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 俺はデモン・バトラー少佐のエスコートされ、共にフェリペ王国の山地を目指していた。


「東のユーロ市街地は避けて飛ぼう。あそこはもうリストニアの占領地だ」

「リストニアがフェリペ王国を占領?」

「何……知らないのか? 何かおかしいと思っていたが、君はリストニアの中で一体どういう扱いを受けて来たんだ?」

「ただの兵隊だ。使い捨ての駒だ」

「……。とにかく、山岳部を縫うように抜けよう」


 レーダーから逃れる為か、雪の降り積もる山脈をすり抜けるように飛んでいく。目的地はかなり標高の高いところにあるらしい。そして、山を切り開いて作られた滑走路が見えて来た。


「この地形を難なく踏破するとはやはり良い腕だ。ようこそ、我が軍の防衛ラインへ!バーテンダー航空基地だ。同僚たちは君の到着を歓迎するだろう」

「ああ。そのようだな」


 俺の視界には、基地の警備隊の車両が慌てて配置についている様子が見て取れた。


 ◇


 基地に着陸後、目の前に現れた警備車両についていき、奥まったところにある格納庫に連れていかれた。そこには案の定、大勢の警備兵が待機していた。タラップを使って降りると彼らは銃口を俺に向けて来た。


「トニー・ハミルトン中尉であるな? 我々と共にご同行願いたい」


 視界の隅では、別の場所に機体を駐機したデモンが慌てて駆け寄ってくる様子が見えるが、彼より先に兵士たちを制する者がいた。


「やめろ。彼は敵ではなく客人だ」


 兵士たちはその言葉を聞き、慌てて銃口を下げた。彼らの間から現れたのはコート姿の禿げ頭のインテリ風の男だった。ワッペンを見る限り、空軍の将官だろうか。その男は俺を一瞥すると、敬礼を行った。


「私はマクミラン・S・マッカーサー大将だ。此処の基地の司令官にしてフェリペ王国空軍防空司令官の一人でもある。遠路はるばるご苦労であった」

「リストニア空軍所属、トニー・ハミルトン中尉であります」

「もうリストニア空軍ではないだろう」

「……はい、失念しておりました」


 マクミランは警備兵たちを振り返る。彼らははらはらと俺たちの会話を見守っていた。


「此処ではまともに会話もできん。それに大変冷える。指揮所へ行こう」


 俺たち二人は指揮官用のジープに乗り、基地内部へと向かった。


 ◇


 やはり、ただの基地ではないらしい。指揮所は地下シェルターにあり、空爆に備えていた。


「機体を奪取するつもりが、パイロットも付いてくるのは予想外だった」

「あの特殊部隊員たちは?」

「帰ってきたのは半分足らずだ」

「……」

「彼らの報告によると、君は懲罰兵のようだな? 何をした?」


 暫し、考えて《《事実》》を告げた。


「そちらがあまりに執拗に民間機を狙うもので、対処できずに任務を放棄してしまったので」


 俺がそう告げると、聞き耳を立てていた指揮所の兵士一気に殺気立つのを感じた。立ち上がる者さえいる。だが、当のマクミランは表情一つ崩さなかった。


「ふむ、状況を説明する必要がありそうだ。まず我が諜報部は二つの情報を掴んだ。まず、FS-X、君の機体だ。そしてもう一つ、リストニアが核兵器を手に入れたとの情報だ」

「核?」

「その通りだ。我々は国際機関等に訴え、調査を依頼したが、不自然な圧力により拒否された。どうやら、『栄えあるリストニア』は外交的にも暗躍しているようだ。どこか強大な国から秘密裏に核兵器を輸入したのだ」


 此処でもその名前が出てきて、俺は眩暈を感じていた。なるほど、エミリーなどの名家のご令嬢を引き入れようとしていたのはそのためか。


「リストニアはそれを輸送するために、民間人避難という隠れ蓑を使ったのだ。我々も全力で対応し、1発は破壊に成功したようだ」


 腹が底冷えした。これではハーバードも、民間人を守るために犠牲になった兵士達も本当に何のために死んだ?


「だが、残った弾頭が使用された。

 つい数日前、ユーロ市街地上空にリストニア軍機が突然現れた。万全の体制で迎撃に出撃したが、直後、多くが墜落。残っていた者も電子装置がやられ、なすすべなく撃墜された」

「核による電磁パルス」

「そうだ。コードネーム『ファルケン』、空対空核ミサイルだ。敵の迎撃部隊を壊滅させるための強力な兵装だ。

 公には新型電磁パルスミサイルとリストニアは主張しているが、大勢の者が激しい閃光を目撃している」


 言葉が出なかった。要するにFS-Xすらも本丸ではなかったということだ。マクミランが無言で付けたモニターにはリストニア軍がどんどん侵攻していく様子が写し出されていた。


「ファルケンミサイルが残っているかもしれないと考えると、我々は大規模な行動がとれず、瞬く間に制圧されていった。この基地は最後の砦だ。山脈を越えた先に王都がある。

 状況説明はこれまでだ。さて……」


 マクミランは椅子に深く座りなおし、俺の目をまっすぐと見た。


「エースパイロットとFS-Xなら、この状況を打開できるかな?」

此処までのご愛読ありがとうございました。

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