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闇属性の方向性  作者: 稲垣コウ
初心者講習
15/30

15.封印されし左手~~~うわ~~~~

 結局、目を通してもわからなかったけど、内臓売るとか借金の保証人になるとかいう文言はなかったからよし。僕はさっさとサインをした。


「はい、確かに」

 エルンさんに渡せば、さらっと目を通しただけで後ろに放り投げてしまう。


 エルンさんの後ろには誰もいないから放り投げたようにしか見えなかったけど、二枚の紙は宙を舞うこともなくパッと消えた。見えない何かが受け取ったみたいだ。


 それから、僕の手元にペラッと紙切れが現れた。


「解除と再封印は一気にやります、闇属性魔法は教会にも資料なくて何起きるかわかんないんだよね」

 何事もなかったように説明が続くから、僕は何も聞けない。スイルーさんを伺っても何も気にしていないようだから、こういうもんと思っておくしかなさそうだ。


「わからなくて封印できるんですか?」

「できるできる、私、この通り優秀なんで心配しないでください」


 この通りとは? 軽々しくて心配なんですけど。


 僕は早くもホイホイサインしたことを後悔した。

 しかし、もう後戻りはできない。エルンさんに渡した書類はどこかに消えてしまった。僕の手元には、書類の端っこを切り取っただけの控えが残っているだけだ。


「それでは始めさせていただきます、ヨナハン様ここにお座りください」

 エルンさんが畏まった態度になるが今更だ。座れっていうのも床だし。


「スイルーさんマジ見守っててくださいね、もしものことがあったら頼んますよ、私だけでも絶対助けてください」

「わかったから早くしろ」


 ほらもう畏まり終了してるし、自分だけ助かろうとしてるし、聖職者に有るまじき保身。スイルーさんもわからないでください。


「それではここに手を、そのまま動かず、神に祈りを捧げましょう」

 エルンさんはどうやら、切り替えスイッチがガバガバだということがわかった。


 僕は言われるがまま動くしかないので、魔方陣の端っこに左手を置いて、祈りの言葉とか知らないから、心の中でナンマイダーナンマイダーと念仏を唱えとく。


 そう言えば、この国の国教って名前すら知らない。

 冒険者ギルドの真横にこんな宗教施設があるのに、みんな教会としか呼ばないから正式名称を知らなかった。


 田舎の村では、一応、家に一つは神棚があったけど、祀っている神は知らん。祖母ちゃんが毎日コップの水をお供えしてて、たまに思い出したら祈っておくだけだった。

 結婚や葬式の時は近くの町から司祭が出張してきたけど、来る人によって微妙に作法が違ったから、それほど厳格な教えがあるわけではないのかもしれない。これはエルンさんに会って確信に変わりつつある。


 それでも、エルンさんの実力は、確かに言うだけはあるらしい。

 何かの本を開いて、お経のような呪文のようなものを読み上げていたかと思うと、魔方陣が光り始める。


 窓もないしドアも締め切られているのに、どこからともなく風が吹いてくる。それでも、床に敷いた布はぴくりとも動かない。


 光と風が魔方陣の内側の線をグルグルしていたかと思えば、僕の左手に集まって来て、見えない何かがしゅるしゅると、手に撒かれた布を解いていった。


 左手が完全に露出すると、ブラックホールを発動した時と同じ、暗い稲妻がバシバシと空間を走り抜ける。


 エルンさんは始める前はあれだけビビってたのに、今は微動だにせず平然と演唱を続けている。と思ったけど、あ、ビビってるな。黒い稲妻が走るごとにだんだんと演唱の速度が速くなってる。

 手に巻いていた布が魔方陣に吸い込まれるように消えると、今度は魔方陣の外側の線に沿って光が回り始めた。


 たぶん、解除が終わって、新しい封印の儀式が始まったのだろう。


 消えたと思った布がまたしゅるしゅると魔方陣から沸いてくる。でもたぶん新品だ。スイルーさんが巻いてくれたのは古着を裂いたような布だったけど、今度出てきた布は真っ白だ。

 それがまた僕の左手にクルクル巻き付いて、きゅっと締まり、仕上げとばかりに手の甲の部分に焼き印が浮かび上がる。鳥が翼を広げているような紋章だ。


 いつの間にか黒い稲妻も収まっていた。

 エルンさんの演唱に合わせて、魔方陣の光と風も少しずつ収束していき、パタンと本が閉じられた瞬間、はいお終い、と言われたような気がした。


 僕は手の甲にある刻印を見つめる。布の上だから、肌には付いていないだろう。しかし、これは、なんというか。


「手動きますか?」

 エルンさんに言われて、僕は恐る恐る左手を持ち上げる。白い布でぐるぐる巻きにされているけど、上手に巻かれた包帯みたいで動かすのに支障はない。


 手を開いたり閉じたりしても、動きに問題はなく、感覚も今までと変わりない。どれだけ動かしても布が緩む様子もない。


「問題ない、と思います」

「じゃあ成功だ」

 じゃあって、成功しない可能勢もあったみたいに言わないでほしい。


 でも成功したのは良かった。よかったけど、でも、この布が巻かれて刻印の付いた左手、これは、まさしくアレだ。




 封印されし左手~~~うわ~~~~




 僕は心の中で悶絶する。この場の誰も別に気にしていないけれど、僕の前世が心をむずむずさせるのだ。一人で勝手に赤面してしまう。

一般の魔法使いが使う魔法と、宗教関係者が使う魔法はジャンルが違います。

でも、魔法研究している人でもない限り系統の違いなんか気にしないので、全部ひっくるめて魔法です。


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