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 格納庫には3機の駐機スポットがあるが、そこには2機のタイガーⅡ戦闘機しかいなかった。前輪が折れてしまったブラックノーズの代わりに、ノーマルカラーの予備機が置かれている。しかし、それ以上のぽっかりと空いてしまった隊長機のスペースがあまりにも空虚だ。


 ハーバードが死んだと皆がそう嘆いている。だが、俺はそれをまだ認識できていない。静かに落ち着ける環境があれば、少しは頭の中を整理できたかもしれない。しかし、一瞬の安らぎも与えられなかった。


 隣の格納庫に、民間人が押し込まれて、彼らが騒いでいる。

「いつになったら安全な場所に行けるのか!?」

「ちゃんと戦え!」

「もっといい環境を用意しろ!」


 彼らの一部はそう言い、警備兵に詰め寄っていた。


 俺が彼らを冷めた目で見ていると、彼らの一部も俺を冷めた目で見ていた。教頭を始めとした、教師人たちだ。当然、彼らの目には助けてもらったことへの感謝の色は見えなかった。


 踵を返し、立ち去ろうとしたとき、影から怒声を浴びせられた。


「おい、お前探したぞ!」


 俺の教え子、スイフトだ。勝手に格納庫から抜け出してきたようだ。


「ふざけやがって!なんで生きてるんだ!

  墜落した瞬間お前が堕ちたんじゃないかってどれだけ期待したと思ってるんだ! お前たちの戦争のせいで、家にも住めなくなった! 責任取って今すぐ、死ね!」


 うるさいな。頭にガンガン響く。静かにしてほしい、俺はそう考えると、無意識のうちに拳銃を取り出し、スイフトの頭に向けていた。


「……先輩!何をやっているんですか!君は逃げて!」


 エミリーがいきなり割って入ってきて、俺の手を掴んだ。そうこうしている間に、スイフトは走って逃げていった。


「どうした?」

「どうした……!? 正気ですか!? 一体何をしているんですか、あの子は貴方の生徒だった子でしょう?しっかりしてください!」

「俺はしっかりしてる。 お前こそ何言ってるんだ?あいつのせいでハーバードは死んだ」

「……あれは不幸なアクシデントです。 それに……私たちのせいです。 彼らの言うように私たちがちゃんと戦って、フェリペ軍を近寄せなければ……」


 俺は彼女に初めて、苛立った。どうして、俺より遥かに額があるのに、そんな意味不明な使命にとらわれているのか、理解ができなかった。


「俺たちのせいじゃない! 前の戦争で俺たちはあれだけ戦ったのに、何の見返りも労いの一つもなかった! 俺が奴らから貰ったのは軽蔑と嘲笑だけだった!」

「そんなことはありません!」

「じゃあ、昨日の空戦はなんだ!? タイガーⅡとフルクラムだと? 旧式戦闘機のままで、どうやって戦えばいい!? 新型機ならハーバードだって互角に戦えたはずだ!連中は俺たちが戦争屋だというが、あいつらが戦争のことを少しでも反省していれば、こうはならなかった! 」

「それは政治の話です! 一時感情に流されるべきではありません! 」


「一時なわけあるか、俺はずっと、ずっと、あいつらを……殺してやりたいと」


 パンっと乾いた音が響いた。口の中がひりひりする。どうやらエミリーにはたかれたらしい。

「軽蔑しました」

 そう言い残し、彼女はどこかへと消えた。こういう仲たがいは昔もあった気がする。でも、フォローしてくれる奴はもういない。

「あ、あの先生……私……」

 また誰か来た。ジェシカか。いつしか虐めを受けていた少女だ。


「どうした? 何か用か?」

「え、えっと、私、先生に伝えなきゃって……」

「伝える? ああ、死ねってか? もういいよ、さっき聞いた」

「いや、そんな……私はただ、先生の仲間の方が」


「ああ、そうだよ。ハーバードが死んだ。死ぬのは俺で良かったのに、よりによって、未来のあるあいつが死んじまった。まさか、空までお前たちが追ってくるなんて思わなかった。

 畜生、どうすればよかったんだ」

「……」

「これ以上、俺を邪魔するな。お前には地べたがお似合いだ。失せろ」

「……わかりました」


 何が分かったのだろうか。どうだっていい。もう知らない。


『パイロット各員へ。2100時より民間機の護衛任務を再開する。飛行準備を……』



 ◇



 このスペアのタイガーⅡは酷い振動だ。予算不足でろくに整備されてなかったのを引っ張ってきたのだろう。


「こちら、スクールバス!戦闘機は何をやっている!敵が当機を狙っている!なんとかしろ!」

「……了解、しばらく待機しろ」

「待っている時間はない!」

「ネガティブ、待機しろ」


 スクールバスは今複数の敵機に追われている。フェリペ空軍はリスクを承知で内陸まで追ってきている。何が彼らを動かしているのだろう。あんまり興味が出ないから、どうでもいいのだが。


 なんだろう、この感覚は戦場の空を飛んでいるのに、昼寝をし終えたようにおぼつかない気分で、高揚感も恐怖心もない。ただ空に浮かんでいるだけのような気分だ。


「ナスカー3より2へ!スクールバス周辺の敵が多いように思います、状況を。私もそちらの援護を」

「いや、その必要ない。ナスカー3が護衛任務を行う。距離を取って敵との交戦を続けろ」

「うわああ!? 

 こちら、スクールバス!敵機が通り過ぎていったぞ!護衛戦闘機は何をやっているのか!?」

「教師もできないのに!lパイロットもできないんですか!死ぬ気で生徒たちを守りなさい!」


 五月蠅いな。どいつもこいつも、俺はただ空を飛びたいだけなのに。

 フェリペ空軍機が、スクールバスに攻撃態勢に入るのが見えた。何度も訓練を受けた通りに、反射的に敵を迎撃しようと、操縦桿に力を籠める。




 ……いや、なんか疲れた。


「ナスカー3、離脱する」

「先輩!?」

「おい、何処へ行く!?」


 俺はスクールバスとは正反対の方向へと旋回した。


「なんだ何が起きた!?」

「機長、機体後方に火の玉が、燃えたんです!」

「……当機は操縦困難!繰り返す当機は操縦困難!」




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