第23話 第-xxxx-α号 特殊作戦機体運用計画-99発動
離陸後、機体が鳥の落ち羽のようにふわりと浮かぶ。エンジン出力の向上は感じる、加速に何処かぎこちなさを感じる。慣らしが不十分だからか?
それでも、タイガーⅡより明らかに高機動・高出力だ。
「カンビックスに続き、スカーレット隊、発進!」
以前とは、違う声の管制官の言葉を聞いて、背後を振り返る。後ろから上がってくる部隊は、輸入されたばかりの第4世代戦闘機ファイティング・ファルコンを使用している。
エミリーを始めとした元のパイロット、それから管制官や整備士たちは別の基地に異動になったようだ。代わりの人員はホンプスキーの息がかかった者たちだ。今、アーゼンバーク基地は『栄えあるリストニア』の拠点と化していた。
その時、突然ミサイル警報が鳴った。敵はまだ遥か遠方の筈だ。
「スカーレット1、カンビックスをロックオンしている」
「そのまま銃口を突きつけろ。囚人の看守を怠るな」
「言われなくても。スカーレット1からカンビックス1へ。民間人を殺して手にした最新鋭機はどんな具合だ?」
俺はうるさく成り続けるロックオン警報に、顔をしかめながら、短く事実を返した。
「悪くなさそうだ」
「……クソ野郎が、航空学生だなんだか知らないが、もう野蛮人がいる空軍はお終いだ。 これからは我々士官学校卒のエリートが栄えあるリストニア空軍を率いていく。リストニアの空に凡人は要らない。
いいかよく聞け。 お前は俺たちの友軍として行動しろ。命令だ。 だが俺たちはお前を友軍とは思わない。
ククク、残念だったな、囚人。お前はこの大きな空で一人ぼっちだ」
「了解」
どうやら、俺はもう完全に一人らしい。
でもなぜだろう、絶望的な筈なのに空にいると落ち着く。……いきなりどこかから無線と共にハーバードが飛んできそうな気がする。
「アーゼンタワーより、全機へ。敵戦闘機の8機編隊を確認!カンビックスは先行突撃し、敵機の注意を引け。お前が囮だ。 スカーレット隊は状況を見て、落ち着いて戦闘しろ。リスクを冒す必要はない」
「スカーレット1、了解。聞いたか全機?ボーナスステージだ。撃墜数を稼げるぞ」
「ボス、囚人の有効活用ですね!上手いやり方だ」
「ふ、しのぎを学んでおけ。これからの軍隊はビジネスの場になる」
……くだらない。結局はいつもどうりだ。俺の空を邪魔する敵機は全機堕とす。
「こちら、ホンプスキー。言い忘れていたが、その機体には僅かな燃料しかない。そして、脱出装置も動かなくしてある。あくまで君は囚人なのでね」
燃料なんて見ればわかる。脱出する気なんてさらさらない。
「無用な情報です」
「ふん……通信終了」
ホンプスキーのため息なんて、もはや意識に無かった。俺の目はデジタルレーダーに映る6機の敵機のシグナルを見ていた。
「カンビックス1、エンゲージ。FOX1」
タイガーでは搭載できなかった中距離ミサイルを放つ。
それに反応し、応戦して撃ってきたのは2機。操縦桿を引き、回避機動を開始する。
確かに、タイガーとは違う。カナード翼と大きな主翼の為か、有り余る揚力を感じる。 そうして、相手のミサイルの有効射程圏外まで逃げた後、再び正対する。
敵の数は減っていない。
敵は3機ずつに分かれて進路を変え始めた。 2機はターゲットを俺に決めた。4機のうちの一つは後ろの連中に狙いを定めた。
彼らは勇猛果敢に正面から突っ込んでくる。その内1機がバレルロールでヘッドオンを回避しようとする。敵を委縮させ、優位を取るフェリペ空軍お得意の戦闘技術だ。 しかし、その手は知っている。俺はスロットルを完全に閉じる。エアブレーキを展開し急減速、ラダーを蹴り、機体をスライドさせ無理やり射線を敵機主翼付け根に合
わせ機関砲を連射する。
命中したようだ。交差する寸前、黒い尾を引いているのが見えた。
もう1機は俺が高速ですれ違うと考えていたらしく、その隙に旋回して俺の後ろにつこうとしたらしい。間抜けなことに急減速した俺の目の前に出てきてしまった。
FS-Xの戦闘コンピューターは敵を瞬時にロックした。 無造作にミサイルのトリガーを引く、1キルだ。
堕ちていく機体を見ている暇などない。直ぐに視界を巡らせると、先程の1機が急反転しているのが見えた。仲間を堕とされて激高しているのだろうか。しかし、傷ついた主翼では高不可には耐えられず、徐々に挙動が怪しくなり、終いにはコックピットが吹き飛び、パラシュートが見えた。脱出したようだ。
「あいつらも、俺とハーバードみたいに」
無意識の言葉が零れ、奥歯を噛みしめる。終わったことを思い返して、何になる?
別の敵がこちらを狙っている。俺は機体を加速させ、旋回を試みた。
その時――機体の異変を知らせる警報が鳴った。
『制御システムエラー・右エンジン停止』




