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リストニア-フェリペ間の休戦に向けた交渉が行われた。
そもそも二度目の戦争が始まった原因は、経済発展を急ぐリストニアが係争地帯であるピッグス海に海洋資源発掘船を出したためと言われている。
フェリペ王国側はこれに抗議し、リストニアに対し、謝罪と賠償、資源船の活動停止を要求したが、リストニアは国内外の世論は戦争は望んでいないとただただ休戦を要求しただけに留まった。リストニア国民の膨れ上がった不安の前に、政権は賠償金など支払えなかった。
当然、フェリペ王国は納得できなかった。海洋資源はフェリペにとっての声明せんでもある。彼らは国家存亡の為に、総力戦を仕掛けていくことになる。
『第二次リストニア侵攻』が開始された。
◇
休戦交渉決裂の知らせが出てから、半日後、アーゼンバーク基地にスクランブルを知らせるサイレンが響いた。
いや、違う。アロランテ空軍基地、アスカベウス空軍基地等、フェリペ王国に面している基地全てに出撃命令が下された。
「現在、我がリストニアの海岸地域がフェリペ王国軍機の攻撃に晒されている!」
「敵の攻撃は港に集中すると思われる! 現在、サウスポートに陸軍第4高射砲部隊が急行している」「こちら、マーチンべーカ隊!現在A空域に」「ファントム装備している奴らはどの飛行隊だ!?邪魔だ!」「違う!高度15000ftだ!」「あー、了解。市街地に空襲警報を」「ブラウン隊、防衛線を構築中」
俺は耳障りなノイズに、顔をしかめ、無線機のダイヤルを少しでも安定する方向へ弄る。空を見渡せば、あたり一面に友軍の戦闘機がいる。タイガーⅡに、ファントム。それにあれは退役が進むジーナじゃないか。
「クソ、なんてこった! ナスカーリーダーよりナスカー各機へ!とんでもないことがおっぱじまりそうだ!」
「ああ!みりゃ分かる!」
酸素マスク越しに興奮しつつ叫ぶ、レーダーには映っている範囲で友軍機、敵機合わせて50機以上。休戦前でもこんなことはなかった、訓練ですらこんな数は見たことがない。
「こちら管制塔……アーゼンバーグ基地の管制塔!……コールサイン……?ああ、わかったよ!これより管制塔はアーゼンタワーと呼称する!」
「愚痴なら後にしてくれアーゼンタワー! 敵の情報をくれ、どいつを叩き落とせばいい!?」
「状況は著しく混乱!状況がはっきりするまで脅威度が高そうな敵を各自で判断し攻撃せよ!」
「何が管制塔だよ、畜生」
ハーバードが皮肉気に吐き捨てた。無線機からは他にも、エミリーの吐息が聞こえる。どうやら緊張して、無線を付けっぱなしにしているようだ。
視界の右に動くものを見つけ、反射的に目を向ける。白い縞模様のボディを持つ、虎のエンブレムを付けたファントム戦闘爆撃機の部隊が前に出ようとしている。
「あのエンブレム、あれは白虎か?」
「その通りだ。久しぶりだな、ブラックノーズ」
リストニア空軍 第1航空団 第11飛行隊 ホワイトタイガー隊 飛行隊長ミケルセン・ノイマン中尉は10機撃墜のエースパイロットだ。
俺は11機で、彼は10機。しかしミケルセンは対地攻撃でも戦果を挙げ、士官学校卒のエリートなので、リストニアのトップエースといえば、彼が推されることが多い。
「ミケルセン中尉、元気そうで何よりだ」
「ああ。俺は君と違って、戦場に残り続けた」
「何が言いたい?」
「逃げたんだろう、戦場から。対地攻撃からも逃げていた」
「対地攻撃は趣味じゃ無くてね」
タイガーⅡとファントムの翼端が異常接近する。グラハムの後席の武器士官が焦るような仕草を見せる。
「先輩、接敵寸前です!」
「ホワイトタイガ―1、異常接近は軍規違反です」
それぞれの僚機が――どちらとも女が警笛を鳴らす中、俺たちは睨み合っていた。
「俺の飛び方を見れば、アンタも間違っていることに気づくだろうな」
「見てなければわからないな」
「じゃあ、早くそいつを放て」
俺がそう告げると、グラハム機は離れていき、加速する。
「敵の先頭部隊を射程圏内に補足。
ホワイトタイガー1より各機、槍を放て」
ファントムの腹から大型のミサイルが放たれ、太い白煙を吐きながら、敵編隊に飛翔する。向こうの空が瞬く、敵が撹乱幕を焚いたらしい。その軌跡が離れていく。
「ち、相も変わらず良い攻撃選択だ。敵の編隊が崩れた。
ナスカー1、敵のフォーメーションが乱れた、今仕掛けるぞ」
「あ、ああ。ナスカーリーダーより各機!……まぁなんだ、死ぬな!ブレイク」
しまらない奴だ。
俺は操縦桿を倒し、機体を激しくロールさせ、友軍の先陣を切り敵軍の中に突っ込んでいく。
無線のオフを確認し、俺は一人呟く。
「トップエースになって、俺の価値を証明してやる」




