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闇属性の方向性  作者: 稲垣コウ
初心者講習
17/30

17.眼光だけで殺されそうって本当にあるんですね

「まあ、ギルド内での見習い冒険者のやらかしだから、本来なら弁償責任はないんだが、今回のは被害が大きいからな、おまえさんらとギルドとの折半っつーことで、いいな?」


 ところ変わってギルドマスターの執務室、室内にも関わらずお空が見えちゃっているのは、僕が屋根を抉ってしまったからだ。


 ルビウス冒険者ギルドの代表者はベンドレンドさん、人間とドワーフのハーフだという。

 身長は僕より少し低いけど、肩幅も胴回りも僕の倍はあるガッシリどっしり体形のオッサンだ。長い髪と髭と眉毛に顔がほとんど埋もれているから、よく獣人やモンスターに間違えられるそうだ。


 威厳たっぷりのオッサンの前に立たされている僕は、ぐったりしていた。

 魔力切れだそうだ。まだ動けるくらいなら、飯食って良く寝れば回復するらしい。だから早く休みたいのだが、当然ながら休みたいと言い出せる状況ではなかった。


 ギルマスの前には僕だけじゃなく、現場に一緒にいたスイルーさんとレヴィさんと、初心者講習担当のグレンさんも並んでいる。

 グレンさんとレヴィさんは申し訳なさそうに項垂れているが、スイルーさんはどこ吹く風でそっぽ向いている。


「被害が無くてよかったじゃないか」

「被害甚大だわい!? とうとう耄碌したか耳長ババア!」

「お飾りの執務室が壊れたくらいでガタガタ言ってんじゃないよ! あんた以外に怪我人もいないしさ」

「お飾りじゃねえし死ぬかと思ったわい!!」


 滅茶苦茶に怒鳴り合っているけど、この二人は元パーティメンバーという仲らしい。百年以上も昔の話しだけど。

 ちなみに、ベンドレンドさんがペーペーの新米冒険者の時には、既にスイルーさんは大ベテランの冒険者だったそうだ。


 ベンドレンドさんが憤慨する通り、今回の被害者は彼一人だった。


 それも、ミニコカトリスを飲み込むようなブラックホールに巻き込まれかけて、ギルマスの怪我は腕にガーゼを張る程度で済んでいる。壊れた屋根の瓦礫が当たったそうだ。スイルーさんと並んでバケモノ級だと思う。


 執務室がお飾りと言われているのも、ベンドレンドさんはギルマスのくせに常にどっかに行っていて、執務室は未済書類置き場と呼ばれているからだ。

 たまたま、珍しく執務室にいた時にこんな事故に遭うのだから運がない。


 いや、それでもギルド施設を壊してしまったし、大量の未済書類を紛失させてしまった。中には数十年も積まれっぱなしになっていたギルマス判子待ち書類もあったそうだから、ベンドレンドさんは清々したと言っていたけど、ギルマスとしてそれはいかんだろう。

 その他にも、執務室にあった家具もすっかり消え失せてしまったから、部屋の中は元から空き部屋だったのかと思えるほど何もない。


 家具全部吸い込まれる中で一人踏ん張ったベンドレンドさんはやっぱりバケモノ級だ。被害者がこの人だけだったのは不幸中の幸いだと僕も思う。一歩間違えば僕は殺人犯になっていたかもしれないんだ。改めて考えると冷や汗が止まらない。


 だから、僕はスイルーさんみたく開き直れる立場ではない。スイルーさんだって本当は開き直れる立場じゃない。


 でも、だからと言って大人しく受け入れるわけには行かない。

 だって、ギルドの裏の訓練場で魔法発動したのはスイルーさんの指示だし、僕はやれって言われてやっただけなのに弁償しろって、当たり屋にあった気分だ。


「あの、僕はスイルーさんの指示で魔法を……弁償っていくらですか?」


 果敢にも責任の所在を明らかにしようとした僕だったが、スイルーさんの一睨みで弁明を断念した。眼光だけで殺されそうって本当にあるんですね。


「三十万イェン」

「さっ!?」


 目ん玉が飛び出る額、というほどでもないけど大金だ。壁と屋根の修理費と家具の弁償代ならば、むしろ格安なのかもしれないけど、しかし、今の僕にはいくらだろうと大金だ。


「僕、無一文なんですけど?」


 そう、無一文だ。元から無一文だったし、今日の実地演習の儲けは全て封印代に消えた。しかも、冒険者保険加入のための初期費三百イェンの支払いを待ってもらっている状態だ。既に借金を背負っている。


「今すぐにとは言わねえよ、半年待ってやる、並みの冒険者なら半年で三十万くれぇ溜まるさ、いいか、きっちり耳揃えて返せ」

「ひえ……」


 眼光だけで殺されそう本日二回目、この人ら本当に元パーティメンバーだ。眼光の鋭さと理不尽さがそっくりだもん。


 しかし、光明は見えた。

 今日の他の講習生たちの儲けを見れば、贅沢さえしなければ決して無理な額ではない。結構な節約生活になりそうだけど、しばらくはギルドの食事付きの寮に住めるし、貧乏暮しは田舎の実家で慣れている。


 むしろ、半年あれば三十万イェンくらいは楽勝じゃないか。


「寮の家賃も十日は待ってやる」

「あ、はい」


 そうだった。もう僕は明日から講習生ではなくF級冒険者だ。ギルドの寮に引き続き入るなら、通常なら五日以内に三万イェン払う必要がある。これは一月分の家賃と食堂利用費だ。


 更には、半年後にはギルドの寮からも出なければならないから、次の住処への入居費用や一人暮らしの準備のために、借金返済以外にも金は溜めておかねばならない。


 これはぜんぜん楽勝じゃなかった。

ちなみに、ギルマス執務室の修理費と家具弁償で合計百二十万イェンくらいです。物価は安めです。

主人公三十万イェン、グレンさんレヴィさんスイルーさんが一人十万イェンずつ、ギルド六十万イェンという負担です。


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