04
手の中でチョークがへし折れても、殆どの生徒たちはへらへらと笑っていた。ジェシカだけは、顔を真っ青にしていた。
「おいおい!怒ってますアピールか?」
「黙れよ」
にやにやとした表情を浮かべて、スイフトは俺の方に近づいてくる。生徒たちはまるで面白いショーが始まるかのように、こちらに注目している。
「あんたパイロットだった頃のつまんない話をしたことあるよな?
自分たちはすごかったって、国民を守ったって。 嘘つくなよ?オチマスオチマス!って真っ逆さまに落ちるのが得意なんだろ?」
「謝れ。俺たちは必死に戦ったんだ。お前たちを守るために。」
「嘘つくなよ!本当に戦争なんてなかったんじゃないの? ほら吹き教師が! 仮にあったとしてもお前たちがいなくてもどうとでもなるんだ」
「……なんでここでのんきに授業を受けていられるのか考えたことがないのか!?」
「親が金出してくれるから!アンタらはい!ら!な!い! だって、生徒も殴れないような臆病者が国を守れるわけないだろう、やってみろよ!」
沸き立つ教室。きっとこいつらは、この蛆虫どもはこれを平凡でつまらない学園生活に舞い込んだちょっとしたイベントとしか思ってないんだろう。
スイフトが俺に向かって拳を振り上げる。
生徒が教師を殴るという非日常に歓声が上がり、悲鳴も上がる。俺は無抵抗でその拳を受ける。
おいおい棒立ちだぜ! もっと本気で行こうぜ! いい気味ね
周りはスイフトが手加減したと思っているらしいが、彼は本気で殴ったのだろう。微動だにしない俺を見て困惑している。
「何だ?今のパンチは?」
今度はスイフトに俺が詰め寄り、奴は狼狽える。
「は?……お、おい俺を殴る気か?やめとけよお前なんかのパンチじゃ……生徒に手を上げるつもりかよ?」
……生徒と教師。 だからどうした?
俺はスイフトの顔面に本気の右腕を叩き込んだ。鈍い音が響き、先ほどの威勢空しく、無残に倒れこむ。
口から血を吐いたようだ。とても苦しそうにせき込んでる。
「きゃああああああああああ!?
「教師のすることかよ!?」
「私、別の先生呼んでくる!」
「人殺し……!」
俺は倒れているスイフトを胸倉をつかんで、無理やり立たせる。
「立て!」
「……や、やめろよ!お前教師だろ?こんなことしていい筈……」
「ああ、そうだよ! だから、教えてやるんだよ! 言っていいことと、悪いことがある!
ああ!?」
「ひぃっ……」
スイフトは情けない声を出して、漏らしやがった。まだ説教は最初の最初だろうと、俺は両手で胸倉をつかみ上げる。その時、慌ただしい足音と共に、他の教師たちがやってきた。
「ハミルトン先生!何をやってるんだ!やめなさい!」
「きょ、教育者失格だ!」
俺は同僚たちを一瞥する。彼らに様々なことを質問したが、返ってきたことはなかった。
「……この中で、ミサイルに追われた奴はいるか?」
「何を言ってるんだ!?」
「お前らはミサイルに追われたことも、機銃弾が掠めたことも、仲間が目の前で死んでいったこともないんだ、ましてや命がけで戦ったこともな!
なのになんで俺は説教を受けてるんだ!
何も知らない連中に!
俺はこんな奴らの為に戦ってたんじゃない!」
「はぁ!?」
教師たちが困惑する。生徒たちは一目散に教室の外に逃げる……まるで俺が凶悪犯罪者のように。そこに教頭が現れた。
「意味不明なことを!所詮あなたは人殺しだったようですね!生徒に手を上げるなんて! 私が責任をもって断罪します! 皆さん、あの野蛮人を捕えてください!」
十名程度の警官が俺に銃を向けて入ってきた。なんで俺に向けてるんだ?
「動くな! 大人しくしろ!」
「聞け!俺は――」
「言い訳なら署で聞く!」
俺は言葉を聞いてもらうことなく、警官に手錠をかけられて連行された。
消えろ! 怖い気分悪い…… 死刑になってしまえ! 戦争で死ねばよかったのに! 死ね!
生徒に教師は、俺を化け物を見るような目で見る。
「ふざけるな!俺が何をした!」
叫びも空しく、俺は犯罪者となった。