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闇属性の方向性  作者: 稲垣コウ
初心者講習
13/29

13.金をむしり取られた上に教材にされた

 素材ごと全部消えちゃったじゃん。


 僕が僕の魔法に振り回されまくった後、とりあえず実地訓練の目的は達成したので、みんな帰還の輪で外に出て冒険者ギルドへ帰ってきた。


 そうして、買取カウンターの説明をされているさいに気が付いた。

 ミニコカトリスは黒い渦の中に丸ごと吸い込まれたから、素材も何も残っていないのである。これぞまさしく骨折り損のくたびれ儲け。


「初の魔法発動おめでとうございます、黒い竜巻のようなものが出たと聞きましたが、吹き飛ばすのではなく吸い込むとは興味深い」

「あの、僕じゃなくてモンスターの鑑定をしてください」


 買取カウンターにいた鑑定士のアルバートさんが、熱心に僕に虫メガネみたいなものを向けてくる。ただの拡大鏡ではないと思うけど、何が見えているのか僕にはわからない。

 しかし、僕は今ここに、モンスター買取の実習にきたのだ。


「これらは鑑定の必要ありません、あちらの買取価格表でご確認ください、流石はスイルーさん、ダンジョン内で布一枚でこれだけの封印術を施すとは、雑なところもありますが隙はありませんね、しかし実際の腕が見えませんね、ちょっと取ってみてもいいですか?」

「よかないでしょう」


 観察のためにここでもう一度暴走させろってか。アルバートさんは恐いこと言うし、肝心のモンスター買取は投げ遣りだ。


 いいけどね、言われなくてもカウンター近くに張ってある買取価格表に、ネズミもコウモリも虫も値段が載っている。

 もっと珍しいモンスターとか、状態の良し悪しで値段が変わる素材でもなければ、鑑定士の出る幕じゃないのだろう。じゃあ何でアルバートさん出てきた?


 僕の実地訓練での儲けはネズミとコウモリと虫で、しめて千八百五十イェン、今回の講習生の中で最下位だ。その場で硬貨と交換された。リサイクルショップの買取よりも早い。


 高額買取だと小切手みたいなものが渡されて、現金は冒険者ギルドに預けるということもできる。もっと高額買取になれば、銀行口座に直接振り込みになるらしい。

 まあ、全財産千八百五十イェンの僕には、口座開設なんてまだまだ先の話しだけど。


「まあそう落ち込むなって、魔法暴走させるやつってたまにいるしさ」

 ケルビンが声をかけてくれる。彼は一人でクレイモルを仕留めたが、クレイモルの爪は買取価格三千イェンと控えめだった。


「そうそう、俺の田舎でも前に風魔法暴走させて、家一軒吹き飛ばした子供がいたぜ」

 ショーンも声をかけてくれる。四人でミニコカトリスを仕留めたから、ミニコカトリスの羽と頭の売り上げは四人で山分けしていた。それでも八千イェンくらいの儲けになったそうで、ウハウハ顔だ。


 僕の田舎には魔法使いがいなかったけど、ルビウスくらいの街になると、魔法の暴走事故は度々起こるらしい。あれだけの損壊事故を起こしても、同期の連中の反応は予想外に気安かったのはよかった。


 よかったけど、でも、物理的にみんなと距離がある。


「そう言いながら、僕から距離を取るのはなんで?」

「そりゃ、なあ……」

「まだ仮封印なんだろう?」


 さっきから同期の講習生たちから一定の距離を取られている。近付いてくれるのはギラギラした目のアルバートさんだけで、正直恐いから離れてほしい。


 僕もみんなの気持ちはわかるけど、危険物扱いされるのは悲しい。

 自分の左腕を見る。スイルーさんにぐるぐる巻きにされた布がそのまんまになっている。巻いた時は白い布だと思ったけど、封印が完成した時点で謎の文字がびっしり浮かび上がっていた。


 見るからに危険物、しかもこれは仮封印だというから、今スイルーさんが隣の教会に行って、急ぎちゃんとした封印術を行ってくれるよう頼んでくれている。


「まあまあ、死人が出なけりゃ問題ねえ、強力な魔法使えてよかったと思え」

 買取カウンターの使い方も説明してくれたグレンさんも励ましてくれる。


 流石にダンジョンをぶっ壊すことは前例がないそうだが、初心者講習で魔法を暴走させて怪我をするやつは定期的にいるらしい。


「いくら強力でも、素材ごと消滅したら使えないですよ」

「ヨナハン、来い」

 ブチブチ文句を言っていたらスイルーさんに呼ばれた。封印の儀式の用意ができたという。


「で、買取はいくらになった?」

「何でですか? 千八百五十イェンでしたけど」


 なんか嫌な予感がしたけど、隠すことでもないから素直に答える。

 すると、スイルーさんは目を細めて考え込んだ。


「百五十イェン足りないな」

「え、もしかして、封印術って金かかるんですか?!」


 初心者講習での怪我は冒険者ギルド持ちで治療を受けられるはずだが、封印はまさか治療行為に含まれないのか。


「当然だろう、二千イェンは格安だ、あたしが値切ってやった上で七割保険負担にしたからな、まだ講習生で冒険者保険に加入してないが、特例で保険入ってることにしといた、加入手続きさっさとしろよ」


 値切って七割負担してもらっても今日の儲けより高い。僕は魂が抜けそうな気がした。


「わかったか、おまえらもできるだけ冒険者保険入っとけよ、教会の治癒魔法は有料だし、蘇生魔法はバカ高いからな」

 金をむしり取られた上に教材にされた。グレンさんの説明にみんな神妙な顔で頷いている。自動車学校で見たことある光景だ。


「それでも百五十イェン足りない、あたしが貸してやってもいいが、トイチで」

 スイルーさんが初めて優しい声を出したが、せこい暴利だ。この人、もしかしてドケチなのでは?


 そこで、後ろでコソコソ話していた同期の講習生たちが数名近付いてきた。

「カンパしてやるよ」

「俺も」

「私も」

「可哀想だから」


「……ありがとうみんな」

 数十イェンずつくれて百五十イェンになった。すごく憐みの目を向けられたけど、同情でも嬉しい。やっぱり持つべきものは仲間だな。


「じゃあ行くぞ」

「スイルーさんこの封印術はエルフ式に見えますがノームの精霊魔法に見られるケルタ語も混ざっているようでどのようにして融合させているのでしょうか対象がレア属性というのもあるでしょうがアルバフ魔法体形をケルタネイロ文法で表す意味は」

「十二ページと百三十四ページと百八十ページ参照」


 僕の腕を凝視して喋り続けるアルバートさんを、スイルーさんが一瞬で黙らせた。どこから取り出したのか分厚い魔法書を押し付けられれば、アルバートさんは玩具を貰った子供のように本に夢中になった。

 その隙に僕らはギルドを出た。




 というか、生活に困らないために能力くれるって言ったのに、授かった能力で金が無くなってるんですが神様ー!!


 神様に恨みの念を送る僕だったが、この程度の金欠はまだまだ序の口だったのだと思い知るのは、少し後のことだ。

ルビウスだと冒険者保険が効くのは教会だけです。

他の街だと薬師ギルドでも保険適用があったりします。

教会が治療魔法を独占しているという批判もありますが、この世界の野良治療師はあまり信用できないので、教会が真っ当な治療師を育てて真っ当な仕事を与えている状態です。


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