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「新たに生まれ変わった新生リストニア軍に乾杯」


 政府施設を間借して行われたリストニア軍部の祝勝パーティにて、壇上のホンプスキー司令は高らかにグラスを掲げた。

 私、エミリー・アウア―も栄えあるリストニアのメンバーとして、この式典に出席した。

 リストニア軍は膠着状態だった戦争を奇襲攻撃で、一気に優勢に立て直した。この奇襲攻撃は具体的にどういうものかは明らかにされなかったが、ホンプスキー司令が考案したものらしい。彼はその功績が認められ、軍での主導権を握った。

 国民たちも戦争での大きな成功を知ると、批判的な態度を改め始めた。


 事実、このパーティにはリストニアを代表する企業の重役たちも来賓として出席している。その中には、私の家族もいた。


「エミリー」

「お父様、お母様」

「そう畏まるな。立派な功績を上げたな。親として誇らしいよ」

「ありがとう、お父様」


 誇らしげな父とは裏腹に、私の心中は曇った。栄えあるリストニアの広報部は、ハーバートを私を英雄に仕立て上げた。先輩のスコアは私達2人に振り分けられた。敵の新型機相手に孤軍奮闘し、志半ばに散ったハーバードと、その志を受け継ぐエミリー・アウア―と言う訳だ。


 先輩、彼の名前は軍から完全に抹消された。


 母は穏やかに微笑みながら、私のことを心配してくれる。


「エミリー、素晴らしいことをしたのは分かるけど、命あってこそよ。死んでしまっては元も子もないのですよ」

「はい」


 トリガーを引いてしまったことを思い出す、死んでしまったら元も子もない、心からそう思う。


「良い相手は見つかったの?」

「……いいえ」

「では、自分の区切りの良いタイミングで家に戻ってきなさい。品の良い殿方たちが貴女とお会いしたいそうよ」

「ええ、考えておくわ」


 父と母に別れの挨拶をすると、別の実業家の方が話しかけて来た。

 会場には軽食が用意されて、品の良い笑い声が響く。数年前までこういった催しを自粛していた時とは大違いだ。


(ねぇ、先輩……。あなたが見たかったのはこういう風景じゃないのですか? ほんのもう少しだけ辛抱いれば……)


 話しかけて来た相手に空返事をしながら、私は彼に問いかけていた。その時、会話に強引に割って入るようにある人物が現れた。


「申し訳ない。アウア―中尉と軍事の話があるので」

「……ミケルセン・ノイマン中尉」


 白虎との二つ名を持つ、エースパイロットにして、先輩のライバルであったパイロットだ。私は顔が強張るのを感じた。ミケルセン中尉は先輩を知っている。彼は微笑みを浮かべていたが、目は笑っておらず、周りに聞こえないように低い声で尋ねて来た。


「どういうことだ? 何故、奴のスコアが無かったことにされている? そもそも、どうして、この場に居ない?」

「そ、それは……」


 思わず、視線を逸らす。だが、視線を逸らした先にはホンプスキー司令がいた。彼はじっとこちらを見ている。先輩が最新鋭機を奪い、逃走を試みたことは禁則事項トップシークレットだ。口から出まかせをいうしかなかった。


「彼は、上官に対して問題行動を起こし、降格処分を受けました」

「何?」


 ミケルセン中尉は目を見開く。私はその眼圧にじっと耐える。しかし、彼はややあって息を吐いた。


「そんなことだろうと思った。どうせ、自分は冷遇されているとかなんとかいったのだろう? じゃあ、奴は新型機を受領していないのか?」

「ええ、旧式機のまま……」


 ”タイガーⅡとフルクラムだと? 旧式戦闘機のままで、どうやって戦えばいい!?”


「呆れた。肝心な時に感情を抑えられないとは、見下げた男だ。これではスコアで勝っても意味がない。理不尽に耐えて、真面目に軍務を続けて来た君や我々の方が評価されて当然だ。そう思うだろう?」

「……そ、それは」

「アウア―中尉? はぁ、君はまだあの男のことを買っているのか?」


 ミケルセン中尉はそう吐き捨てると、用は済んだとばかりに立ち去ろうとする。しかし、足を止め、私に言葉を投げた。


「奴に伝えてくれ。早くこの高みに上って来いとな」


 もうあなたのライバルはいないのです、そう叫びたがったが、出来る筈もなかった。


 ◇


「うっ……!くそっ……!」


 フェリペ王国、バーテンダー基地にて、俺は一人用の士官室をあてがわれた。もちろん、外に見張りはいるが、鉄格子の中とは大違いだった。しかし、俺はフラッシュバックにうなされている。鉄格子、迫る足音、狭い個室はそれを連想させる。

 こんなところに居られるか……!


 扉を乱暴に開けると、警備兵が驚いた様子で声を荒げる。


「な、何をしている!」

「少し、機体の様子を見に行くだけだ」

「外出の許可は出ていない、部屋に戻るんだ!」


 だが、警備兵の後ろから現れたデモン少佐が彼を窘めた。


「行かせてやれ」

「しかし」

「機体に燃料は入っていない、山の中だ。何処にも逃げ場などない」


 二人が言い合う中、俺はその間をすり抜けるようにFS-Xの格納庫へと向かった。外は酷く冷えたが、格納庫の中は多少はマシだった。


 昨日、FS-Xの到着後、この基地の整備士たちが機体を調べようとしたが、リストニアの新型機は彼らには解読不能だったようだ。数日後に、フェリペ王国の航空技師たちが到着し、この機体を調べ上げるそうだ。それまでは正体を見られないよう、基地の離れたところにある格納庫は俺の心を落ち着かせた。

 しかし、その時、小さな足音と共に、静かな声がした。


「え、これは何? 一昨日まではこんなの、なかったのに」


 軍人だらけの基地ではまず聞くことが無い鳥のさえずりのような透き通る声、そして、そのイメージ通り、基地には不釣り合いの私服のパーカーを着た大学生ぐらいの女が現れた。

 その女は、俺を見て、呟いた。


「……あなたは? 」



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