25.店のおっちゃんは大変真っ当なことを言う
冒険者として多少の手応えを得た僕を、神様も天国から見守っていてくれたのかもしれない。
目の前に現れたアイテムは、僕の頑張りに対するご褒美だと思いたい。
しかし、僕の知る神様には天国という言葉がイマイチ似合わない気がする。
あの神様の爺さんなら、煎餅齧りながらテレビを見るように、僕のことを面白おかしく眺めている方が似合っている。
それを肯定するのが、目の前に現れたアイテムだ。
「こ、これは……!!」
初級ダンジョンの四階層で、僕は黒光りするそれを凝視して、どこで間違ったんだと考えずにはいられなかった。
* * * * *
初めて一人でダンジョンに潜った翌日、僕は買い物に出かけた。
冒険者ギルドでレンタルできるのは、素人セットと初心者セットまで、それ以上は自分で買えということだ。
初心者講習でも使った初心者セットは三千イェンでレンタルできるけど、壊したり失くしたりすると五千イェン請求されるから、中古の装備を購入した方がいい。
僕が来たのは新人冒険者にお勧めの中古の武器屋だ。冒険で使うもの全般売ってるから、武器屋というより武器も売ってる古道具屋と呼んだ方がいいかもしれない。
冒険者ギルドの近くに古道具屋は何件かある。安い中古品でも僕の軍資金は心許ないから、何件か回って買うものを厳選する必要がある。
真剣に防具を選んでいた時、僕はとんでもない物を発見した。
店の入り口近くの、どれでも一個五百イェンという箱の中に、金属製のお椀を二つ繋げたような防具があった。
これは、まさしく、ビキニアーマー!
「あるやんけ」
思わず声が出ていた。
この世界はそういう方向性ではないファンタジーだと思っていたけど、やっぱりファンタジー世界、こういう夢と欲望を詰め込んだアイテムも実在するのか。
セットになっている下の装備は、流石に紐パン型ではなくミニスカ型だった。長方形の鉄板をいくつも並べて繋げてプリーツスカートみたいになっている。
「それは防御力ないから、止めといた方がいいぜ、あんちゃん」
持ち上げてマジマジ見ていたら、店のおっちゃんに声をかけられた。
「いや僕は使わないから」
なんで僕が使うと思った?
防御力がないのも見ればわかる。防具なのに防御力がないのはどうかと思うけど、胸と腰回りしか守れないのだから防御力はザルだ。
「これどう見ても女性用でしょう?」
「こんなもん女冒険者に勧めたらブッ飛ばされるわ」
「それはそう」
店のおっちゃんは大変真っ当なことを言う。防具を買いに来た女性にビキニ水着勧めるのは、セクハラで間違いない。
やっぱり、ここは男の夢や希望はあまり考慮されないファンタジー世界らしい。
知ってた。冒険者ギルドを見たって、女性冒険者はスカートの人もいるけど、軒並み下にズボン履いてた。素足晒してモンスターと戦ってる人いたら、僕だってスケベ心出すよりも先に心配になる。
男ならタンクトップや短パン姿のやつもいるから、むしろ男性冒険者の方が露出度が高いかもしれない。男ならそれほど心配にもならない。筋肉を見せつけられるのは暑苦しいなと思うだけだ。
そもそも、冒険者は九割が男性だ。ギルドの受付ですら八割男性、残り二割は年配女性だ。
基本的に戦闘と力仕事だからね。そりゃ女性の少ない職業になるのが現実ですよね。別にスケベとか出会いとか、そんなもんぜんぜんまったく期待してませんよーだ。
僕は色々諦た気分で、五百イェン均一の箱から離れようとした。
だが、しかし、待てよ? ここは中古品の店だぞ?
「ここにあるってことは、誰かがこれを売った、つまり使っていた人がいるということですか?」
思わず名探偵のような顔をしてしまったけど、自分でもアホな推理をしていると思う。
「さあな、遠い街から流れてきたもんだから、誰が売ったかは知らん、こんなもん着けて戦うやつがいたら正気じゃないだろうな」
店のおっちゃんはいちいち真っ当だ。中古とはいえ武器を扱う仕事をしているから、防具なのに防御力皆無のジョークグッズは業腹なのかもしれない。
「じゃあジョークグッズか」
「それにしては作りがしっかりしてんのよ、おかげで裏パブでも売れねえ」
確かに、もう一回見てみれば、カップを固定する部分は革ベルトで、そう簡単に取れないようにできている。
ここらの地域で裏パブと言えば、キャバクラとソープが一緒になったような風俗店だ。エッチな恰好したオネエチャンたちが酌してくれて、お金積めば上の宿に一緒に入ることもできるというお店らしい。
らしいというのも、僕は話ししか聞いたことがないからだ。遊んでいる余裕ないし、今世ではまだ童貞だし、初めてのそういう相手が商売女性というのは男心がなんというかごにょごにょごにょ……
そんなことは置いといて、確かにこのビキニアーマー、形はスケベなのに脱ぎ着しづらいなら、裸のお付き合いするお店でも使い勝手は悪いだろう。
つまり、これは本気で防具として作られていて、これを着けて戦っていたやつがいるかもしれないということだ。
そう思うと、なんだか、思ったよりスケベが刺激されないというか。前世で二次元を見ているぶんにはエロ可愛いと思うだけだったけど、現実の世界だと、逆に不気味だな。
だって、前世でも同僚の女性が水着姿で出勤してきたら通報案件だろ。「エロい!」って思うよりも「変態だ?!」ってなるだろ。
たぶん、この世界でもダンジョン内で水着姿の女性に遭遇したら、「エロい!」ってなるより「モンスターか?!」ってなると思う。
やっぱりこういうのは二次元で楽しむだけがいいんだな。僕は一つ知見を得た。
ビキニアーマーのインパクトに時間を取られてしまったが、おかげで店のおっちゃんと話せて、この店で中古の防具を買った。男性用のちゃんとしたやつをだ。
そう、僕は人見知りなので、どんなお店でも店員さんと気安くお喋りするとかできないのだ。その点、ここのおっちゃんとは話しやすかった。
「それにしても、なんであんな売れないもん置いてんですか?」
五百イェン均一でも中古のビキニアーマーは売れそうにない。
しかし、おっちゃんは僕の質問にニヤッと得意げな顔をする。
「あれを店先に置いてるとな、何故か男の客がよく立ちよってくれるんだよ」
「あ、そっすか……」
まんまと釣られたわ。なんか落語になりそうな話だな。
スケベな夢はないファンタジー世界でも、男のスケベ心は共通のようだ。
風俗店に入るのに年齢制限はありませんが、何歳だろうと何があろうと自己責任です。
でも、あんまり小さい子供をそういう店に出入りさせると店と親が非難されるので、暗黙のルールで十五歳以下は入れません。
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