19.なんだこれ、闇? 闇飲んだ? 闇ってなんだ?
「いやまだだ、まだもう一つある……」
僕は無理矢理気を取り直して、残る一つ【影歩行】シャドウウォークを発動した。
「ぅお?!」
途端にドボンッと落っこちた。
周りは真っ暗だし、まさかの息ができない?!
「ぶはあっ?!」
魔法を停止したら一気に元の景色が戻ってきた。
「ゲェホッ!! ゲホッゲホッなんか飲んだっ?! なんだこれ、闇? 闇飲んだ? 闇ってなんだ?」
感覚的には池に落っこちたような感じだったが、僕の足元は確かに土の地面だ。ということは、僕は影の中に落ちたのだろう。
魔法の名前がシャドウウォークだし、落ちたところ真っ暗だったし、影の中に沈むって前世の漫画とかアニメでもよくあった。
しかし、封印を施しているから魔法は左手からしか発動しないんじゃなかったのかよ。今どう考えても全身で使ったよね? どういうこと?
でも、これについては、そもそも封印術を理解していないから、考えてもわからない。
それよりも、影の中で息ができないのは想定外だ。そもそも影の中ってどこかもわからないし、影の中で窒息死した場合どうなるか見当もつかない。
さっきは木の影の上で迂闊に発動したのがいけなかった。
僕は影になっていない地面に立って、大きく息を吸い込んでから、もう一度シャドウウォークを発動した。
ドボンッとまた勢いよく沈んだが、今度は身構えていたので謎物質を吸い込むことはない。影の中でも目は開けていられるらしい。
周りを見回してみると、真っ暗だと思っていたけど、頭上には景色があった。
上を見上げれば、黒い世界に白い線で景色が描かれていた。寝っ転がって見上げているような視界だから、まさしく僕は地面の下にいるのだろう。
ところどころ白い世界に黒い線で景色が描かれているのは、たぶん地上では影の部分だ。
試しに真っ黒い景色に手を伸ばしてみたが、地面の部分に壁があるようでそれ以上手を伸ばせない。ということは、影の部分からしか出られないということだろう。
しまった?! 僕の頭上は真っ黒で、つまり入ったところからは出られない。
慌てて足を動かしてみれば、まるで水の中を歩いているみたいにフワフワするけど、なんとか進むことはできる。水の中と違って抵抗感はないから、ともすれば上下がわからなくなりそうだ。
フワフワ歩いて、木の影と思しきところに顔を突っ込んだ。
「ぶはっ!」
空気と色付きの世界が戻ってくる。
やっぱり、地上で影のあるとこからしか出入りできないようだ。
二度目の挑戦は自分の影から沈んだから、僕のいなくなった場所にはもう影はなくなってしまったわけだ。
「これは場所を考えないと自滅するな」
周りを見回して、丁度良い間隔の影を探す。今は少し開けた場所にいるけど、陽は傾いてきているから影はどれもそこそこ長い。
木の影から三メートルほど離れた木の影に狙いをつけて、もう一回シャドウウォークを発動する。
やはり影の中からは、地上の影部分だけは白い景色に見える。
試しに草の影に指を突っ込んでみたが、指しか入らないからここから地上に出ることはできない。地上では影から僕の指だけ飛び出して見えるのだろうか。
そうしてたら、風が吹いて地上の草が揺れた。影だったところが影じゃなくなり、僕の指は抜けなくなった。
影から身体の一部は出せるけど、影が移動すると出し入れができなくなる。成程な。
今は指一本だけだったから、自分の指の影を使えば引っ張り戻すこともできたけど、影から出入りしている途中でライトでも当てられたら、中途半端な態勢で動けなくなる可能性もあるわけだ。
目標地点にしていた木の影から顔を出して息継ぎ。その時、もっと上にある影が目に入った。
木の上の枝や葉っぱの影だ。
影から影に移動できるということは、別に地面じゃなくても移動できるのでは?
僕はそのまま影に潜った。
影じゃない部分は壁になっていて上に行けないから、影に潜っているからって空を飛ぶことはできない。
しかし、思った通り木の影の部分なら上に行けた。
木の中を泳いでいるような感覚だ。ウォークというけど、影の中はフワフワと足元が覚束ないから、泳いだ方が早く移動できそうだ。
水泳はできるけど得意というほどでもない。木の中でカエル泳ぎをする日が来るとわかっていれば、もう少し真面目に水泳の授業を受けていたのに。
樹上に上がれば、枝葉の中に隠れているような気分だけど、影の中に入っている僕はたぶん外からは見えないはず。
青々と茂った木の上は影は沢山あるけど、やっぱり小さな葉っぱの影や細い枝の影の集まりだから、小さく穴が開いているようで外に出られそうなところはない。網に阻まれているみたいだ。
そろそろ息が苦しいので急いで木から下りる。
やはり影の中は浮力はなさそうだから、自然と上に浮かぶとか下に沈んでいくということはない。木から下りるにも木の中を泳ぐしかなかった。
「ぶはっ、発動時間と発動場所がネックだけど」
シャドウウォークだけはダンジョン探索にも使えそうだ。三つある基礎魔法の全てが使えない魔法だったらどうしようかと思った。
「待てよ、発動場所……」
影から影に移動できるということだが、どこもかしこも真っ暗だとどうなるのだろう。
例えば、灯りのないダンジョン内とか、夜とか。
シャドウウォークがどんな魔法かわかればダークネスの使い道もお察しかと思いますが主人公はわかりません。何故なら魔法二つ同時使用がまだできないから。
少しでも面白いと思ったら是非ブックマークお願いします。
リアクションや★付けていただけると嬉しいです。
感想やレビューも待ってます!