ。
それを下級回復薬を水代わりにして腹に収める。下級回復薬も苦くて酸っぱい液体だけど、ハーブティーだと言い聞かせれば飲めなくもない不味さだ。
今世では貧乏農家の生まれなので、舌など肥えるようなものは食べたことがないけど、前世を思い出してからは、食事が味気なくてしょうがない。
ギルドの食堂もメニューは三パターンくらいをヘビロテだし、基本的には腹が膨れれば何でもいいという考えだ。
ギルド周辺の飯屋を見ても、質より量と安さという店が多い。中心街に行けばもっと色んな店があるそうだけど、味に拘れるのは金持ち向けの店になると聞く。
やっぱり、一人暮らしするなら自炊できる部屋を探したい。しかし、この世界では砂糖もかなり高価だから、僕の知っているレシピで美味しい携帯食料は作れるだろうか。
まあ、一人暮らしするには、まだまだぜんぜんお金が足りないんですけどね。
多少は体力と魔力が回復したところで、タイミングを合わせてくれたみたいに初めて見るモンスターがやって来た。
ミディアムフットだ。ビッグフットの小さいやつ。全身白くて長い毛に覆われた、毛玉みたいな二足歩行のモンスター。ギルマスのベンドレンドさんがよく似てると言われるのはこいつだ。
大きさは僕より少し小さいくらいだけど、長い毛に覆われているから、実際の大きさはよくわからない。毛皮が結構な高値で売れるらしい。長毛の犬猫みたいに、濡れたら小さくなったりするのだろうか。
ミディアムフットは僕を視認すると、目も長い毛に覆われているから見えているのが不思議だけど、即座に両手を上げて襲い掛かってくる。
僕は影に潜って回避した。影の中でライトを消す。目標を見失ったミディアムフットはキョロキョロしている。
ミディアムフットはそれほど大きくないし、素早さで言えばミニコカトリスの方が上だが、狂暴性と攻撃力はミディアムフットの方が上だ。
ミニコカトリスは鶏の方に噛まれても石化するだけだし、ヘビの方に噛まれても急所じゃない限りは致命傷にならない。蹴られたり体当たりを受けても吹っ飛ぶだけで、防具を着けていれば大怪我にはならない。
だが、ミディアムフットの口は大きいし顎も強い。サメみたいなギザギザの牙もあって、噛まれたら簡単に四肢を食いちぎられる。腕力も強いから、殴られたら金属の防具だって凹むらしい。
それに、ふさふさの毛はかなり防御力が高いため、安い剣では一撃で首を刎ねるのも難しいという。
僕は距離を取って一旦息継ぎする。もう一度潜って剣をナイフに持ち替えてから、ミディアムフットの足元まで泳ぐ。
何度かシャドウウォークでモンスターを狩ってわかったのだが、影の中なら灯りが無くても外の景色は見えるのだから、影から手だけを出して攻撃すれば、ライトを点けなくてもいいわけだ。
作戦は一番最初にミニコカトリスを倒した時と同じだ。
ミディアムフットの背後から片手を出して、足首らへんにナイフを突き立てた。
「おあっ?! おお? おお?」
え?! 人の声?
ミディアムフットの声がオッサンみたいで、一瞬気を取られてしまった。
それで手を引っ込めるのが遅れた。ミディアムフットが拳を振り下ろしてくるのが見えて、慌ててしまってナイフを取り落とす。
ボガッと、ミディアムフットの殴った地面が凹んだ。影の中だから当たらなかったけど、拳が打ち付けられるのを目の前で見て、ちょっと悲鳴が出てしまった。
久しぶりに闇を飲んだ。
大急ぎで距離を取って影から顔を出す。
「ゲホッゲホッゲホッ、ぅわっぷ?!」
息継ぎと一緒に咳が出たから、すぐに居場所がバレてしまった。足り寄ってくるミディアムフットの足音に、また慌てて影に逃げ込んだ。
回復薬の効能は限界まで全力疾走した後に飲んだ場合
下級回復薬:もう少し歩けるくらいに回復する
中級回復薬:もうひとっ走りできるくらいに回復する
上級回復薬:同じ距離を全力疾走できるくらいに回復するけど翌日筋肉痛確定
薬師からのコメント「ギリギリで上級回復薬を飲む前に小まめに下級回復薬を飲みましょう」
※傷を治すような治癒の薬は別にあります。
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