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09 リストニア-フェリペ戦争 『引き時が分かる男』

 それは偶然の出会いだった。私はキタザワ・シンゴ。国際航空技術博覧会に取材に訪れていた時、とある投資家と話をする機会があった。彼は、5年前に起きた『リストニア-フェリペ戦争』で実戦を経験した元フェリペ王国空軍の戦闘機パイロットだった。


 そして、非常に興味深いお話を聞けた。


 元フェリペ王国空軍 第3航空団 第11戦闘飛行隊

 マーチン・ゲハルド氏


「投資というのは引き際が重要でね。欲をかくと大損をこく。私はその引き際を、空軍時代に学んだんです。逃げるが勝ちってね」


 彼は煙草を吸いながら、冗談めかして笑った。


「休戦が終わり、私の部隊はすぐさま、フェリペ海上空の制空権確保の為に出撃を命じられました。あの頃の私は自信に満ち溢れていました。こう見えても、士官学校をそこそこの成績で卒業していてね。早く敵機を撃墜してやろうと息巻いていた」


 それから彼は背広から、メモ帳を取り出した。投資のメモやその他、いつも持ち歩いているのだという。その一ページ目に、黒い機首のタイガーⅡ戦闘機のスケッチが描かれていた。


「あの時の事を忘れないよう、これを挟んでいるのです。こいつに私の尊厳はすべて奪われた。レーダー上の敵機は4機、私たちは6機。負けるはずがない。当時2番機だった私はそれに少し不満だった。これでは勝って当然だ。互角か劣勢の状態で勝たなければ名声は得られないと」


 しかし、違ったとゲパルド氏はため息をついた。


「地上管制官が敵機は5機といったんです」


 ◇


 空戦が始まって3分、空には幾多の飛行機雲が螺旋を描き、敵と味方が入り乱れて戦っていた。その間、俺はエミリーからの助言通り、彼女の背後から状況を伺っていた。

 味方の後ろに隠れる――なんとも情けない響きだが、こうすることで、敵のレーダーでは重なり、コンピュータは一機だと誤認してしまうのだ。

 エミリーは更に出来るようになった。後ろから見れば、彼女の機動を見れば分かる。しかし、敵機もしぶとく逃げ、空戦は膠着状態となっていた。その時、俺は動いた。


「ナスカー2、スイッチだ。配置を入れ替えるぞ」

「で、ですが」

「俺がやる、援護してくれ。今、左にブレイク!」

「……了解!」


 エミリーは理解してくれ、機体を左に翻した。代わりに俺が前に出る。ゴルフボールサイズに見える敵のフィッシュベッドはエミリーの動きに反応して、彼女を追おうと旋回を開始した。

 やはり、敵は彼女の後ろに重なっていた俺の存在には気づいていないようだ。その勘違いは命取りだった。俺はタイガーの機首を敵の進路上に滑らせた。敵のエンジン排気熱をミサイルのシーカーが捕えた。


「ナスカー3、Fox2!」


 翼から発射された対空ミサイルは、白い尾を引いて、フィッシュベッドに飛翔し、さく裂した。


 ◇


「信じられませんでした。敵のタイガーが分裂していたのです!

 だが、気づいたときにはもう遅かった。煙を引きながらミサイルが飛んできていて、フレアも間に合いませんでした」


 彼は興奮しながら話した。重なるほどの密集飛行というのは、アクロバット飛行で目にすることがある。しかし、それを複数機が入り乱れる戦場でやってのけるとは、にわかに信じられなかった。


「機体の翼がもげ、嫌な浮遊感が私を襲ったとき、反射的に脱出レバーを引いていました。パラシュートが展開して、呆然と空を漂っている時、私を落とした敵がもう一機を追いかけているのが見えました。見惚れるほどに無駄のないシャープな旋回だった。


 そいつのタイガーは黒い機首だった。ブラックノーズですよ」


「ブラックノーズ」


「ええ。

 とにかく、私は運よく海軍の船に救助され、本国に帰還しました。私は必死に後方勤務を懇願しました。臆病者と後ろ指をさされましたが、私は間違っていない。

 次に、空であんなのと出会ったらお終いだ。身を退いたんですよ」


 彼は煙草を灰皿に押し付け、失笑した。


「私は安全な戦場で勝負をすることにしたんです。投資という戦場でね。あの黒い機体と違って、株価の動きはまだ読めるからね」


















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