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01-『敵爆撃機迎撃』

 少し昔、遠く離れた地で戦争があった。


 リストニア共和国、平和を愛する小さな国だった。

 当時、目を見張るほどの経済成長を遂げていたリストニアは中小国であったが、高い技術力を持つ国の一つだ。先進国の仲間入りも夢ではなかった。


 リストニアとピッグス海という大海原を挟んだ先に、もう一つの国があった。

 フェリペ王国、古来からの軍事国家でる。

 だが、近代化する周辺諸国に経済成長で先を越されてしまい、裕福な国とは言えなかった。

 それでも、フットボールの熱狂的なファンがいるなど、情熱的な国として知られている。

 更に発展したいリストニア、裕福になりたいフェリペ王国、二つの国の間の海には豊富な海底資源が眠っているとされた。


 そして、とあるタイミングで両国は開戦した。


 ◇


「目標、レーダーから消失。最終探知地点は、包囲220、距離30」

「ナスカー1、了解……地上管制も見失ったか!」


 タイガーⅡ戦闘機の酸素マスクから供給され続ける酸素に抗ってでも、俺は愚痴を吐きたかった。


 第2航空団、第21戦闘飛行隊、ナスカー隊所属、トニー・ハミルトンは爆撃機の迎撃任務に就いていた。

 敵のフェリペ空軍は少ない爆撃機を使い、思い切った作戦を取った。レーダーに映らない超低空飛行で、防衛網を掻い潜り、リストニア本土爆撃を強行しようというのだ。

 しかも、薄暗い早朝に。


「ナスカー3、敵機と接敵します!」


 僚機であり、ナスカー隊の紅一点でもあるエミリー・アウアーの報告を聞く。

 なるほど、一拍遅れて、俺のタイガーのレーダーにも敵機が補足される。一直線にこちら側に近づいている。強行突破のつもりだろうか?


「いや……堂々としすぎている爆撃機じゃない。多分、囮の戦闘機だ」

「目視で確認しないと断定できません」

「まぁ、ここは隊長の直感を信じてみよう」


 緊迫した航空無線に、飄々とした口調で割り込んだのは、ハーバード・アイズマンだ。

 隊長の俺の敬意を感じさせない態度で接する無礼な奴だが、戦闘時には冷静な観点で援護してくれる優秀な戦友だ。

 しかし、囮とはいえ、敵戦闘機に尻尾を見せるのは危険だ。

 考える時間は限られている、動け。


「よし。俺は低空飛行する爆撃機を捜索するため、反転する。二人は接近する機影を牽制してくれ」

「この視界で単独捜索は危険です!」

「あっちは爆撃機でやってるんだ。なら、タイガーにもできるさ。離脱ブレイク!」


 操縦桿を横に倒し、手前に引く。

 タイガーの主翼が蒸気を纏いながら、急降下・旋回する。Gで視界が狭くなるが、深呼吸している暇などない。


<警告 低高度 低高度>


「レーダーは……海の波に遮られているか」


 海面が目下に見える中、俺は広がる水平線に目を凝らす。


 ……いた。


 薄青い空と海の間に、胡椒粒サイズの点が見えた。細かい操縦桿の操作で、機体をそちらに向ける。まずい、陸地も朧気に見えてきている。俺より先行している敵の爆撃機にとっては、目と鼻の先ということだ。


 リスクはある。

 が、やるしかない。

 スロットルをA/B最大の位置まで押し込む。ジェットエンジンが唸りを上げ、最高出力を繰り出す。その代わりに機体が上下にぶれ、視界が揺れて、青い空と青い海の境目が朧気になる。


「早く終わらせてくれ」


 敵の爆撃機――あの三角形はバルカン爆撃機だろう、の姿がはっきりと見えるようになり、ミサイルのロックを試みる。しかし、海面の温度差のせいか、敵を認識してくれない。


「クソ、これだから! ガンズ!ガンズ!」


 ミサイルを諦め、機関砲の射撃を宣言する。

 照準に爆撃機が収まりそうになった瞬間、敵は急上昇する。

 爆弾を放り投げるように投擲するトス・ボミングだ。高度を上げ斬る前のタイミング、阻止できるチャンスは一度だけ、俺は敵の機動の先に機首を向け、機関砲を発射した。

 大型鳥類を思わせるバルカン爆撃機の雄大な翼が火に包まれ、そのまま、回転しながら海に落ちていった。


「海上で閃光! ナスカー1、無事ですか!?」

「……!」


 一瞬見とれていたその残骸を寸前で、回避する。激しいGで口が開けそうになかったので、上空に上り、健在をアピールするかのようにぐるりとロールして見せた。


「隊長は生きている、あと爆撃機は木っ端微塵だ!」


 ハーバードが全ての友軍に無線で伝えると、無線は爆発したかのように大歓喜が巻き起こる。


「隊長、ご無事で何よりです!……隊長は本当のエースパイロットです」


 隣の翼を並べたエミリーの惜しみない賛辞に、くすぐったい気持ちになり、取り繕うように言葉を並べる。


「いや、俺は……リストニアの平和を守るために飛んでいるだけだ。任務完了、ナスカー隊、帰還する」


 そして、俺たちは朝日をバックにしながら、基地へと……。



「……生! ……先生! 起きてください! 」


「……は? ……教頭先生? 」


「教師ならしっかりしなさい! 貴方はもう軍人じゃないんですよ!」


 ……またあの頃の夢か。

 俺はトニー・ハミルトン。

 ()リストニア空軍中尉。

 かつては空軍のエースパイロットと呼ばれていた。しかし、今は田舎の小さな小さな高校の教職員をやっている。



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― 新着の感想 ―
冒頭の手に汗握る空戦シーンは、緊張感がひしひしと感じられる。 続き楽しみにしています。
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