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闇属性の方向性  作者: 稲垣コウ
初心者講習
10/29

10.見た目がダサい

 まあ、粗末な小屋の中に入っていくだけなので、冒険の始まりだ!! なんていうテンションにはならない。


 ただ、地下への階段しかない小屋の中というのも、なかなか奇妙な雰囲気はある。小屋の中は明り取りの窓があるからまだ明るいけど、地下への階段は途中から見えなくなるくらいに真っ暗だ。


「ライト点けろ、一列で入るぞ」

 グレンさんの号令で僕らは灯りを付ける。


 ヘルメットの全面に簡易の光魔法陣が一個だけ付いている。使用時間は三時間程度、自分の全面をちょっと照らす程度の光量だし、見た目がダサい。

 でも、真っ暗なダンジョン内だと、自分の視界を確保するだけでなく、仲間の位置を知るためにも必要だ。自転車のライトと同じ。


 階段は人とすれ違えるかどうかという幅しかないので、僕らは一列に並んで下りていく。先頭はグレンさん、殿はレヴィさん、間にレッドさんとスイルーさんが並んでいる。スイルーさんは僕の真後ろだった。


 実地訓練の内容は簡単、まず一階層でダンジョンの基礎を復習して、第二階層で一人ずつモンスターを倒してみて、帰還の輪で帰る。

 出現するモンスターによっては数人で相手にする可能性もあるし、危険があるようなら即座に全員帰還ということも有り得るが、初心者講習で緊急脱出になるような事態が起きたのは数えるほどしかないという。


 一階層に下りても、ただの真っ暗な洞窟だった。

 階段は石畳で人工物っぽいけど、それ以外は自然洞窟のようなのがこの初級ダンジョンの特徴だ。階段も自然発生のはずなのに、石畳なのがダンジョンの不思議だ。


 一階層ではほとんど説明を聞きながら歩くだけ。たまにモンスターを倒してみるけど、一階層に出るのはネズミやコウモリみたいな小さいモンスターだけだ。

 一応、ダンジョンに生息するものはみんな魔力を持ったモンスターだが、ダンジョンネズミやダンジョンコウモリは外のよりちょっと狂暴って以外、特にモンスターらしい特徴はない。一応、肉や皮が素材になるけど、買取価格はどちらも十イェンだから回収する冒険者はほぼいない。


 僕らはこの後、冒険者ギルドに帰ってモンスターの買取なども体験してみるから、ネズミでもコウモリでも見つけ次第倒して回収している。


 モンスターの死骸は、ダンジョン内に放置しておけばそのうちダンジョンに吸収される。それでまたモンスターの出現エネルギーになる。だから、儲けにならないネズミやコウモリも、たまに集中駆除の依頼が出されるそうだ。


 ネズミやコウモリがスタンピートを起こしても死人こそ出ないけど、被害は大きいし、収拾が面倒だし、不衛生だから、ダンジョン内で処理できたらそれに越したことはない。

 ネズミの集中駆除依頼なんて、手間がかかるばかりで報酬は少なく割に合わない仕事の筆頭だから、よっぽど金に困っているやつしか依頼を受けない。


 というわけで、初心者講習ではネズミもコウモリも見つけ次第回収ということになっているのは、害虫駆除の一環でもある。まだ冒険者としてはぜんぜん使い物にならない初心者の有効活用だ。


 まあ、いいけどね。ネズミ駆除なんて田舎で散々やらされたし、鳥を獲るのも田舎じゃ子供の仕事だったから、コウモリも似たようなもんだ。


「お、いいのがいた」


 第二階層に下りる階段付近で、先頭のグレンさんが止まった。身振り手振りで静かに集まれというので、一列になっていた講習生たちがそろそろと集まる。階段付近は少し広くなっているのだ。


「風属性の素人の杖持ってるやつは前へ」

 前に出たのは三人だ。


 風属性の素人の杖で使える魔法は【旋風】ブレイクウィンド、つむじ風くらいの小さい竜巻が出る。


 グレンさんが指さした壁には、ゴキブリくらいの虫がごちゃっと固まっていた。冒険者になるやつで虫にビビるようなやつはいないけど、何十匹もの虫が固まって蠢いている光景は鳥肌を禁じ得ない。


「あれがダンジョンコガネムシだ、捕まえ方は覚えてるな?」

 グレンさんの問いに全員頷く。


 言われてみれば、甲羅の部分がカラフルに輝いている。細工物に使えるから、無傷ならばネズミやコウモリよりもずっと高い一匹百イェンで買い取って貰える。


「じゃあ、俺が音を出すからおまえらで獲ってみろ」

 そういうや否や、グレンさんはパンッと手を叩いて大きな音を立てた。


 途端に、ただ壁にくっ付いていたコガネムシが一斉に飛び立つ。どこかで「ひっ」と小さな悲鳴が聞こえた。気持ちはわかる。虫が平気でも沢山いたらキモイ。


「ぶ、ブレイクウィンド!」

 一人が魔法を発動すれば、残り二人も慌てて魔法を発動する。素人の杖を持っていれば何も言わなくても発動するそうだが、そこは素人なので、叫んでみる以外にまだ発動方法がわからなかったらしい。

 一つ一つは小さなつむじ風だが、それが三方からとなるとなかなかの威力だ。人が飛ぶほどじゃないけど、目を開けてるのが辛いくらいの突風が起きた。


 でも、高が素人の杖なので発動は一瞬だ。一回だけでも既に魔力を使いきって座り込んでいるやつもいる。

 そして、肝心のダンジョンコガネムシは、突風に振り回されて羽がグシャグシャになり地面に落っこちていた。


 こいつも一応はモンスターなので、羽が折れた程度のダメージなら、大した時間もかからず回復して動き出す。


「それ、さっさと回収しろ、また飛んでくるぞ」

 レヴィさんの声で、突風に驚いていた講習生たちが動き出す。みんな武器ではない素材回収用のナイフは持っている。


 ダンジョンコガネムシの捕まえ方は、音でビックリさせて跳び上がったところを風魔法で振り回し、地面に落ちたやつの腹を刺して回収だ。そうしないと肝心の背中の甲羅に傷がつく。


 大きさがゴキブリくらいあるから、うへぇと思いつつ回収していく。腹を刺してもまだピクピクしてるけど、流石に回復力が足りないからそのうち動かなくなる。腰に下げた袋の中で虫がピクピクしてるのは気持ち悪いけど、我慢だ我慢。


「今回の実地訓練は当たりだな、場合によっちゃ儲けが百イェンにもならないなんてこともある」

「こら、実地訓練はギルドに帰るまで油断するな」


 調子のいいレヴィさんにグレンさんが怒声を上げる。ランクだけはレヴィさんの方が上だが、初心者講習を何度もこなすギルド職員と、アルバイト講師の経験値の差だ。


 言うて回収できたコガネムシは一人十匹くらい、儲けは千イェン、一日美味いもん食えるくらいの稼ぎだ。


「じゃあ、ここで一旦休憩してから二階層に下りるぞ」

 講習生たちは固まって座り込んで、持ってきた水を飲んだり武器の確認をしたりする。初級ダンジョンの第一階層なら、食べ物を出さなければネズミやコウモリが寄ってくることはない。

この世界ではゴブリンやコボルト、オークとかオーガとかリザードマンとかは、意思疎通可能な亜人に括られるのでモンスターとしては登場しません。


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