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闇属性の方向性  作者: 稲垣コウ
はじまり
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2.なんかもう選ばれたのが僕で申し訳ない

 異世界転生する魂って、もっと厳正なる審査とかがあるべきなんじゃないの? こんなダーツの旅で行った先で福引当たったレベルで選ばれても、有難味も何にもない。


「ガラガラするなら最初のダーツいらなくない?」

「それだとこのガラガラに入りきらんくてのう」

「だとしても、地域絞るなら、せめて現地の人を選べよ!」


 なんで三ヶ月ぽっち滞在するだけの外国人を選んでいるんだ。途上国だって日本の漫画やアニメは流通していた。現地にも異世界転生を夢見る若者は沢山いただろうに、なんかもう選ばれたのが僕で申し訳ない。


 最初から矢鱈と親しみやすい神様だと思ったけど、本当に飲み屋でたまたま隣になったオッチャンくらいの気安さだ。あまりに神聖さがないから、うっかり言葉遣いも雑になっていたけどもういいや。


「そもそも、こういう転生で出てくる神様って、美人の女神様とかじゃないの?」

「いやいやそういうのはいかん、コンプラに反する」

「神様がコンプラって……」


「コンプラ大事じゃぞ、神だってあんまりやらかすと、やれ不倫して嫁を怒らせただの、やれ他所で子を設けて嫁を怒らせただの、不名誉なことばかり言い伝えられるのじゃ」


 確かにどこの神話にも割と俗っぽい逸話が多いけど、神様がコンプラを意識するのもどうかと思う。そもそもどこのコンプライアンスだよ。


「なんじゃその眼は、わし神ぞ、心配するでない、アフターフォローもバッチリじゃからの」

 だからその言い方が安っぽいのだが、そもそも地上の流行りに乗って異世界転生やってみようと考える爺さんに、威厳とか神聖さを求めても仕方ないのかもしれない。


「アフターフォローってなに? 転生先選べるとか?」

「いや、それが、受け入れ先を募ってみたのじゃが、応じてくれた世界は一つしかなくてのう、今回ので実績を作れば少しずつ増えていくじゃろうが」

「交換留学かよ」


 僕が通ってた地方大学だって、海外留学の伝手は複数あったのに、この神様もしかして友達いないのか。


「生まれ先の家族も選べんのじゃが、しかし、ちゃんと生きていけるだけの能力は授けてやるから安心せい」

「やっと異世界転生っぽいやつきた」

 ここに来てから僕がしたことなんて、番茶飲んでツッコミ入れただけだ。


「そうじゃろうそうじゃろう、じゃあ、これを持て」

「え?」


 爺さんに持たされたのは、さっき出した安っぽいダーツの針だ。


「わしがこれを回すからのう」

 出てきたのは丸いボードだ。大きなダーツの的みたいなもので、回るらしい。扇型に色分けされていて、それぞれに火、土、水、風、体と書かれている。


 つまりはルーレットだ。


「それを投げて、当たった能力を授けてやろう」

「だからなんでランダム?!」

「神は平等であるべきと言っておろうが」

「そういうことじゃなくて!!」


 神が平等なのはいいのだ。僕が言いたいのはやり方だ。能力をランダムで授けると言っても、なにもこんな祭りの景品当てみたいな方法にしなくてもいいだろう。


「こういうのってもっとさあ、パラメータとか、ステータスバーとかいじくって、キャラメイクする感じじゃないの?」

「いやー、わしピコピコとか詳しくなくてのう」

「今時老人でもゲームのことピコピコなんて言わないよ」


 僕もゲームはそこまで詳しくなかったから、細かいキャラメイク画面を出されても困ったと思うけど、ダーツで景品当ては論外だ。


「それに火とか風とかなに? ライターや扇風機が景品ってこと?」

「何を言うとるんじゃ、魔法の属性に決まっとるじゃろうが」


「じゃあ体ってなに?」

「これは魔法は使えんが身体が強くなるんじゃ、足とかも速くなるぞ」

「雑っ!!」


 この爺さん絶対詳しくわかってないよ。よくわかってない神様から授かる能力って不安しかないよ。


「あーもー今時の若者は文句ばっかりじゃの」

「これじゃあ若者じゃなくても文句出るわ、属性だけ付与されたって使うにはHPとかMPとかいるんでしょ」

「だからそういうのは、おぬしの魂に応じてだな、わしが盛れるだけ盛ってやるから有難く思え」

 結局なにもわからないんじゃ有難く思いようもない。


「いいから、ほれ、もう時間がない、ほれ回すぞ!」

「え、え! 待って、ダーツなんて初めてなんだけど?!」


 神様が慌てだしたと思えば、僕の後ろにぽっかり穴が開いた。白いだけだった空間に虹色の丸が揺らめいている。

 一見すると油の浮いた汚い水溜まりみたいだけど、異世界への入り口らしい。だって、すごい吸い込まれそうだ。


「いや待って! 待って!」

「いいからさっさと投げい!!」


 説明不足にまだクレームを言い足りないのだが、何の能力もなく異世界に行くのは心許ない。

 神様に急かされるままにダーツを投げた。どうせ的が回っているから、狙ったところでどこに当たるかはわからない。

 もしかして当たらないという可能性もあったけど、僕の投げた羽はトスッと的に刺さった。


「えーどれどれ……む、なかなか止まらんなこれ」

「ねえ急いで! 僕もう吸い込まれそう!!」


 ダーツは成功したのだから能力は授かれるのだろうけど、異世界への穴がだんだんと吸引力を上げている。

 だというのに、神様の爺さんはいきなり爺さんらしい動作になって、ルーレットを止めるのに手間取っている。

 このままでは、授かった能力が何かわからないまま異世界へ飛んでしまう。


「ふむふむ、これは……」

 ようやく的は止まったが、僕が投げた針は、火と土の間くらいに刺さっている。


「火? 土? どっち? どっちも?」

「いいや、これはどっちでもない……」

「どっちでもないってなに?!」


 よく見てみれば、火と土の間だけ黒い線があるけど、細くて何と書いてあるかは見えない。

 もしかしてハズレか。もう僕は床にしがみ付いて、穴に吸い込まれないように耐えている状態だ。今からやり直しは無理だ。


 神様は目を凝らしていたが、いそいそと老眼鏡を取り出す。そういうのは最初からかけとけよ! というか自分で作ったんじゃないのかよ!


「おお! これは! すごいぞ、こりゃハイパーレアな属性、や」


 最後まで聞き終わる前に、僕の限界が来た。

 スポーンと穴に吸い込まれ、グルグルと落ちていくような飛んでいくような感覚に振り回される。


「や、ってなんだよ――!!」


 そのうちまたスポーンとどこかに放り出された気がするけど、僕の意識はそこで途絶えた。

神様の爺さんは町内会のお祭りを盛り上げようとして空回ってる近所の爺さんみたいなやつで悪気はないんです。考えもないです。


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