14.そんな二つ名付けられたら堪ったもんじゃない
全財産を失い、僕は人生で初めて教会へ来た。
とは言え冒険者ギルドの隣だけど、初めて見た時はここがギルドかと勘違いしたくらい立派な建物だ。その荘厳な建物の隣の、大きいだけで古臭い建物が冒険者ギルドだと知った時は、正直かなりガッカリした。
スイルーさんの後についてキョロキョロしながら教会の奥へ。正面の大聖堂は誰でも入っていいらしいけど、なんにも知らないのに入るのは気後れするから、中は見るのも初めてだ。
通用口みたいなところから入ったから、大聖堂の中はチラッとしか見えなかったけれど、天井が高くて彫像が並んでいて、なんか凄そうなことはわかった。
僕が連れて行かれたのは、地下にある儀式の間というところ。怪しい響きだけど、中はただしっかりした造りの小ざっぱりした部屋だ。
家具は何もない。部屋の真ん中に魔方陣の描かれた布が敷いてあるだけだった。
「どうも~、闇の魔法使いくん、司祭のエルンです」
室内で待っていた人は、見るからに宗教家みたいな恰好をした若い男だった。黒いスカートみたいなキャソックを着ていて、服装は地味で真面目なのに、雰囲気がどことなくチャラチャラしてる。
「闇属性なだけの冒険者のヨナハンです」
呼び方は訂正しておく。闇の魔法使いじゃ完全に悪役だし、そんな二つ名付けられたら堪ったもんじゃない。
「まだ冒険者でもない」
「冒険者志望のヨナハンです」
スイルーさんに訂正されて更に言い直す。そうでした。まだギルドカードも貰ってない講習生です。
「じゃあ早速これにサインを、こっちが封印解除の儀式申請書と、こっちが新しい封印の儀式申請書ね」
エルンさんが二枚の紙を出してきた。冒険者ギルドだけじゃなく、教会も事務手続きがとっても事務的だ。
「封印解除?」
「そ、今の封印は簡易術だから、一回解除してからちゃんとした封印を施すんです」
二枚の書類に首を傾げれば、エルンさんが軽く説明してくれる。僕は自分の左手を見てスイルーさんを見た。
「簡易術はただ魔法を封じるだけだ、そのままじゃ魔法が使えない、正式な封印術を施せば、暴走させずに魔法を使えるようになる」
「それも一時凌ぎですから、しっかり魔法の練習して、封印なしで使いこなせるようになってね」
なるほど、完全に封じる術から、ちょっと漏らす程度の術に変えるというわけか。
納得して僕は書類に目を通す。サインはちゃんと内容を確認してから、前世でも今世でも大事なことだ。
ちなみに、読み書きについては故郷の村で習った。村長宅で寺小屋みたいに子供を集めて読み書きと、簡単な計算だけは教えてくれる。たぶん、学校がない村などは大抵、村の中で読み書きできる人が子供らに教えるのが一般的なんだと思う。
でも、本当に基礎の基礎、前世だったら小学校一年生程度の学習だから、難しい単語の並ぶ書類なんかは読めなかったはずだ。
なのに、今は読めている。これは講義室にある資料を読んでいて気が付いたんだけど、前世の記憶を思い出したら、この国の言葉は英語に似ているということがわかった。
だから、最低限の基礎がわかっていれば、前世の知識と合わせて、だいたいの文章が読めるようになっていた。ラッキーだ。
封印解除の申請書には、誰がどんないきさつでこんな封印したから解除しますよ、ということが一通り書いてある。封印者の名前はスイルーさんかと思ったけど、知らない名前が書いてある。しかも長い。
「この、フレミネア、カハウ? ナホヤ、メニアレオ? って誰ですか?」
「私の本名だ、略してスイルーだ」
「どこら辺を略したらそうなるんですか?」
スイルーさん正しくはフレミネ・ア・カフュナホ・ヤ・メニ・アレオさんだった。苗字とか役職名とかもなく、全部名前だって。本名と愛称がほぼ掠ってない。
「わっかんないよねー、エルフ族の名前って一節の詩になってるんだって、それぞれの単語を古代読みして頭文字とって略すらしいですよ」
しらんけど、というような顔でエルンさんが教えてくれる。よくわからないけど、漢字の音読み訓読みみたいなものだろうか。
まあいい。どうせ覚えられなさそうだし、スイルーさんもギルドカードにすら「スイルー」としか書いてなかった。いや登録はちゃんと本名でしてるらしい。こういう魔法の儀式では本名じゃないといけないそうだ。
それはともかく、もう一枚の新しい封印の儀式申請書には、こんな術とあんな術を組み合わせて左手になんやかんやするとかなんとか書いてある。
うん、文章読めるだけでは理解できない。たぶん、なんかいい感じにしてくれるんだろう。
だが、理解できた箇所もある。封印には一年保証が付いていることと、不具合があった場合は今日から七日以内なら無料で再封印を行って貰えるそうだ。家電かな?
「封印って左手だけで良いんですか?」
「いいのいいの、素人魔法使いは最初に発動したところからしか魔法使えないから」
エルンさんの説明によると、人は初めて魔法を使った部位に何らかの回路が繋がるらしい。
訓練すればどこからとか関係なく魔法を発動できるようになるけど、何の訓練も受けていない素人なら、回路が繋がっているところからしか魔法は発動できない。
だから僕は、左手さえ封印すれば魔法を制御できるということだ。
安全策として、封印を施しているところからしか発動しないような術も施すという。だから、全身に封印の術をかけるなんてことはしなくていいんだって。
エルフ族の名前については今後に関わるような関わらないようなですが、本名はほぼ出てこないので覚えなくていいです。
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