05
あの日、警官に捕まった俺はまるで何人もの人を殺した重犯罪者のように護送車に乗せられ、拘置所に連れていかれた。
連れていかれた直後は、かなり興奮していたし、混乱していた。なんで俺がこんな目に合わなければいけないんだ裁判でも取り調べでもやれと、怒鳴り散らしていた。
しかし、俺はすぐさま、独房に押し込まれ、取り調べすらもなかった。
固いベッドと粗末な椅子しかない窓すらない劣悪極まりない部屋だ。カレンダーも、時計もない。裁判でも、取り調べでも、面会でもいいから、誰かと言葉を交わしたかった。だが1日経っても、3日経っても、1週間たっても、何も起きなかった、
「なんで俺をここに閉じ込めたままなんだよ!取り調べや裁判はないのかよ!」
「さぁ半年もすればあるんじゃないか?まぁ気長に待てよ、生徒ぶんなぐって長期休暇だぜ?」
看守から適当に返された言葉に絶望した。半年、こんな独房で?
「……頼む、弁解させてくれよ!なんで俺はこんな目に……!」
「なんだこいつ……俺に言われても知らんよ……じゃあな」
頭がおかしくなりそうだった。それからはもう何日経ったのか分からなくなった。最初のうちは、ずっと復讐を考え、自分に降りかかる理不尽を嘆いていた。
2、3週間経ったのか……もうそれすらわからないが、なにも変化はなかった。決められた就寝時間にベッドで眠り、決められた起床時間に起き、1時間グランドを歩き、その後は椅子に座って壁の一点を見つめる。
そのうちどんどんプライドが削れていった。
本当は俺は立派な軍人なんかじゃなかったんだ。そう思い込んでいる精神異常者だったんだ。だからこういう目に合う。
誰も面会なんか来てくれない。俺の存在なんて誰も知らない。
このまま孤独に死ぬというなら、一度だけでいいからまた戦闘機に、タイガーに乗って飛びたい。自由な空じゃなくてもいい、戦場の空でも良いから、あの感動をもう一度だけ。
だが、俺の考えとは関係なく、世界の方が動いた。
ある日、監獄に複数人の足音が響いた。どうせ、俺には関係ない。ずっと壁だけを見つめていた。が、その足音が俺の監獄で止まった時に流石に違和感を感じた。
「アンタも大変だな。こんなロクデナシのクズと同僚だなんて」
「何もわからないなら、黙ってろ」
「お、おい、ちょっとした冗談じゃないか」
「……チッ、なんでこんなことに」
刑務官と言い争う声は聞いたことのある声で、俺は思わず、振り向いた。
第2航空団第21戦闘飛行隊第2分隊ナスカー飛行隊 二番機パイロット、ハーバード・アイズマン。
俺の元部下にして、戦友がそこにいた。
「どうして、お前が此処に?」
掠れた声で俺はハーバードに尋ねる。
「連れ出しに来た。行こう」
訳の分からないまま、ハーバードと一緒にやってきた兵士それに刑務官に連れ添われて監獄を出た。未だ自体がつかめない俺を彼は軍のヘリに乗せた。
「何が……どうなってるんだ……?」
「これはまだ国民には発表されていないが……フェリペが休戦協定を破棄することを外交ルートで伝えてきた」
「宣戦布告か?」
「そうだ、また戦争だ。退役軍人にも召集命令が出た。焦ったよ、隊長を探しに行ったら、生徒ぶん殴って捕まったって聞いて」
大したことないように、ハーバードは笑い飛ばす。
「お前も俺をロクデナシの犯罪者と思うのか?」
「なんでだ?」
「……だって俺は生徒をぶん殴ったんだ……世間だって俺を」
「別にいいだろ、それぐらい。俺たちがヒヨッコ時代に、何度、教官から殴られたと思っているんだ?
それに、背中を預けていた戦友を裏切り程の薄情者じゃないぜ」
俺は顔を伏せた。ヘリの爆音が、情けないすすり泣きを消し去ってくれた。
「俺は必死に守った奴らが憎い。空に戻りたい。でも、こんな気持ちで俺は戦えるのか?」
「大義なんて要らないだろ? 欲しいのか? 自分の欲望の為に戦えよ。タイガーに乗りたいんだろう?」
「……ああ!」
そうだ、俺はとにかく飛びたい。あいつらは勝手に下で怯えていればいい。随分と気が楽になった。全くどっちが隊長なんだか……。
「ああ、あと俺ナスカー部隊の隊長になったから。恨むなよ」
どうやら、本当に隊長ではなくなったようだ。
「さてと、また戦争になるぞ。この次も頼んだぜ、トニー」
人々が恐れ、畏怖すべき戦争、だが、俺はそれに期待していた。