23.最初から考えておくべきだった
混乱してキョロキョロしてしまったけど、僕の顔の真横にヘビの顔があって息を飲んだ。
影伝いにミニコカトリスの表面を泳いでいるんだ!
木や建物の壁だって影伝いに上れたんだ。モンスターの影にだって潜れるだろう。
成程なと思ったところで息が続かなくなる。
あと、僕の上半身はミニコカトリスの影の中だけど、足の方は地面の影の中にある。この状態でミニコカトリスが立ち上がったら、僕がどうなるかわからない。
慌てて地面の方へ戻って、ミニコカトリスから離れる。
距離を取ってから、影から出てライトを点けると、まだミニコカトリスの索敵範囲内だったようで、鶏の頭とヘビの頭がこちらを睨んでバタバタと暴れている。
僕は一旦息を落ち着かせるためにも考えた。
影の中からクレイモルを倒した時は、地面とクレイモルの間に隙間があったのだろうか? ミニコカトリスの場合は、完全に座り込んだら地面との間に隙間が無くなり、ついでに僕が通れるほどに影が繋がってしまったのか?
わからない! とにかく影の中から直接攻撃は諦めよう。
ライトを消して影の中を泳ぐ。流石にミニコカトリスも学習するようで、僕が消えても周囲を警戒している。
しかし、やっぱり影の中にいれば熱感知でも僕を捉えられないようだ。
鶏の方の死角になる瞬間を狙って、胸の真横から飛び出し、心臓の辺りを突き刺した。
「あいてぇ!?」
途端に暴れ出したミニコカトリスの足に蹴っ飛ばされてしまった。
咄嗟に頭は庇ったが、左腕に痛みを感じて、慌てて影に潜ってミニコカトリスから距離を取る。もう泳ぎ方も気にしていられない不格好な犬かきだ。
充分離れてから影から飛び出す。
「ブハァ!! いってぇ……!」
ライトを点けて左腕を見てみれば、防具が割れているし血が出ている。でも防具のおかげで傷は深くなさそうだ。
「大丈夫……弁償の必要はないから、大丈夫……」
素人セットの唯一の取り柄は、壊れたり失くしたりしても弁償する必要がないところだ。
自分を落ち着かせるために大丈夫大丈夫と言い聞かせる。命よりもお金の心配をしているところが、なんとも情けない気分だけど、今は落ち着ける材料なら何でもよかった。
息を整えてからミニコカトリスを見てみれば、まだ羽をバタバタさせて暴れている。かなりの血を流しているけど、モンスターだから放っておけばそのうち回復する可能性はある。
「これで止めだ!」
格好良く言ってみたけど、結局やっていることは大きく息を吸って影に潜り、なりふり構わぬ犬かきでミニコカトリスの真下まで行って、もう一発胸を突き刺して、大急ぎで離脱だ。
ゼエゼエしながら、離れたところで剣を構えていたが、ミニコカトリスはしばらくもせず動かなくなった。
「……は、ハハハ、やった、ハッハッハッまいったか!」
まいったもなにも、モンスターの死体に向かって勝利宣言をしている変なやつになっているけど、初めての中型モンスターの単独撃破で、僕のテンションはよくわからなくなっていた。
何はともあれ、ミニコカトリス一体の買取は四万イェン以上だ。一人で倒したから一人で総取りだ。
「ハッハッハッハッ、あ……どうやって運ぼう?」
気分が落ち着いてきたら、僕は現実を思い出した。
というか、最初から考えておくべきだった。戦い方ばかりに頭がいって、その後のことはぜんぜん考えていなかった。
目の前にあるミニコカトリスの死体は二メートル以上あるし、重さは僕の体重を軽く越えるだろう。
そして、今の僕は魔力切れになりかけている。シャドウウォークだけならまだ大丈夫だっただろうけど、ブラックホールを一回使ったのが効いている。
引き摺れば運べなくもない。自力で外に出て帰還の輪を返却すれば五百イェン戻ってくるから、それで台車をレンタルして冒険者ギルドまで運ぶという手はある。
しかし、ここはダンジョンだ。こんな大荷物を運びながらでは他のモンスターに対処できない。怪我を増やしてまで運んだところで、治療費で儲けが消えるだけだし、怪我だけならまだしも死んだら元も子もない。
じゃあ、帰還の輪を使って地上に戻って、台車を借りる金はないから、冒険者ギルドまでこいつを引き摺って行くか。
「いやいやいや、どうやっても体力が限界だよな」
魔力切れの上に体力切れじゃ、明日一日動けなくなるだろう。結局はプラスマイナスゼロだ。
だったら、安全第一の道を選ぶべきだ。勿体ないけど、命あっての物種だ。勿体ないけど!
「命大事に!」
僕は自分に言い聞かせながら、ミニコカトリスの羽と頭だけ持ち帰ることにした。
それだけでも、ぜんぜん切れない素人の剣と、もともと持っていた小さいナイフで、モンスターを解体するのは一苦労だった。前世のゲームだったら都合良くアイテムだけドロップしてくれるのに、この世界に優しさはないのか。
碌な鞄も持っていないから、鶏の頭とドラゴンの羽を縄で括って背負うしかない。
ちなみに、この縄はギルドでゴミに出されていたものをタダで貰ってきて、繋ぎ合わせたやつだ。強度はまさにゴミだから、結局、縄でまとめたものを抱えて運ぶことになった。
「結構重てぇ~……」
結局くたくたになった僕は、足を引きずるように帰路に着いたが、一階層への階段が既に果てしなく感じる。
「ヒィ、ヒィ……帰るまでが、ダンジョン探索っ」
初級ダンジョンの二階層でこの様では先が思いやられる。
初級ダンジョンの入り口前ではギルドが台車を貸し出してます。
一回五百イェン。使い終わったら戻さないと怒られます。
もっと大きなダンジョンなら入り口付近に荷運びのバイトとか、レンタル馬車なんかもいます。
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