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 敵部隊損害2 それに対し、我損害なし。完璧な戦果だった。

 フェリペ空軍機を退けた俺たちは、夕暮れの中、アーゼンバーグ基地に帰還した。


「ナスカー3、着陸の着陸を確認。

 素晴らしい、ブランクを感じさせない見事な戦果だ。ブラックノーズの異名は健在のようだな」


 顔なじみのようだが、実は顔を知らない管制官は惜しみない賛辞を送ってくれた。


「ありがとう。皆のお陰だ、全員によろしく伝えてくれ」


 ヘルメットのバイザーを開けると、コックピットのミラーには充実した表情を浮かべた自分の姿が映っていた。無理に空に飛び出して正解だった。その時、エミリーの機体ら無線が入ってきた。これは他人に傍受されない個別回線だ。


「ナスカー3、いえ先輩……聞こえていますか?」

「ああ。聞こえているぞ。どうぞ」

「正直、心配でたまりませんでしたが……先輩が以前のように戻ったみたいで、よかったです。なんか元気がなかったので」

「……ああ、悪い。心配かけたみたいだな。でも、少し緊張していただけなんだ」


 やはり、エミリーに真実を伝える勇気がなかった。だが、全ては過去だ。これから何もかもをやり直せばいい


 けれども、身体は盛大に悲鳴をあげていた。駐機場でタラップを使い、苦労してコックピットから下りて、背後を振り返ると整備士たちがバケツを持って集合していた。


「我らがエース、ブラックノーズに乾杯!」

「ま、待て!」


 整備士たちはバケツ一杯の水を俺に放って、手荒に祝ってくれた。


 ◇


 戦闘後の事後報告会に出席したことまでは覚えている。気がつけば、俺は部隊詰め所のソファで眠っていた。窓から見える空は夕方の空をしていた。


「だいぶスッキリしたな。1、2時間程度ってところか?」

「いえ、丸一日です」


 突然、背後から声をかけられて、俺はソファから転げ落ちそうになる。後ろを振り返ると、クスリと微笑むエミリーがいた。


「エミリーいたのか? 待て丸一日。寝ていたのか?」

「ええ。あんまりぐっすり寝ていたので、起こすのも憚られて……珈琲をお待ちします」

「いいんだ。俺はもうお前と階級はタメで、隊長でもない」

「いいえ、先輩は先輩ですから」

「よしてくれ。士官学校の伝統なんて、現場で使うもんじゃない。そんな心構えでは上には行けないぞ」


 彼女がいた士官学校では、まだ階級をもらってない上級生のことを「先輩」呼びし、敬意を払う伝統があった。しかし、現場では階級が全てだ。


「ふふ、私がそうしたいからそうするんです。コーヒーもう少し待っていてください」

「あ、ああ。悪いな」


 彼女は少し大人びただろうか? 微笑みから見えるちょっとした色気に、心臓が高鳴る。何かノイズが欲しくない、部屋にあったおんぼろのテレビをつける。


 ニュースが流れており、15から18歳ぐらいの少年と男性司会者が討論を繰り広げていた。


「……兵器では何も解決できません。 何故、話し合おうとしないのですか? 撃ち合うより手を取り合う。その方がいいでしょう? こんな簡単なこと小学生の子供でも分かります!」

「うーん、言葉の重みが違いますなぁ。このまま、フェリペと戦争するよりかも講和したほうがいいというのは私も思いますよ。 前の戦争も、今の戦争も軍部の暴走ですよ。彼らは誰と戦っているんです? 見てください。この平和で真っ青な空を。どこに敵がいますか?」

「ミサイル一発、数百万もするようです。それだけの額があれば、先進技術への大規模な投資ができる。我が国は先進国の仲間入りをしないといけない、何が何でも」


 つまらないニュースだった。本当に。

 こいつらはきっと昨日、奴らが領空のそばまで来ていたのを知らないのだろう。いや、知っていても大したことがないとほざくのだろう。というかなんだこのガキは。


「……先輩?ああ、この子はコレア・ピータソン。少年ジャーナリストだとか」


 エミリーが聞かせてくれた話によると、彼は子供の頃、故郷で戦争そこで撮った写真が世界的に評価され、今では彼は人道家として一部でもてはやされているらしい。


「どうせ、バックに金に群がう大人たちが居るに違いない」

「そうかもしれませんが、自分で物事を考えて、行動するのは立派だと思います」


 彼女は他にも政権が今回の戦争を長引かせないように講和の道を水面下で探っていると教えてくれた。俺たちの昨日の戦闘が報道されないのは、フェリペ王国を刺激しないためだと。


「バカバカしい。敵国に接待して戦争する国が何処にあるんだ?」

「ええ。フェリペ王国の主張は乱暴で、身勝手極まりないものです。先輩もそうお思いで?」

「えっ? ああ、もちろんだ」


 実のところ、俺は政治的なところには興味はない。

 ただ仲間と国を守るために戦った。

 だが、フェリペ王国に仲間たちをやられたが、それは相手からしても同じなのだから、個人的な憎しみもあまりない。そして、守った国からはこの扱いだ。


「それにしても、戦時中なのにこんな番組……平和慣れというものなんでしょうか? 先の戦争ではリストニア本土はいたって平穏でしたから。でも、いづれはきっと皆わかってくれる筈です、私たちが皆を守ったってことは」


『所詮、あなたは人殺し!』


 俺の脳裏にかつて投げられた暴言がフラッシュバックする。エミリーは胸に手をやって、意気込んでいる。

 滑走路では、戦争に備えて別の部隊が飛行訓練の為に飛び立とうとしている。


「今回だって、私たちが皆を守れば……!」

「……守る価値なんてない」


 離陸していくジェット機の爆音が俺の言葉を遮った。


「ごめんなさい、離陸の音でよく聞こえませんでした」

「ああ。そろそろ珈琲をもらいたいなって」

「あっ、ごめんなさい」



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