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第一話「ケイジ」脱退か?

スワンレイク荘殺人事件


登場人物

リク(28歳)人気男性ボーカルグループ「アサヒ」リーダー、ハイトーンヴォイス六オクターブの音域を持つ。高音部担当

トキヤ(27歳)中音部担当

ケイジ(30歳)グループ最年長、絶対音感の持ち主、中音部担当

マサキ(25歳)グループ内最年少だがしっかり者、低音部担当

サキ(40歳)マネージャー兼世話役係、母親的存在


あらすじ

男性ボーカルグループ「アサヒ」はメンバー全員、全国ボーカル選手権で集められ十代の頃から活動していた。懸命な努力の結果、代表曲「パンチ・ライン」が爆発的にヒットし、国内外問わずファンを持つ日本を代表するボーカルグループに成長するが、そんな中、最年長「ケイジ」の脱退騒動がグループ内で勃発。話し合いの必要を感じた「サキ」の提案で全員がグループ所有の別荘「スワンレイク」に集められたが…。徐々に物語は想定外の様相を呈していく。


第一話 「ケイジ」脱退か?

都心から、車で約2時間は掛るだろうか?冬が到来するたびに渡り鳥の姿が見える美しい湖「スワンレイク」沿いに人気ボーカルグループ「アサヒ」所有まさにその名を拝借した「スワンレイク」荘がある。

十代の頃から活躍をしていたが、なかなかヒット曲に恵まれずに苦労してた中、結成4年目にして発表した「パンチ・ライン」(ジョークのオチ)が大受け。

若手お笑い芸人の悲哀を語った歌詞と、哀愁のあるメロディーが人々の涙を誘った。

やっとの思いで築いたその地位、これからという時にグループ最年長「ケイジ」が脱退し、ソロ活動がしたいと言い出した。

ちょうど三歳の誕生日から、ピアノ講師である母親の元で英才教育を受け、絶対音感を持つ「ケイジ」が生み出す美しいメロディーは圧巻で「アサヒ」にとってかけがえのない存在。

だが、「アサヒ」はあくまでもリーダーであり、6オクターブもの音域を持つ「リク」が目立っていた。

「ケイジ」の不満は日ごとに募っていったのは想像し難くない。

「サキ」の提案でグループ全員がこの「スワンレイク」荘に集められた。

口火を切ったのはリーダー「リク」だった。

「ケイジさん、俺本当に驚きましたよ。本気ですか?これからって時になんでソロになるなんて。不満があったんだったら、とことん話し合いましょう。そのためにサキが苦労して全員一緒の休みを取ってくれたんですから。」

「言いたいこと。じゃ、遠慮なく話すよ。パンチ・ラインは俺が作ったようなもんだ。それなのに、まるでアサヒ全員の作品みたくなってるのって可笑しくないか?」

「確かに、曲は貴方が作りましたよ。でも、肝心な詩の方は全員で意見寄せ合って決めたじゃないですか。楽曲は作詞が重要なのは貴方も分かっていますよね。」

「ああ、でもパンチ・ラインの場合は違う。あの、悲哀たっぷりなメロディーラインでヒット飛ばしたんだ。」

「なに言っているんですか?若手お笑い芸人がジョークのオチが決まらず四苦八苦する様が人々に受けたんですよ。楽曲づくりの時も詩が先だったでしょ。」

「それは、あくまで言い訳だ。メロディーラインがうけたのさ。」

全員、二人の押し問答を黙って聞いていたがたまりかねて、「サキ」が口を挟んだ。

「一旦落ち着こう。お茶持ってくるから。」

そう言い残し、皆ががん首そろえている、「スワンレイク」荘入り口にある、大広間を背にしたキッチンへと向かうと、「サキ」が紅茶を銀製のティーポットから各自カップになみなみと注いでいる所だった。

感の良い、彼女は、「リク」と「ケイジ」との行き違いに気が付いており、「スワンレイク」荘に着いて直ぐお湯を沸かし、ティーポットに湯を注ぎ、紅茶の用意をしていた。

その姿は大広間に設置してある四人掛けテーブルから全員が見えていた。

まもなく、「サキ」がトレーに四人分のソーサー付きカップとティースプーン、銀製のシュガーポット、ミルクポットを乗せてきた。

「リク」、「トキヤ」、「ケイジ」「マサキ」の順に各々、トレーからソーサー付きティーカップを取る。

シュガーポットとミルクポットをテーブルに置くと、紅茶が苦手な「サキ」は自分の為に用意してあったインスタントコーヒーを作りに再びキッチンへ向かう。

因みに彼女はブラックコーヒーしか飲まない。

ビートルズをこよなく愛するメンバー全員は紅茶好きだったが「リク」と「トキヤ」は砂糖ミルク無し。

「ケイジ」は胃弱だった為必ずミルクを入れる。

逆に「マサキ」は甘いもの好きで必ず砂糖を入れる。

各自好みを「サキ」は把握していて、テーブル上に砂糖とミルク用のポットを置いたのだが…。

大きな声が大広間から聞こえてきた。

「マサキ、マサキ、どうした。」

メンバー最年少で低音部担当の「マサキ」が苦しそうにもがきながら床に倒れ込んでいた。

「救急車、誰か、救急車呼んでくれ。」

「ケイジ」が叫ぶ。

「ケイジ」が「マサキ」の右手脈を取ると音は段々と薄らいでいき、だらりっと全身の力を失った。

皆の顔が凍り付く。

まるで、死神に出逢ったかのように。

「脈が触れない。」

「ケイジ」が力なく言った。

床には「マサキ」が落としたであろう、カップが落ちていたが、割れてはいない。

床にこぼれている紅茶が大広間にある「スワンレイク」が一望出来る大きな窓から差し込む夕日に照らされて少しだけ光っているように見えた。

それは、「マサキ」の涙に見えなくもない。

グループ最年少僅か25歳これからって時に…。

何故に、こんなことになってしまったのか、無念であっただろうに。

「俺のスマホが無い。誰か、鳴らしてくれないか?」

「ケイジ」の言葉に答えるよう、各自、スマホを鞄の中やポケットやら探すが、全員のスマホが見当たらない。

皆の顔色はみるみるうちに青白くなっていく。

「固定電話は無いの。」

「サキ」の言葉に改めて事態の深刻さが伺える。

「サキ」を含めた全員は「リク」の所有するランドクルーザーに乗り合わせて来ている。

「車、車で直接派出所に行くしかないな。」

誰かが放ったその言葉で皆は「スワンレイク」荘、外に駐車してあるランクルを目指そうとするが、シューズボックス上のトレーにあるはずの鍵が無い。

緊急事態の為に、トレーの中に鍵を置いておく決まりになっている。

運悪く、時は真冬、「リク」のランドクルーザーで悪路をしのぎなんとかここ迄たどり着いた。

おまけに、外は猛吹雪。

とてもじゃ無いが、出られない。

四人と、「マサキ」の亡骸は完全に外界からシャットアウトされていた。

つづく

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