スワンレイク荘殺人事件事件 最終話 言霊(ことだま)
最終話 言霊
登場人物
リク(28歳)人気男性ボーカルグループ「アサヒ」リーダー、ハイトーンヴォイス六オクターブの音域を持つ。高声部担当
トキヤ(27歳)中声部担当
ケイジ(30歳)グループ最年長、絶対音感の持ち主、中声部担当
マサキ(25歳)グループ内最年少だがしっかり者、低声部担当 何者かに殺害される?
サキ(40歳)マネージャー兼世話役係、母親的存在
あらすじ
メンバー唯一冷静沈着思いやりがあり、特段摩擦が無かった「マサキ」が何者かに殺された?年長者「ケイジ」の脱退騒ぎで「サキ」が話し合いの場をここ「スワンレイク荘」にあて、やっとの思いでメンバー全員を集めたが、到着早々、紅茶を飲んでいると「マサキ」は倒れ込む。「トキヤ」が青酸カリだ叫び、「マサキ」が履いてきたチノパンの左脇ポケットから白いカプセルが顔を出していた。はたして彼「マサキ」は誰の手によって亡き者にされたのか?外界は猛吹雪でランクルの鍵、全員のスマホ、別荘兼パントリーの鍵も無くなっていた。買ってきた食料も一週間程しか無く…。絶体絶命の彼らはどうやってこの難問を解けれるのか。物語はサキの回想、ある日のレッスン風景から始まる。
最終話 言霊
「マサキ、この曲はアウフタクトじゃないが、出だし君のリズム刻み、譜面にはない裏拍感じてくれって何度も言ってるじゃ無いか。」
ピアノに向かっているケイジの罵声にマサキや一同全員が凍り付く。
「はい、分かっています…。」
力ないマサキの声。
「じゃ、続けて」
こんなやり取りはしょっしゅうあり、ひやひやするサキの目線は自然とリクに注がれる。
案の定面白くなさそうで、ホイッスルボイスの彼はワザと誰にも出せない高音で「あーーーー」っと返す。
こんな声貴方には出せないでしょうっとでも言いたげに。
だが、マサキの限りない努力の結果、なんとかレッスンは終了。
朝7時、都内で一番音響の良いと言われる「ヤマウチ楽器」店のレッスン室一日中借りて、終わったのは深夜、時計の針は「テッペン」(深夜零時)をとうに過ぎていた。
「朝っぱらから声出る訳無いのに早朝七時集まれってケイジさん頭おかしいって!前の日もユーチューブ収録で深夜3時まで掛ってそれから帰って飯くって寝てきたんだぜ!信じられないよ!俺らも人間だよ!」
トキヤの愚痴が始まるが、マサキは終始沈黙、リクは明らかに不満そうな表情を浮かべ聞いている。
サキは何時かの、こんな日常レッスン風景をふいに思い出した。
考えれば考えるほどにケイジの「アサヒ」に対する熱い思い感じていたのに、何故今更脱退だなんて信じられない。
さあ、皆様、時計の針を戻しましょう。
昨夜の出来事、サキの部屋に戻りましょう。
眠剤をピルケースから出し、シャワーを浴びていると、サキは何か違和感を感じた。
浴室から出、なんとなく目線を引き出し上に向けるとピルケースの裏側に何か張ってある。
それは付箋で、明らかにマサキ独特の文字。
「僕の部屋引き出し見て」っとだけ書いてある。
急いでパジャマに着替え、サキは静かに音を立てず、マサキの部屋に向かった。
引き出しを開けるとそこには封筒があり、中にマサキが書いたであろう手紙が入っていた。
サキさんがこれを読むって事は僕はもう死んでいるんだね。上手く行ったんだ。僕の計画。もう疲れてしまったんだ。アサヒが辛いって訳じゃない。この世界、芸能界って言うのかな?嫌気がさしたんだ。この前も週刊誌の記事にありもしない佐々川洋子ちゃんとの不倫疑惑が出た。彼女は既婚者だから大騒ぎ。ホテルの前で取られた写真あれも合成だ。佐々川洋子ちゃんに会ったことさえ無いのに…。これから、サキさんが疑問に思っている事全てこの手紙に託す。僕のを含め全員のスマホを来る途中で寄るはずのスーパーで一人トイレに行くふりして駐車場に止めたランクルに乗り込み全員の鞄からスマホとサキさんの鞄から別荘の鍵を探し僕の鞄にしまい込む。と同時にサキさんがいつもツアーで持って来ているって言ってた睡眠薬が入っているであろうピルケース裏に準備していた付箋を張る。「スワンレイク荘」到着次第、全員のスマホ、薄氷が張っているスワンレイク湖に投げ入れる。車内で誰かのスマホが鳴る可能性はある。
が、確か、あそこらへんは基地局もないし、電波が弱いはず。運良く2月の「スワンレイク荘」にメンバー全員集めるなんて、サキさんも相当追い込まれてるんだ。おそらく吹雪だろう?皆の目を盗むなんて造作もない事。到着後皆でスーパーの買い物袋やそれぞれの鞄等車外に出し別荘に入れる。運転手のリクさんがランクルの鍵をシューズボックスの上に置く。すかさず、僕は外の様子が気になるとでもなんでもいい。全員別荘に入ったタイミングでランクルの鍵を取り、スワンレイク湖に投げ入れる。2月の「スワンレイク荘」辺りはだいたい吹雪いているから、全て造作もない事。ここ迄辿り着いたら後は簡単。おそらく、サキさんは皆が冷静になる為に、飲み物を入れるだろう。僕はその時がチャンスだと思っている。持ってきた青酸カリ入りのカプセルをケイジさん脱退話しでヒートアップしているその時を見計らって飲み込む。失敗した時様にもう一つ当日穿いてきているズボンに忍ばせるつもりだ。絶対に失敗してはいけない瞬間。だけど自死とは思われたくない!僕にだってプライドがある。誰でもそうだが自ら死を選んだ人間なら、人には見られたくない、知られたくはない本能があると思う。あくまで事故もしくは外部からの何者かに殺められた…。サキさん僕が自死では無いよう僕の死後偽装工作をして欲しい。後、真実は貴方に託します。さようなら。マサキ
サキは慌てていたが、マサキの為、必死だった。
音を立てずに階下に降り、居間の引き出し、トキヤが四隅に張ったガムテープを剥がし、白い青酸カリ入りカプセルが入ったゴミ袋を用心深くポケットに入れ、大声を出した。
すると、リク、トキヤ、ケイジがその声に驚き部屋から飛び出してきた。
「一体全体どうしたって言うんです。」酔っぱらいの千鳥足でリクは言った。
「喉が乾いてお水を飲みに来たら、ガムテープが剥がされていて、中身そっくり無くなっていたの。」
剥がされたガムテープが音もなく、皆が集まるスワンレイク湖が一望できる大きな窓がある居間の床下でかすかに揺れている。
それはまるで自分の意思がある様に見えなくもない。
静かにキッチンに向かうサキはポケットのゴミ袋の中で丁寧にティッシュに包まれているそれを飲み込んだ。
「どさ」っとサキの倒れる音が「スワンレイク荘」内に響く。
三人はサキの姿に驚く。
サキの右手に触れたケイジは力なく首を横に振った。
どれほどの時がたったのであろうか。
三人は誰からともなく話し出していた。
サキが着ているパジャマのポケットにマサキが書いた手紙があり、全てを知るに至ったのだ。
真実を知ったリク、トキヤ、ケイジはこれからの事で頭がいっぱい。
時計の針が9時を幾分か過ぎただろうか。
車のエンジン音が聞こえてきた。
「とんとん」
ドアを叩く音。
渋々リクが出ると、知らない中年女性が大きなシャベルと共に立っている。
「初めまして、管理人の佐藤です。サキさんいるかね。いやね、国道通ったらこの吹雪で道が無くなっているのが見えたから心配になって、うちの人と一緒にここに来たんです。国道からここ迄二人でシャベルで道作って来たからもう大丈夫だけど…。貴方誰、良くテレビで見るなんて言ったけな、グループの高い声のそう、リクさんだっけ。顔色悪いけど、どうしたんだね?」
後ろには人に良さげな60はとうに過ぎているだろう男性がシャベル片手に申し訳なさそうに突っ立っている。
どうしたらいいのか迷っていたリクは全てを話す決心をし、二人も了解した。
「スワンレイク荘」内の様子を見、リクの口から全てを聞いた佐藤夫妻は決心した。
ご主人は乗って来た四駆で近くの駐在所に駆け付け、警官と一緒に戻って来た。
マサキとサキの亡骸、手紙を見た警官はすぐさま県警に連絡するに至った。
後日のマスコミは、有名ボーカルグループメンバーの死を悲劇的に報道し、マネージャーの女性は後を追ったとだけ。
マサキの希望は叶わず!
思えば、マサキの手紙はサキに取って言霊のようなものだったかも?
手紙を読んでサキが後を追う事も知っていて、青酸カリ入りカプセルを二つ用意したのかも?
マサキはサキが「アサヒ」解散後生きる希望を失って、儚んで死を選びであろう事を知っていた?
マサキの言霊はサキを誘導した?
二人が亡くなった今では全て想像の中である。
完