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14 作戦『ホエルオー』

 ホエルオー作戦。それは国の繁栄と戦争を両立させるための官民一体のギャンブルだった。


「黒鉄の海上要塞だ」


 俺は機内から見える海に浮かぶそれを見て呟いた。いくつものパイプが浮き出る採掘用海上プラットフォームが軍艦に護衛されながら海を進んでいる。

 戦争に賛同するようにはなったが、民衆たちはなおも経済発展を要求し、政府は折衷案として、民間企業のプラットフォームをピッグス海に建設し、それで海洋支配をしてしまおうという一石二鳥の案を思いついたのだ。

 それの空中哨戒がナスカー隊の任務だ。


「戦争を何だと思っている? 待て、『アウア―・インダストリー』?」


 プラットフォームに掲げられている社名を見て、俺は驚きの声を上げた。アウアーと言ったら……。


「そうです、あれは私の家族が経営する企業のものです」

「驚いたな。良いところのお嬢様だとは聞いていたが、これほどまでとは思わなかった」

「そんな言い方はやめてください。ただ、私の家族の企業がリストニアの国益につながっているということは、誇らしいことです」


(住む世界が違うな、考えさえも)


 うまく行けばの話だが、海洋資源は大きな利益と雇用を生みだすことになる。特にピッグス海に浮かぶ多くの諸島はその恩恵を得るだろう。俺が教師として勤務していたクラブ島などもそうだ。


「経済が発展すれば、国際的な地位が高まり、フェリペ王国も手出しすることができなくなるはずです。そうすれば、人々に温かい未来をもたらすことができます。

 先輩、私は平和の為に空を飛びます」


 エミリーの希望に満ちた声とは対照的に、自分の中が濁っていくのが分かる。『世間を知らないお嬢様』などと彼女を非難できない、彼女は命がけで戦ってきた。

 ただ、忠告だけしておく。


「理想で空を飛ぶと死ぬぞ」

「……戦う理由がなければ、軍人は戦えません」

「お喋りはそこまでだ。

 ナスカー1より各機。レーダーコンタクト、いつもの奴のお出ましだ。MIG、6機!」


 クソと呟き、俺は哨戒編隊から幅を広げた戦闘編隊と移行する。


「こんなでかい得物がいて、奴らが黙ってみているわけがない」

「ジョッシュ隊が別区画を紹介している。半分は彼らに任せよう。このままいくと敵機とは13分後に有効射程圏内に入る。安全装置を解除しろ!」

「どうやら、フェリペの遊撃隊のようです……レッドフィッシュベッドとかいませんよね?」

「エミリー、なんだそれは?」


 赤いフィッシュベッドと言ったら、この前に見た奴の事だろうか?


「文字通り赤いMIGに乗ったエースです。 先日どこかの基地の編隊がまとめて撃退されたって話を聞きました。機体に何か文字が描かれているとか……」

「rock`n rollって書いてあったな。腕はいいが、センスはすこぶる悪い」

「先輩、見たことが?」

「ああ。来るぞ」


 映りの悪いブラウン管製レーダーをのぞき込む。3機だ。中央の一機が早い、奴だ。


「ナスカー3よりナスカーリーダー、早い奴がいる。俺が相手をする」

「わかった、任せる」


 俺はレーダーを消す。二人が警戒してくれるだろう。

 余裕があるうちはレーダーも警戒しながら戦闘できる。ただ集団戦闘が始めるとレーダーなんて見てられないし、そもそもレーダーは前しか映らないし、放出される電波の波は自機の存在をより遠くまで伝えてしまう。


 俺が編隊を離脱すると、先頭の敵も俺に矛先を変えた。一対一に乗ってきてくれるとはなかなか嬉しいものだ。米粒ぐらいの大きさで敵機が見える。赤みがかった機体……もう、間違いない。


「俺は自分の誇りの為に空を飛ぶ」


 赤い機体が高速で接近してくる。正対する俺達の相対速度は時速2000kmを超えるだろう。

 だが、俺も奴も一切引かずに、超至近距離で交差する。赤い戦闘機と黒い機首が交錯した。

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