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第12話 リストニア-フェリペ戦争 世論を動かした写真家

 前回のインタビューをした後、私はリストニア-フェリペ戦争への興味関心が高まっていった。

 今日訪れたのはリストニア。そして今回の取材相手は、もしかしたら読者の方もご存じかもしれない。


 前回は空軍パイロットだった、今回は民間人。違った視点から見るというのも取材の鉄則だ。


 コレア・ピータソン。元少年ジャーナリストだ。

 いつしか表舞台から消えた彼は、私に何を見せてくれるのだろう。

 呼び出された先は海岸だった。テレビで見た時の中性的な顔立ちは薄れ、青年らしい顔立ちとなっていた。



「ピータソンさん、お会いできて光栄です。何度もテレビで拝見しました」


「いえ、僕なんて過去の人間ですから。この国で起きたことはよく覚えています。尤も、あの頃の僕は大人たちの操り人形でした」


「いきなり過激なことをおっしゃるようですが」


「そうかもしれませんね(笑)……五年前のここで戦争が動き出したんです。これを」


 渡されたのは当時の写真だ。……見覚えがある。5機の敵にたった1機で懸命に攻撃するタイガーⅡ戦闘機。写真に写っているタイガー、これがリストニア空軍のエースとして知られるブラックノーズの機体だと言われている。

 まさか、ジャーナリスト界でも名が知られる彼とあのエースがつながるとは思わなかった。

 この写真が戦争を動かした。


「貴方がこれを?」


「ええ、確かあの時ここに来た理由は落ち込んでいたからだと思います。当時、ああいう……まぁ偽善的な言動をしてましたからね。しかも、僕は外国から来た活動家のようなものです。嫌われても仕方なかった。しかし、あの頃の僕にはそう考えることもできず、海を眺めに来たのです。


 その時、空襲警報が鳴りました。ただ、僕は空襲警報には慣れていたので、直ぐにカメラを構えました」


 彼はその時を再現するように、カメラを構えて見せる。

 幸い、今の空には戦闘機の姿はなく、渡り鳥が群れを成して飛んでいるだけだった。


「例の戦闘機です。敵を追って、一機で果敢に戦っていた。

 まるで映画のようなワンシーンに、僕は何度もシャッターを切った」


 「それは……戦争の悲惨さを伝えるため?」


「いえ、自分の無力さを感じて、当時の僕はジャーナリストを語ってましたが、兵器のことや戦術のことなんてこれっぽちもわからなかった。だけどあの戦闘機を見て、僕は恐怖した。

 言葉じゃなくて、ああいう力が、戦争を終わらせるんだろうと直感で分かった。

 夢中でシャッターを切っていた僕はふと彼が何故一人で必死に飛んでいるのか気になった。僕のせいだと思いました。僕が国の人達を煽ったから、あのパイロットは独りぼっちだったんだろうなってだって。

 でも……彼の飛び方はとても寂しそうだった。何かから逃げるために空にいるような」


 これでは記者ではなく、詩人ですねと彼は寂しく笑った。


「何故なんでしょうね。とにかく僕は全部終わった後、その写真を周囲の大人たちに見せました。しかし、大人たちはそれはスポンサーの求めている写真ではないと、苦い顔をしました。僕が中立ではなく、偏っていると気づかされた瞬間でした。


 よく考えたら、僕は外野から非難しているだけだったんですね。それであの写真を公開しました」


 たった一機の迎撃機とよばれたその写真は世論を一変させた。

 何故一機で立ち向かっているんだ。他に戦闘機はいないのか。講和・停戦ムードは停滞し、抗戦・反撃ムードが高まった。

 世論は一気に、戦時中になった。


 皮肉なことに、平和を訴えてきたピータソンさんの写真が国民感情に火をつけた。


 これ以降、リストニア-フェリペ戦争は、規模が拡大していくことになる。

 無関係の大国が兵器のセールと言わんばかりに、多くの兵器を輸出した。貴重なデータを取るために最新鋭の兵器を提供した国もあったと噂される。


「少年でなくなった僕は、あまり注目されなくなってしまいました。結局、周りの大人たちとスポンサーが囃し立てていただけなのでしょう」


「いえ、どんな時でも平和を主張し、今なお、記者を続ける貴方は立派です」


「……どうもありがとう。彼も平和の為に戦っていたのでしょうか? もし、会えたら聞いてみてください」


 またもブラックノーズ。

 私は断じて彼を追っていたわけではない、一人目は軍人だからわかるが、まさか民間人からその名前が出るとはどういうことなのだろう。


 ただ……ブラックノーズは戦争後期から一切の目撃情報がない。

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