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02

 リストニア-フェリペ戦争は一時休戦を挟んだ。

 戦況はリストニア有利になっていたが、困窮し始めた国内世論は戦争継続にNOを突き付けた。政府は世論に流されるように休戦を決定した。

 予算を経済の復興に回すことになり、リストニア軍は軍縮を余儀なくされた。多くの兵士たちは他の公務員へと転職を進められた。しかし、国民にはそれが特別扱いに見えて、元兵士たちは差別の対象となった。


 ◇


 二つの国を挟むピッグス海に浮かぶクラブ島と呼ばれる小さな島にある高校が俺の勤め先だ。


 突然の休戦が決まった最中、俺は基地司令官に呼び出された。

 君は人を殺しすぎた。このまま人殺しの人生で良いのかと、聞かれた。そして渡されたのが、教員試験の応募用紙だった。軍縮の煽りなんだ、というのは俺でもわかった。


 だが、基地司令官が言い放った『人殺しの人生』というのが頭から離れなかった。

 そして、罪を償い・罪を繰り返さない為、教師として子供たちに教えるのも悪くないと思った。

 そう思っていたのだが、俺は意識を教室に向ける。


「ぎゃはははは! それでさぁ!」

「トランプしようぜ!」


 子供たちは騒ぎ倒し、授業の体を成していない。所謂、学級崩壊だ。


「静かにしてくれ! 教科書の62ページを開け、まずは……!」


 強引に授業を始めるが、半分もまともに聞いていない。おしゃべりに居眠り、学生なんてそんなもんじゃないかと思い込もうとする。


「先生ー! 人ぶっ殺した話してよ!」

「……戦争はお遊びじゃないんだ。そんな話はしないぞ」

「いや、遊んでたよね!? 戦争勝ってないじゃん!? 遊んでたよね!?」


 クラス一の問題児のスイフトという大柄の少年は、ぎゃははははと笑う。俺は奥歯を噛みしめるが、反論はできない。教頭を始めとした多くの教師たちは軍人上がりの俺を嫌っている、問題行動等できないのだ。

 無視して授業を進めるほかなかった。


 授業を続けて、30分ぐらい経った頃だろう。

 俺は視界の隅で何かが飛んだのを見得た気がして、振り返る。すると、さっきのスイフトが女生徒にゴミを投げつけていた。虐めだ、そう思い立った瞬間、声を荒げていた。


「おい! 何やってんだ! 」


 俺が怒鳴るとは思っていなかったのだろう、教室中が静まり返る。居心地の悪さを感じるが、俺はスイフトに詰め寄った。


「おっと……流石に人殺しの目はいいみたいだな」

「……何をしてたんだ? 」

「別に貧乏人にごみをを投げつけてただけだけど? 何? 」

「なんでそんなことをしたんだ? とにかく彼女に謝れ! 」

「人殺しに言われてもなぁ……ごみを投げつけるのと人殺しどっちが悪いんだ?」


「確かに」「言えてる」「あいつ軍人に歯向かってるよ、やば」


 確かに、俺は人を殺した。だが、それは国を護るために……。


「ほら、得意な暴力で解決しろよ! 」

「……お前! 」

「殴ればいいじゃん……そしたら、お前明日からクビ! ぎゃはは!」


 クビ! クビ! クビ! クビ!

 取り巻きの男子生徒からコールが上がる。

 ……いっそ殴って教育してやればいい。わからないなら殴れ。軍隊ではそうされたこともあっただろう?

 俺の中で軍人のトニーがそう訴える。しかし、やはり、駄目だった。


「……後で職員室に来なさい……これ以上彼女に手を出すようなら、ご両親に言いつける」


「ギャハハハ! よっわ! 」

「あいつが軍人って嘘なんじゃないの? 」

「それ! うちのかあさんも言ってた。軍人は嘘つきの見栄っ張りだって!」


 ちょうど終わりのチャイムが鳴り、逃げるように教室を出た。後ろからは嘲笑の声が響く。


 嗚呼、似ている。まるでミサイルから逃げている時のようだ。

 いや、それ以上に怖い。

 MIG-21も、PSAMも、20mm対空砲も怖くなかったのに、俺はあんな無邪気に人をけなすことのできる生徒たちが怖い。



 今の平和が怖くて、仕方ない。






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