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「う、うわあああああああああああ!」

「逃げろおおおお!」


 オスカーの放った警告と銃声を聞き、市民は逃げ惑う。一方、土砂降りのせいで銃声が聞こえず、いきなり目の前で市民がパニックになり、リストニアの兵士は困惑した。


「悪く思うな」


 オスカーは低く呟き、その兵士の頭蓋骨を正確に撃ち抜いた。


「歩哨を排除、ゲートを制圧」

「手はず通りだ。A班は私に続いて格納庫を調べる。B班は陽動、敵を近づかせるな。C班は例の妙な建物に取りつけ」

「了解!」


 異変に気付いたリストニア兵が詰め所に駆け込み、警報を鳴らそうとするのが見え、オスカーはそこに手榴弾を投擲した。爆発はしたが、警報はならなかった。


「雨のお陰で派手にやれる。迅速にやれ!」

「はっ!」

「王国の加護があらんことを!」



 ◇


 何度目の出撃だろうか。

 少ない燃料のせいで、毎度のことだが、ふらふらになりながら、俺はFS-Xを着陸させた。修正されているシステムは最高ではない。あれが改善したら、次は別の機能を入れようとするので、問題点が増えるばかりだ。技術陣は俺の言うことを聞く気がないらしく、俺はここ暫く口をきいていない。

 尤も、本気を出さなければ十分に制御ができるようになったのは大きな一歩だった。


 駐機スポットに着いたとき異変に気付いた。……憲兵がいつもの3倍の人数はいる。将校たちもいる。基地司令ホンプスキーもだ。コックピットから降りると羽交い絞めにされ、大佐達の前に突き出された。


「よう、ご苦労様だったなぁ」「我らがスカーレット隊も、諸君の不名誉除隊をお祝いしよう」「何の役にもたたなかったけどな」


 スカーレット隊の面々が嘲笑い、満を持して、ホンプスキーが口を開いた。


「君はいいパイロットだった。

 FS-Xのプログラムは良いものとなった。 君の働きのおかげで私は少将だ。私の部下たちも皆、昇進だ。 部下たちは君のことを嫌っていたが、私は君のことはそこまで嫌いではなかったよ。 まぁそれはそれとして、さようならだ。役人たちが仕事をして、君の死刑判決が確定した。明日には銃殺刑だ。遺書ぐらいは書かせてあげよう」

「……俺は協力したのに、結局死刑になるのか?」

「ふむ? するならどうぞと言ったのは、君なのでは?」


 ホンプスキーは首を捻るが、俺はもう怒声を上げる気力はなかった。


「連れていけ」


 俺は憲兵達に連れていかれた。基地の地下にある簡易的な居房まで連れていかれるらしい。そういえば、良くわからない妙な建物があった。

 こんなことになるなら、空で死ねばよかった。俺を嘲笑うかのように、雨は強くなり、土砂降りへと変わっていた。


 憲兵たちは俺を牢屋に閉じ込めると、見下し、嘲笑した。


「スカーレット隊の隊長殿は、除隊後、アンタから盗んだスコアを名声にして政治家を目指すらしい。今や、先進国じゃあ、戦術システムが整い、戦闘機パイロットの仕事はトリガーを引くだけになる」

「そうそう、空だけ飛んでいる能天気な奴は淘汰されるのは決まっていたのさ。なぁ、アンタ、何のために生きて来たんだ」


「……」


 言葉も返すのもバカバカしかった。だが、それを馬鹿にされたと思ったのか、憲兵はゆでだこのように顔を真っ赤にした。


「なんだその態度は!?」


 憲兵は警棒を抜き、俺に向かって振りかざした。


「どうせ、こいつは明日死ぬんだ! 今日死んだところで」


 確かに、違いない。そう自嘲し、目を閉じたタイミングだった。

 閉じた瞼からでも強烈に感じるほどの光と、耳を劈く爆音が響いた。


「うっ」


 一体、何が起きた?

 目を開くとそこには憲兵が目を見開いて血だまりの中に倒れていた。

 そして、俺の牢獄に向かって足音が響いてくる。こんなこと前にもあった。


「ハーバードなのか?」


 だが、現れたのはまるで知らない男たちだった。迷彩を着込み、目出し帽を被った連中だ。ホンプスキーの部下か? だが、憲兵を撃った。


「撃つな、どうやら捕虜のようだ」

「ですが、こいつはリストニア人のようです」

「何? 何故、リストニアの基地でリストニア人が捕虜にされている?」

「何者だ、彼は?」


 彼らも俺を目の前にした困惑している。妙な言葉の訛だ。

 そうか、わかった。フェリペ王国軍だ。基地に攻め込んできたのだろう。結局、俺の運命は変わらないようだった。彼らは憲兵の遺体から俺にまつわるメモ書きを見つけ、どうすべきかを議論している。


「どういうことだ。懲罰部隊? 断片的な情報では何もわからない」

「リストニアのパイロットだ。見られた以上は始末すべきだ」

「しかし、捕らえられていたぞ」

「待て、隊長に指示を仰ぐ」


 その時、彼らの無線から次の一報が走った。


「A班より、各班へ通達!  パイロット負傷!繰り返す、パイロットが負傷した! これでは奪取は不可能だ! プランB、FS-Xを破壊しろ!」


 目の前にいる彼らはその知らせに驚き、一様に俺を見た。そして、そのうちの一人の

 兵士が俺を見ながら、トランシーバーに口を当てた。


「こちら、オスカー。破壊命令を待ってください。

 パイロットなら目の前にいます」



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