1.今時の若者はみんな異世界転生が大好きなんじゃないのか?
「おお、勇者よ、死んでしまうとは情けない」
近くから爺さんの声が聞こえて僕は目を開けた。
「何だっけ、それ……ドラクエ? エフエフ?」
僕はあんまりゲームは詳しくないけど、ゲームの台詞だってことだけは知っているから、きっと有名なゲームの台詞なんだろう。
「おんやー? この台詞を聞けば若者はテンション爆上がりと聞いたんじゃが……」
横を見れば知らない爺さんが首を傾げていた。真っ白い髭を撫でながら「おかしいのう?」と呟いている。
痩せぎすで、真っ白いローブが入院着に見えるけど、表情はしっかりしていて元気そうな老人だ。髪も髭も長くて真っ白いから、もう少し恰幅が良ければサンタクロース役が似合っただろう。
「まあよい、いつまで寝とるんじゃ、ほれ、駆けつけ一杯」
「あ、これは、どうも……」
僕は言われるままに起き上がって、差し出された湯飲みを受け取る。駆けつけ一杯ってお酒のイメージあったけど、普通の湯飲みの中身は普通の番茶だった。温かい。
お茶でホッと一息吐いたところで、ようやく周りを見回す余裕ができた。
「えーと……ここは……どこでしょうか?」
見回しても何もなかった。
本当に、なーんにもない。どこまでも真っ白い場所だ。
全部真っ白だから、もしかして真っ白い壁に囲まれた場所なのかもしれないけど、立ち上がって確認する気にもならない。この場所の広さがわかったところで、どうせ、ここがどこかはわからない。
ほげーっと茶を飲むしかできない僕を眺めて、爺さんはなんだか憐れむような顔をする。
「ここは黄泉の国じゃ」
「黄泉の国って、あの、地獄とか天国とか三途の川とかある、あの黄泉の国?」
「そういうものを想像する人間もおるの、おぬし、自分の最期を覚えておるか?」
爺さんの台詞と憐みの視線を見れば、僕だって状況はだいたいわかる。
目が覚める前のことで思い出せるのは、病院に担ぎ込まれたところまでだ。
とある発展途上国に長期出張で滞在していたのだが、文化の違いや言葉の壁、現地と日本との働き方の違い、あとは地元の食事が身体に合わな過ぎて、フィジカルもメンタルもボロボロになったところに熱病に罹ってぶっ倒れ、現地スタッフの車で病院まで運ばれたことまでは覚えている。
そして、目を覚ましたら黄泉の国。
つまり僕は、死んだのだ。
「ええええええ?! 父ちゃん母ちゃんごめーん!!」
親より先に死ぬなんて、こんな親不孝なことはない。
きっと悲しんでいるだろう。いやでも、言うて兄ちゃんも姉ちゃんも弟もいるし、兄ちゃんと姉ちゃんがもう既に孫の顔も見せてるし、そこまでガッツリ落ち込むことはないとは思うけど、それでも普通に悲しむだろう。
「ちなみに今から生き返る可能性は?」
チラッと爺さんを見て、ワンチャンを狙ってみる。
しかし、爺さんはきっぱりと首を横に振った。
「ない、兄が遺体を迎えに行き、もう葬式も終わっておる」
「ひえええええ?! 兄ちゃんごめーん!!」
両親はパスポート持ってなかったし、姉ちゃんは一ヶ月前に出産したばかりだし、弟はまだ学生だ。すぐにでも海外に行けるのは兄ちゃんだけだ。
葬式も終わっているということは、火葬も済んで遺骨は墓の下、もう戻る身体もないわけだ。
「まあ、悲しむのも当然じゃが、そう落ち込むな、わしがとっておきのサプライズを用意したからのう」
ガックリ落ち込んでいる僕の肩を叩き、爺さんはにっこり微笑んだ。
「そう言えば、お爺さん誰ですか?」
「見てわからんか」
爺さんは偉そうに胸を張り、白くて長い髭を撫でる。その髭が自慢なんだろうか。
「うーん、魔法使いか、仙人?」
「惜しい、わしは神じゃ」
それ惜しいのか? と思わないでもないけど、言われてみれば確かに、真っ白い髪に真っ白い髭に真っ白い服は神様っぽいイメージはある。
「このわしが、憐れな魂にサプラーイズをくれてやろう、なんと! おぬし! 異世界転生できるぞ!」
ジャジャーン! と大発表するような爺さんだったけど、当然ジャジャーンなんて音はないし、スポットライトも当たらない。ただテンションの高い老人がいるだけだ。
「へえ、あー今流行りの」
「え?! 反応薄い……今時の若者はみんな異世界転生が大好きなんじゃないのか?」
ガビーンという顔をする神様は、よく言えば親しみやすく、悪く言えば俗っぽい。実家の近所に住んでたお爺さんの方がまだ威厳があった気がする。
「流行ってはいたけど、僕はそれほど興味なかったですね」
僕はオタクと言えるか微妙なくらいのサブカル好きだ。異世界転生ものも多少は嗜んでいるけど、そこまでハマる作品はなかった。
「いやー、でも本当にあるんですねこういうの、今までもやってらしたんですか?」
神様があんまり落ち込んでいるから、僕は気を遣って話を合わせてみた。気を遣われたいのは死にたての僕の方なんだけど。
「いーやー、初めてじゃ」
「え? 僕が初めて? なんで?」
「そりゃあ、その……流行っているらしいから、わしもやってみたくて」
この神様、本当に俗っぽいな。本物の神様なんだろうか。自称神の仙人か魔法使いって言われた方が納得できる。
「えー、でもこういうのって、なんかこう、もっとすごい未練があるとか、すごい異世界に憧れがある人が選ばれるもんじゃないんですか?」
僕は確かにもっと生きていたかったけど、大きな夢があったとか、未練を残してきたということはない。
強いて言うなら、普通に結婚して嫁さんとか子供とかほしかったなと思うけど、それだって海外に飛んだ理由が失恋だった。
しかも、失恋とも言えないくらいの失恋。あわよくばお付き合いしたいなと思ってた同僚のKさんが、同期入社したTくんと結婚を前提に交際していることを知り、幸せなお二人さんを近くで見ているのが辛くて、やけっぱちで海外出張に手を挙げたのだ。
だから、つまり、結婚願望はあるけど相手は特にいなかったから、未練らしい未練もない。
どうして自分が選ばれたのかさっぱりわからない。
神様は何故か真面目腐った顔になった。
「そこはおぬし、わしは神じゃぞ、神は平等であるべきじゃろ」
「まあ、そうですね……」
正直言うと、僕は神道で仏教で無神論者っぽい日本人だから、絶対的な神様はあんまり信じていないけど、目の前に神様がいるのでとりあえず同意しておいた。
「だから転生する魂の選定は、まずこれをジャッと回し」
そう言って神様が取り出したのは地球儀だ。小学校とかにありそうなまあまあ立派なやつ。
「これをピッと投げて」
次に取り出したるはダーツの針だ。百均で売ってそうなプラスチックの羽の付いた安っぽいやつ。
「当たったところで今まさに肉体を失った魂を、これでサッと掬い上げ」
次に出てきたのは虫網だ。夏場だとスーパーの入り口でも置いてそうな普通の虫網だ。
それにしても、どこから出てきているんだろう。真っ白いところから、ポンポンと物が出てくるのは神秘に見えなくもないのに、出てくる物がどれも馴染みがあり過ぎて神秘的に思えない。
「掬った魂をこのガラガラに入れて」
もうガラガラって言っちゃったよ。商店街の福引とかである回すと色玉が出てくるガラガラだ。
「回して、最初に出てきた魂がおぬしだったというわけだ」
「いや本気でランダムなんかい!!」
どうでもいい情報ですが、転生前主人公は24歳日本人男性、独身、一人暮らし、彼女いない歴3年、専門学校卒業後20歳から会社勤めを始めました。
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