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ランサー隊が出撃する直前、部隊長デモンと基地司令マクミランの意見は対立していた。
「トニー・ハミルトン中尉にはFS-Xの試験のみやらせれば良い。苦労して奪った機体を何故戦場に出す?」
「数で劣る我々には戦力が必要です。彼と新鋭機なら力強い」
「それは聞いた。FS-Xの能力が素晴らしいというのなら、君が乗ればよいだろう。何故、中尉を使おうとする?」
「もう一度、申し上げます。彼と新鋭機なら力強い」
食い下がり続けるデモンに、マクミランはため息をつく。
「リストニアを裏切ったとはいえ、リストニア人だ。裏切らない保証はどこにある」
「彼と戦った私にはわかる」
「空戦で彼の魂まで確かめたというのか?」
「ええ」
デモンは身を乗り出すようにして答えた。
「もう何を言っても無駄なようだな。だが、監視要員として、私の部下パトリシアを監視に付ける。……ハミルトン中尉が何かしでかしたら、撃ち落せ、いいな?」
「承知しました」
◇
「……という話があったんだ」
敵機の迎撃に向かう途中、他愛もないような口調でデモンは事の顛末をすべて話した。
「少佐、何故本人に全て話してしまうのですか……!?」
どうせ、監視されているのだろうと分かり切っていた俺よりも、全てをバラされたパトリシアの方が絶句していた。背後に見える彼女の機体が動揺するようにほんの少しバンクした。
「私のお婆様は人に隠し事はするなとよく言っていたものでね」
「少佐、冗談ではありません! これは上層部に対する命令違反です!」
「告げ口したければ、言えばいい。上層部よりもお婆様の方が恐ろしい」
パトリシアは俺の機体に横付けすると、ヘルメットのバイザー越しでもわかるぐらいに激しい眼孔を向けて来た。
「リストニア人!私は情には流されない、冷徹に任務を遂行するまでだ。貴様には同胞を撃つことができるのか?」
「大した問題じゃない、空戦で流れる血の色など見えない」
「……!」
彼女が俺の言葉に何か言い換えそうになった時、機体の警報システムが背後から迫る機影を警告した。
「増援は聞いていない」
「敵か!?」
俺と彼女の機体は素早く感覚を開け、交戦体制に移った。
「待ってくれ。それは私が呼んだ味方だ。君たちでは少々息が詰まると思って賑やか奴を連れて来た。名前は――」
「イヤホオオオオオオオオオオオオオオオオオウ!」
デモンの言葉を邪魔するかのように、無線にうるさい声が響き渡り、思わず顔をしかめる。その直後、俺たちの編隊の真上を高速で赤いシルエットが通過していった。
赤い機体、機種はフルクラム、MIG系の新型機だ――覚えがある、確かそいつの胴体には派手な文字が描かれていて――。
「ロックンロールだ! どうやら、空軍の上層部共もようやくこの俺ダンビービ様の重要性が分かったようだな!? 」
「……マイク・ダンビービ、外国人傭兵部隊きっての問題児ではありませんか」
パトリシアが頭を抱えたような口調で、苦々し気につぶやく。俺も彼を知っている。『ホエルオー作戦』で相対したイカれたエースパイロット『赤いMIG』だ。
「デモン、俺に頼って正解だったな! それに、尻のでかいパトリシア中尉閣下、お会いできて光栄だ! それから……アンタ、誰だ? 何だそのイカみたいな戦闘機は」
ダンビービは俺の機体をしげしげと眺めて、周りをジグザクと飛び回る。
「君と同じ外国人……の傭兵だ。仲良くしてやってくれ」
「はっ、俺はルーキーのおもりなんて御免だぜ」
ダンビービは俺の機体の真上に躍り出ると、機体を滑らかにひねって背面飛行を始めた。コックピットがこちらを向き、反転したパイロットのシルエットが見える――その右手が、明確にこちらに中指を立てていた。
「よお、ご挨拶だ。お前は俺について来れるか?」
「……一度やったことがある」
「はぁ? 初対面だろ」
「二人とも、戦場を何だと思っているんだ!」
ダンビービの間の抜けた声と、パトリシアの焦ったような声、そしてレーダーが機影を感知する警報が鳴りだした。
「これ以上、愉快な仲間は募集していない。これは敵だ。リストニア空軍機数は8機、前衛・後衛で4・4のフォーメーションを組んでいる。
丁度いい。デアデビルとダンビービに迎撃を任せる。私とパトリシアはバックアップとして、彼らの戦いぶりを見せてもらうとしよう」
デモンが指示を言い終える直前に、俺は機体をリストニア軍機の方に向けてバンクさせていた。同時にダンビービも激しい制動で迎撃に走る。
「うおおおおおおおおおおおおおおお! ドックファイトだ!」
クソ、いちいち騒がしい奴。俺はダンビービの回線チャンネルだけ音量を絞った。
集中しろ。
リストニアの時とやることは同じだが、次こそは失敗が許されない。
空で価値を示す。




