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闇属性の方向性  作者: 稲垣コウ
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28/47

28.めちゃくちゃ恐いな

 早速、夕飯を食べてから練習に出た。


 場所はこの前と同じ、初級ダンジョンに行く途中の路地裏だ。ここが誰もいないし真っ暗だし、練習場所としては最適だと思う。


 効率の良い練習方法なんてわからないから、まずは影の潜り方を模索する。

 イメージとしてはスルッと滑るように沈めればいいと思う。ドボンッと落っこちてるのは、たぶん無駄に大きな穴をあけているような感じだから、魔力も無駄に使っていると思う。


 それに出る時も、出てから体勢を整えるのではなく、出た時点でどうとでも動けるように構えておくべきだ。

 自分が通れる必要最低限の範囲でシャドウウォークを発動する。でも出入りにちんたらしてるのも危険だから、何度も出たり入ったりを繰り返して無駄のない発動範囲を覚える。


 それから影の中を限界まで泳いで、苦しくなったら息継ぎしてまた泳ぐ。水の中と違うとはいえ、泳げるというなら水泳のスタイルが参考になるだろう。


 水泳だって、綺麗なフォームで泳いだ方が、早いし体力の消耗は少なくて済む。影の中で素早く無駄なく移動する泳ぎ方を模索する。

 やっぱり、前世で水泳の授業は真面目に受けとくべきだった。この世界でも泳ぎ方教えてくれるようなところあるだろうか。


 後は何ができるか実験。上半身だけ影に突っ込んでみたり、中途半端に胸から上だけ地上に出してクロールしてみたり、思い付くことを色々試してみる。


 影の中での一番の問題は呼吸だけど、口だけ出して息継ぎさえできれば、長時間潜っていることもできるはずだ。

 と考えて、地面の下で背泳ぎしながら顔を出してみたりしたが、外から見たら、地面に顔だけ浮かび上がっている状況だ。


「めちゃくちゃ恐いな」


 この世界にお化け屋敷なんてアトラクションがあったら、良いバイトになりそう。


 あれこれ考えてシャドウウォークを繰り返していたら、だんだんと身体が重たくなってきた。

 そろそろ魔力切れか、体力的にも今日は切り上げた方がいいだろう。睡眠時間を削り過ぎても明日に響く。


 あと一泳ぎしたら寮に帰ろう。そう決めて影に潜った時、人通りが全く無かった路地裏に、小さな灯りが近付いてきた。


 思わず首を竦めて息を潜めてしまったけど、そもそも影の中だから誰にも見えないし息も止めている。

 でも、別に隠れる必要もなかった。ここは誰でも通れる公共道路だ。

 いや、でも、灯りも点けずにこんな暗いところ歩いてたら怪しまれるか。やっぱり隠れといてよかった。


 別々の方向から歩いてきたのは二人とも男性だった。

 たぶんどちらも人間だ。手持ちのランプを持って、まあまあ身形の良い服装をしているから、貴族か商家のお偉いさんだろうか。


 冒険者ギルドがあるのは、どっちかというと貧乏街に近いところだから、あんなちゃんとした服装の人はあまり見かけない。


 こんなところに用がなさそうな人たちだから、すぐに通り抜けるだろうと思ってたのに、男二人は路地裏で立ち止まった。

 たまたま同時に同じ路地に入った他人ではなく、最初からこの場で落ち合うつもりだったらしい。


 しかもキョロキョロして、近くに人がいないか確認している。

 見るからに怪しい。ここはそれほど治安は悪くないと思ってたけど、治安が良いわけでもないようだ。


 息が続かないからさっさと立ち去ってほしい。それとも、僕が移動して、男たちに見えないところで影から出た方がいいだろうか。

 だが、怪しい男たちのやり取りはそんなに長くかからなかった。


「本物だろうな?」

「ああ、とっておきだぞ、そっちこそ金は用意したか?」


 短い会話をして、一人は懐から薄っぺらい封筒を取り出し、もう一人は硬貨の入っていそうな袋を取り出す。

 それをささっと交換して懐にしまってから、二人とも周囲をキョロキョロ確認しつつ、また別々の方向へと歩き去っていった。


 僕は二人が建物の向こうに消えるまで見届けてから、影の中から顔を出した。


「ぶっはぁ……ハァ、治安悪くてやーねー」

 感想はそれだけだった。


 違法っぽい取引を目撃したって、自分に火の粉が降ってこなければ、通報しようとか犯罪を暴こうとか、そんなこと考えるほどの正義感はない。


 しかも、さっきの男たちは僕と明らかに身分が違った。絶対に首突っ込んだって痛い目見るだけだ。

 練習場所は別のところを探した方がいいかもしれない。


「あ……影の中でも声聞こえたな?」

 今までは、人のいないところでシャドウウォークを使っていたから気付かなかったけど、影の中からでも外の声は聞こえた。外にいた男たちには、僕の存在に気付くようなそぶりはなかった。


 これは情報収集にも使えるのではないか?

 僕は新たな可能性にニヤリとしたけど、この使い方は影の中だとどれだけバレないか検証してからじゃないと危険だ。


 でも、それには外から見ていてくれる協力者が必要で、僕は今のところぼっちだ。

 唯一、検証に付き合ってくれそうな人物と言えばアルバートさんだけど、あの人はなんか怖いから魔法の話しを持ち掛けたくない。


 僕はその場でしばらく考えてから大通りに戻った。怪しい男たちの姿はもうなかった。

この国には王様がいて貴族がいて騎士もいて、爵位とかで細かく身分がわかれてますが、今のところ関係ないので気にしないでください。

爵位のない平民については特に身分制はないです。金持ってる方が偉いくらいで、一律に平民です。


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