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 私の放ったミサイルは発射直後に音速の壁を越え、その三倍の速度で敵機に向かって飛翔していった。遠ざかる敵の姿は目視では殆ど捉えられず、レーダーに頼るしかなかった。新型機イーグルの搭載するレーダーは強力で、遠方の敵のシグナルをきちんと捉えていた。


 そして、点滅と共に消えた。


「スプラッシュ1……敵シグナルロスト」

「こちらのレーダーでも確認した。よくやった、アウア―中尉。本当に良くやってくれた。 敵の相当と、滑走路の安全は確保できた。基地に帰還してくれ」

「了解しました。それで……」

「彼のことについても、分かったことがある。降りてきてから話そう」


 管制室からは敵機を堕とした歓喜の声が上がるが、私はそうではなかった。敵よりかも彼のことが気がかりだ。先輩には失望した。でも、死んでほしいだなんて思ってもいない。そんなこと考えただけでぞっとする。


 きっと心の何処かでやり直せると思っている。彼が反省し、罪を悔いたのなら。


 基地に帰還した私は、大勢から取り囲まれるように祝福と賛辞の声を浴びたが、それどころではなかった。事情を察してくれたホンプスキー大佐が群衆たちを引きはがし、基地司令室へと連れて行ってくれた。

 彼は椅子に深々と腰を下ろすと、やるせないようなため息をついた。


「先……ハミルトン中尉は?」

「中尉、どうか落ち着いて聞いてほしい」

「え?」

「初期調査の結果、どうやら逃亡機に乗っていたのは……トニーハミルトン中尉だ。彼は我が軍を、祖国を裏切ったのだ」

「……は?」

「彼はフェリペの工作員にそそのかされて、このような凶行に走ったようだ。 残念だが、これは監視カメラの映像で判明した事実だ」


 ホンプスキー大佐が私に見せたノートパソコンの画面には、格納庫の中で、フェリペ軍の兵士たちと行動を共にする彼の姿があった。


「嘘? えっ、じゃあ、私が……いや、違っ」


 胃の中が逆流し、全てを吐き出しそうになってしまい、口を手で押さえた。


「大変だ。 ドクターを呼ぼう」

「だ、大丈夫です。それより、彼です! まだ脱出した可能性も……!」

「脱出はできないんだ。あの機体は整備中で射出座席のメンテナンス中だった。 レーダーログを分析した限り、機体はマッハ1.6で急降下してレーダーから消えた。これではとても……」

「どうして……!どうしてです……!」


 何故、確認する前に私に撃墜指示を出したのか。私がいない間に彼に何があったのか問い詰めようとした。しかし、大佐は拳を力なく自分のデスクに下ろした。


「教師時代、うまく行ってなかったようだ……彼はつらかったのかもしれないな。 その彼の心の隙をついてを敵の工作員が言葉巧みに彼を騙したのだろう。 親友のハーバード少佐も殉職してしまった。そして君も居なくなった。

 まったく、《《誰か》》が傍にいていれば、こうには……」

「わ、私が、だってそれは……」

「いや。勘違いしないでくれ。君を責めているんじゃない。悪いのは彼の状況を把握してなかった私だ」

「あ、ああ……」

「受け入れるのは難しいと思うが、誇りに思いたまえ。君は困難な任務を達成した。上層部は君に勲章を与えるだろう」


 私は許可も得ずにふらふらと司令室を後にした。

 何も考えられない。


 ◇


「礼儀を知らぬ野良犬のせいで、FS-Xがこんな幕切れになるとはな」


 エミリーが去った後、沈痛だった面持ちを崩し、ホンプスキーは腹立たし気に呟いた。だが、数秒こめかみに手を当て、思考すると、彼の表情にはいつもの冷徹さが戻った。


「まぁいい。有益なデータは取れた。もう片方の《《秘密兵器》》はうまく行ったようだ」


 その時、司令室のホットラインが鳴り響いた。管制塔からの直通だ。


「先ほど発進させたスカーレット隊が奴の残骸らしきものを発見しました。薄暗く良く見えませんが、オイルのようなものと、機体らしき破片が見えるとのことです」

「ふむ、分かった。 スカーレット隊に命令しろ。念のためにそのあたりに機銃掃射してやれ。 ……何?もうやってる?……まぁいい」



 ◇


 アーゼンバーク基地から飛び出した俺だったが、迫りくるミサイルに、抵抗する術がなかった。先の戦闘で妨害弾を使い果たしていたからだ。燃料も少なく、回避機動も取れなかった。


 もうどうしようもない、うるさいだけのミサイルアラートは消した。


 目の前に広がるのは、リストニアとフェリペの間に広がるピッグス海。イルカの群れが見える。もし、この海を越えれたのなら、そこはリストニアと景色は違っていたのだろうか。


「どうなんだ、ハーバード?」


 俺は空を見上げて、呟いた。

 その時、バックミラーにミサイルの白煙がちらりと写った。

 終わりか。



 しかし、それは俺の機体に到達する寸前で爆散した。激しい振動に揺さぶられながらも、俺は動揺した。

 まだ終わりではないのか。

 その時、前方から戦闘機が舞い降りるように飛んできて、俺の機体を横目に交差した。翼端のパイロンからは不自然に片方だけミサイルが消えていた。


 「ミサイルをミサイルで撃墜したのか?」


(あれは……フランカー? フェリペ空軍はまた新型機を輸入したのか?)


 そのフランカーは鮮やかなループを描いて、俺の機体の横に就いた。そして、無線が開かれた。


「待たせたな。こちらフェリペ空軍、デモン・バトラー少佐だ。

 君がブラックノーズ……いや、デアデビルだったな。 全く、予想外の作戦変更には驚かされたよ」

「……」

「リストニアのトップエースと飛べて光栄だ。まさか、二つの国のトップエースが同じ陣営に就くとは思わなかった。

 共に新たな高みを目指そう」



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