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闇属性の方向性  作者: 稲垣コウ
自分の力を把握しよう
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20.神様の力を持ってしてもね

 冒険者生活二日目の夜、僕はシャドウウォークの夜間実験を決行する。


 本当は気が付いたその日に試したかったけど、昨日は昼間にあれこれと魔法を試し過ぎたせいで、夕方には魔力切れになりかけていた。

 新人としては魔力が多い方とは言え、一般人に毛が生えた程度だからね。神様の力を持ってしてもね。


 だから、今日は昼間の魔法使用は控えて、薬草採集が終わったらさっさと帰って仮眠をとった。

 そして満を持して夜、そそくさと部屋を抜け出した。


 ギルドの寮に門限はない。冒険者の依頼には夜警みたいな仕事もあるし、夜にしか出没しないモンスターもいるから、ダンジョンだって夜も出入り可能だ。


 ただ、教会は夜閉まっているから、怪我をしても治療は朝を待たないといけないし、大怪我で夜中に治療を受けたら割増料金がとんでもないらしい。

 だから、夜にも仕事はあるけど、好んで夜間にまで働きに出るやつはそんなにいない。


「ヨナハン、こんな時間にどこ行くんだ」

「あ、夜狩りか~?」


 寮を出てすぐ、同期のエドとケルビンに遭遇した。二人もまだギルドの寮に住んでいるから、寮も同室だ。

 エドは猫の獣人だが、家猫ではなく山猫だというから、体格は結構ガッシリしている。獣人は夜目が効くけれど、暗闇で目が光ってしまうから、隠密行動には向いていないらしい。


 二人はそれぞれ別のパーティに加入したが、同室のよしみでプライベートでもよく遊んでいるらしい。今は夕飯を食べて帰ってきたところだろうが、ちょっと酒臭い。


「ああ、まあ……」

 こいつらにはブラックホールの暴走を見せてしまっているから、魔法の練習だと言ったら警戒されてしまいそうだ。


「真面目だな~」

「無理すんなよ」

 特に怪しむ様子もなくエドとケルビンは寮に入っていった。


 僕も無理をする気はない。まだ夜のダンジョンに挑む気はないし、街の外の森だって夜は獣が活発だから入りたくない。


 夜間実験の場所として目星をつけていたのは、初級ダンジョンへ行く途中の寂れた路地裏。昼間でも人通りは少ないし、でも冒険者の通行が多いから治安が悪いわけでもない。丁度よく閑散とした通りだ。

 大通りの方は夜でもぽつぽつと灯りの点いている店はあったけど、一本奥に入ると狙い通り、軒下のランプ一つ灯っていない真っ暗闇だ。


 あまりの暗さにちょっとビビるけど、見上げれば空に星は輝いている。月明かりもある。何かあってもギルドに走って逃げ込める距離だ。

 気を取り直して真っ暗な路地裏に踏み込む。


 そこで僕はシャドウウォークを発動した。

 ドボンッと足元から影の中に沈める。見上げれば真っ白い景色に黒い線で地上の景色が描かれていた。


 予想通り、灯りのない夜中ならどこでも移動し放題だ。


 自分が沈んだところから顔を出してみる。地上に出たら真っ暗でほとんど何も見えない。

 また影に沈んで、あちこち歩き回ってみる。

 道の下を移動するのは問題ない。だが建物の中や、建物の下へは入れそうにない。

 これも予想通りだ。


 この世界には転移魔法がある。障害物の向こう側を見る透視魔法なんてものもある。

 だから、どんな建物にも、魔物除けと一緒に魔法除けの結界を施すのが常識だ。でなければ、転移魔法で他所ん家入り放題、透視魔法で覗き放題になってしまう。


 そこらの建物の魔法障壁なんて、上級魔法使いなら潜り抜けられる程度だというが、わざわざ金目の物もない一般家庭に侵入しようとする上級魔法使いはいない。大店や城塞なんかには、ガッチガチの防御魔法がかけられているそうだ。


 僕は初級も初級、初心者魔法使いなので、当然ながらそこいらの簡易障壁だって突破できない。

 建物の壁は勿論のこと、建物の下は何も見えないけど壁があるように先に進めなかった。壁の向こうを見ることもできない。


「これが魔法障壁か」

 地上に戻って見てもぜんぜんわからないけど、どこの家にも必ずあるあの護符みたいなもの、ちゃんと役に立ってたんだな。


 魔法障壁の無い建物ならどうなるか検証したいけど、この街に結界の施されていない建物があるとは思えない。


 と思ったけど、すごく丁度良い物を発見した。

 建物の壁にくっ付くように建てられた掘立小屋だ。元は物置かなんかだったのだろうが、今は使われていないらしく、ボロボロの木戸が半開きになっている。


 念の為、光魔法の手持ちランプを持って来ていてよかった。小屋の中を照らして見ても何もない。ゴミが落ちているだけで、当然ながら魔法除けの護符も張っていなかった。


「よしよし、おじゃましまーす」

 僕はライトを消して影に潜る。影の中から小屋を見上げると、思った通り小屋の中は丸見えだった。


 小屋の中に頭を出してみる。普通に出られる。

 完全に影から出てからドアを閉める。ちょっとゴミ臭いけど、小屋の中からでも影に潜って、ドアを開けることなく外に出ることが出来た。


「なるほどなるほど」

 ドアを閉めて出入りしてみたり、ドアを開けて出入りしてみたりを繰り返す。


 検証の結果、魔法除けの結界が無ければ、影伝いに建物の中に侵入することも可能ということがわかった。

 だが、この検証は不十分だ。ここは床板もない掘立小屋だし、あちこち隙間もたくさんある。ちゃんとドアの閉まる家とか、床下があるような建物で同じことができるかはわからない。

 まあ、ちゃんとした建物なら魔法除けの結界も施されている。検証できる機会は早々ないだろう。


 侵入実験はまた今度にして、今度は近くの建物の壁に手を付いてシャドウウォークを発動してみるが、影の中には入れない。

 でも、一度足元から影に沈んでみると、壁の向こうには行けないが、壁の影を伝って上に移動することはできそうだ。


 二階建ての建物の影の中を泳いで屋根まで行く。屋根の上は月明かりに照らされて影じゃない部分もあったけど、やっぱり昼間に比べれば出入りできる影は沢山ある。

 煙突の影から外に出る。壁をよじ登るよりも簡単に屋根の上に辿り着けた。


「もっと高い建物だと息が続かないかな」


 それでも、移動手段としてはなかなか使える。

 雲間に覗く月を見上げて僕はちょっとだけ自信を持った。


 でも、夜に抜け出して一人月を見上げて笑ってるとか、こっ恥ずかしかったし肌寒かったから、さっさと寮に戻ることにした。

この国では医療はほとんど進歩してません。治療と言えば教会の治療魔法頼りです。

ルビウスには薬師ギルドもないので、薬は流通してますがバカ高いし保険が利きません。


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