【スライム02】 果物ナイフ・ズタ袋・ブランドTシャツ
宿で検証して判明したこと。
・ステータス表示は自分とドロップアイテムのみが対象
・この世界にドロップの概念はない。
(少なくともベテラン冒険者でも知らなかった)
・干し柿もサンダルも、この世界の基準ではかなりの上質品
・俺のステータスは低い
この宿の良い所は、冒険者が1階フロアにたむろしていて情報源に困らないことである。
何気なくソファーに座っているだけで、皆の噂話が聞こえてくるし、雑談を持ち掛けて来る者も居たので、あまり苦も無くこの世界の情報を入手出来た。
『いやあ、俺は世間知らずの流れ者なので。
何にも知らずに申し訳ないです。』
ペコペコ頭を下げていると、親切な何人かが色々と教えてくれる。
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この国の名はバルンガ王国。
単に王国と呼ばれている。
その名の通り、バルンガ民族によって建国された国であり、人口の95%がバルンガ民族。
異民族は原則として国境沿いの街にしか住めず、冒険者や日雇作業員としてしか居住を許されない。
ここは王都なので本来冒険者は入れないが、この宿の冒険者達は昨日の勇者召喚セレモニーの会場設営要員として召集されていたらしい。
(なので、今週中に退去しなくてはならない。)
勇者召喚は建前上は対魔族戦争の為の戦力としてだが、軍部の本音は対帝国戦争にある。
(魔族とも国境を接しているが、無人中立地帯を広く取っている為、殆ど揉め事が発生していない。)
現在の停戦協定は2ヶ月後には期限が切れてしまう為、そのタイミングに合わせて勇者召喚を敢行した。
周辺国から非難声明が出されているが、対魔族戦争のタテマエで押し切っているらしい。
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『皆さんはこの後、どうされるんですか?』
「国境都市に戻るよ。
フィールドやダンジョンも近いしね。」
『この王都じゃ冒険はしないんですか?』
「おいおい、ここで暴れたら縛り首になっちまうぞ(笑)」
『マジっすか?
俺、昨日公園でスライムを倒しちゃいました。』
「?
いや、スライムなら別に大丈夫なんじゃないか?
魔物って言っても最弱の害虫みたいなもんだし。
公園を綺麗にしたのなら、感謝されても叱責される事はないだろう。」
『へえ、スライムって1番弱いんですね。』
「そりゃあ、あんなモン
子供が暇つぶしに倒して遊ぶもんだから。
スライムの核をギルドに持って行ったら討伐報酬貰えるぜ?
100ウェンだけだけど。」
話を聞いていた周囲の連中が一斉に笑い出す。
冒険者になるような者は、多かれ少なかれ子供の頃にそういう野蛮な小遣い稼ぎを経験しているらしく、皆が懐かしそうに遠い目をしていた。
冒険者連中は、滞在期限が切れるまで王都見物をして過ごすらしいので、俺はドロップ検証の為に昨日の公園に再度向かう事にした。
今日の目標はレベルを上げてみる事である。
俺の低々ステータスを少しは引き上げられるかを知りたい。
昨日で要領を掴めているので、スライム討伐は苦にならなかった。
水辺にスライムが多いことも理解出来たので、池の周囲をグルグル回って一匹ずつ仕留めた。
皮のサンダルの速度向上効果が思ったより高く、逃げてる時に追いつかれたり、逆に相手を取り逃がす場面がほぼ無くなった。
ステータスアップの効果に改めて感激する。
【ドロップ♪】
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【名称】
果物ナイフ
【ドロップ元】
グリーンスライム
【価格】
1万ウェン
【備考】
攻撃力 +5
リーチ +1
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【果物ナイフ♪】
何の変哲も無い果物ナイフだ。
スライムの死骸に突き立ててみるが、妙に刺し心地が良い。
核とやらも簡単に取り出せた。
6匹のスライムを狩った戦果は以下の通り。
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・石ころ×3
・コイン×1 (1万ウェン)
・果物ナイフ×1
・干し柿×1
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ふーむ。
やっぱり石ころみたいに価値の低いアイテムは出やすいな。
恐らくゲームなどと同じでレア度とドロップ率が反比例するのだろう。
そして、レベルアップもした。
どうやらステータスを向上させる為のポイントが貰えるようだ。
この20ポイントを割り振れば良いのだな。
腕力に1ポイントを振ってみると、連動してヒットポイントも2ポイント上昇した。
恐らく知性に1ポイント割り振るとマジックポイントが上昇するのだろう。
少し悩んだが、思い切って好きなように割り振ってみた。
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【名前】
マルヌ・ユン
【職業】
冒険者(ランクG)
【ステータス】
《LV》 2
《HP》 29/30
《MP》 10/10
《力》 5→10
《速度》 3→8 +5(皮の靴補正)
《器用》 3→5
《魔力》 5
《知性》 2
《精神》 0
《幸運》 4→9
《経験》 10
※次のレベルまで残り20ポイント。
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俺のステータスは上記の通り。
命が惜しいので、腕力には多めに振っておく。
後は、速度·器用·幸運と大事に感じた箇所に割り振った。
僅かな数値向上だが、身体が妙にキレキレになったので、スライムを更に10匹狩ってみる。 所要時間は30分も無い。
新たなアイテムはズタ袋とTシャツだった。
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【名称】
ズタ袋
【ドロップ元】
グリーンスライム
【価格】
4千ウェン
【備考】
容量20ℓ
背負紐付き
防水(小)
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どのみち、鞄は買おうと思っていたのでありがたい。
当面、ドロップアイテムはこのズタ袋に入れることにする。
背負い心地も良く、凄く得をした気分である。
問題はもう一つのアイテムである。
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【名称】
ブランドTシャツ
【ドロップ元】
グリーンスライム
【価格】
77万ウェン
【備考】
超有名ブランド限定品!
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…いや、高価な物をゲット出来たのは嬉しいし感謝もしている。
ブランド品なんて地球では縁が無かったのでプライドはくすぐられるし
何より着て来たスウェットが臭くなってきているので、新しい服が欲しかったところなのだ。
そう思い試しに来てみるが。
…ダッサ!
このシャツを作った奴、これが恰好いいと思ってデザインしたのか?
変な襟が着いているし、クソデカロゴが前面に張り付けられているし、色使いも正気を疑うレベルでケバケバしい。
ダッサ!!
これ企画した奴、デザイナー廃業しろよ。
罰ゲームの様なTシャツを着ながら、ドロップアイテムを整頓する。
・石ころ×3
・コイン×3
・干し柿×2
・ズタ袋×1
・Tシャツ×1
ふーむ。
確率がおぼろげに見えて来たな。
整理しよう。
今まで倒したスライムは計20匹。
そのドロップアイテムは以下の通り。
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【スライム20匹討伐ドロップ実績】
・石ころ×7
・コイン×5 (計5万ウェン)
・干し柿×4
・ズタ袋×1
・果物ナイフ
・皮のサンダル
・Tシャツ×1
スライムの核×7
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キャッシュが高確率でドロップするのは強いな。
要領良くやれば10匹始末するのに30分掛からない。
多分、このスキルさえあれば生存には困らなさそうだ。
俺はスライムの粘液でベタベタになってしまったズボンを何とかしようと、一旦宿に向かった。
スキルの真価を知ったのは、ここからである。
「お、お兄さん!
ちょっといいッスか!」
宿のある大通りを歩いていると、不意に背後から肩を掴まれた。
『うおっ!?
誰? 何?』
驚いた俺が振り返ると、そこには如何にも田舎者丸出しのアホそうな女が鼻息をフンフン鳴らしながら目を血走らせていた。
『怖っ!
アンタ何ですか?
騎士を呼びますよ!』
「し、失礼しましたッス!
そ、そのTシャツ!」
『?』
「マルセル・ヴァルダンの没後3周年記念企画!
限定モデル・98FX・バカンスverじゃないッスか!!」
『?
ゴメン、君が何を言っているのか1ミリも理解出来ない。』
「うおおおおおお!!!!
感激ッス!!
流石は天下の王都!!
こんなお洒落なお兄さんが普通に歩いているなんて!!
超クールッス!!」
『あ、うん。
服を褒めてくれてるのはわかったから。
馴れ馴れしく触るのやめてね?
まずは手を離してくれる?
キミ、今凄く失礼なことしてるからね?』
「はうあッ!!
失礼しましたッス!!!」
女はジャンピング土下座しながら、こちらを舐め回す様に凝視している。
…なあ、馬鹿にしてんのか、オマエ。
『じゃあ、俺もう行くから。
さっきみたいな態度、他の人にしないようにね。』
その時だった。
脳内に聞き慣れたアナウンスが響く。
【ドロップ♪ 女♪】
え?
今、何て?
【名前】
マルヌ・ユン
【職業】
冒険者(ランクG)
【ステータス】
《LV》 2
《HP》 29/30
《MP》 10/10
《力》 10
《速度》 8+5(皮の靴補正)
《器用》 5
《魔力》 5
《知性》 2
《精神》 0
《幸運》 9
《経験》 20
※次のレベルまで残り10ポイント。
【スキル】
「落ちこぼれ」
※必ず落ちこぼれる。
【所持金】
6000ウェン (ドロップコイン1万ウェン取得)
↓
56000ウェン (スライムの核を700ウェン分換金)
↓
56700ウェン
【所持品】
石ころ
干し柿
皮の靴
果物ナイフ
ズタ袋
ブランドTシャツ