表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/5

【スライム01】 石ころ・干し柿・サンダル・コイン 

【ドロップ♪ 石ころ♪】



確かにそう聞こえた。

そしてスライムの死骸が一瞬だけ光った後に、その傍らには拳大の石ころが落ちていた。



『え!?』



思わず声を漏らす。

さっきまで、こんな所に石なんて落ちてなかったよな。

ドロップって?

ゲームとかで言うドロップアイテムの意味か?

いや、でも石ころってさあ。



『ちょ、何だよコレ。』



俺がそう呟いた瞬間。

再びステータス画面が開く。





==========================



【名称】


石ころ



【ドロップ元】


グリーンスライム



【価格】


0ウェン (市場価値無し)



【備考】


極めて投げやすい



==========================




…思わず絶句する。

正直、反応に困る。


慎重に石ころを拾い上げ、隅々まで観察してみる。

《極めて投げやすい》の表記に違わず、程よく磨き上げられておりフィット感が凄い。

ただ、所詮は石ころだ。

内心、実は宝石か何かになるのではないか、と期待していたのだが…

流石にそれは高望みか。



俺は石ころを握り締めたまま、数分間茫然と立ち尽くしていた。



ガサッ!



不意に背後から物音が聞こえる。

またもやスライム。

ややさっきの個体よりも大型か。


5まで減っていた筈のHPは7まで回復している。

時間が経つと自然回復する仕組みなのだろうか?

だとすれば凄いね人体。


俺は新手のスライムから大きく距離を取った。

鈍重ながらも接近する気配があったので、握り締めていた石を投げつけて牽制を試みる。



ドガッ!



一撃だった。

何気なく狙った石は、快音を立ててスライムの中心にヒットした。

スライムは少しだけ痙攣して、ぐったりと動かなくなる。




【ドロップ♪】



再びアナウンスが聞こえる。



【干し柿♪】



今度はスライムの傍らに布袋のような物が出現し、中には干し柿が入っていた。

異世界の干し柿は地球の物と製法がやや異なるのか、湿気は殆どなくカチカチに乾いていた。

ガチの保存食、という感がある。




『これ、衛生的に大丈夫なのかぁ…』




口ではそう言いながらも、内心俺はこの干し柿が安全である事を確信していた。

表面の艶、仄かに薫る匂い、布袋の新しさ。

これは食べて良い物だ、本能がそう教えてくれている。



『こ、この柿のステータス!』



俺がそう言うとステータス画面が開く。

間違いない。

自分とドロップアイテムに関してはステータスを確認出来るのだ。




==========================



【名称】


干し柿(1㌔)



【ドロップ元】


グリーンスライム



【価格】


4000ウェン 



【備考】


HP回復速度上昇

賞味期限6カ月



==========================



ふむ。

賞味期限というのがいつからいつまでを指すのかは不明だが。

とりあえず今日を起点に計算しよう。

(まあ、今日中に食べてしまう可能性は高いが。)


俺は形式的に躊躇うフリをしてから、勢いよく柿にかぶり付いた。

甘さは控えめ、ただ旨味が濃縮されている。

直感的に栄養価の高さを感じとる。

そう言えばネット動画で見た事がある。

確か柿は健康に良かった筈だ。


旨いな。

今まで何となく柿は避けていたが、喰わず嫌いだったのかも知れない。

いや、この異世界の柿が旨いのかも知れないが。



いや、驚くのはそこじゃないな。

石ころだよ。

幾ら投げやすいとは言え、あんな一発で生物を殺害出来るものなのか?


妙に投げやすく、何よりコントロールが付けやすかった。

俺、リトルに居た頃は弱肩ノーコンだったのに。



石ころを丁寧に拾い上げると、もう一度手触りを確かめる。

実は魔法か何かが掛かった凄い石なのだろうか?

どの角度から見てもただの石だが。

ただ、形状が異常なまでに投石に適しているので、その為に研磨したものなのかも知れない。



俺は無意識にスライムを探す。

石ころのこと、ドロップのこと。

もう少しデータが欲しい。



俺はゆっくりと歩きながら、敵影を探す。

公園の奥に小さな池があり、そこに2匹のスライムがゆっくりと移動しているのを確認した。



2匹か…

正直、怖いな。

だが、現在のHPは11まで回復している。




『…殺るか。』



言うなり俺は走って射程距離まで近づき、助走の勢いのまま石ころを片方にぶつけた。



【ドロップ♪ 皮のサンダル♪】



アナウンスが聞こえたという事は、即死させる事に成功したということだ。

もう一匹のスライムは一瞬身体をこわばらせたが、状況を理解したらしくすぐに俺に敵意を向けてきた。

…怖い。



俺は右側に転がった石ころを拾おうとして、脇腹に体当たりを食らう。



『ごはっ!』



HP11→8




先程の個体より力が強い!

何とか石ころを掴んだ俺は悲鳴を挙げながらスライムから距離を取り、滅茶苦茶なフォームで力任せに投石した。




ドガッ!!!




【ドロップ♪ コイン♪】




俺は大きくため息をついて、ドロップアイテムを拾い上げると、安全そうな場所に移動した。

脇腹がズキズキして苦しい。





==========================



【名称】


皮のサンダル



【ドロップ元】


グリーンスライム



【価格】


40000ウェン 



【備考】


足裏ガード

速度+5



==========================



試しにサンダルに足を突っ込んでみる。

無骨な見た目に反して柔らかい。

うん、多分物は悪くないんだと思う。

全然足が痛くない。

少なくとも、地球から履いて来たゴム草履よりも遥かに履き心地が良い。

おまけにゴム草履は鼻緒が切れかけており、明らかに使い物にならなくなっていたので思い切って池に沈めた。

今、思えば本能的に痕跡を消そうとしての判断だったのだと思う。



いや、サンダルはいいんだ。

それよりも、コインだな。




==========================



【名称】


コイン袋(1万ウェン分)

1000ウェン銀貨×10枚 



【ドロップ元】


グリーンスライム



【価格】


1万ウェン 



【備考】


王国・帝国にて使用可能。

全世界で両替可能。



==========================




『よし。』



俺は軽くガッツポーズをする。

カネだ。

干し柿やサンダルもありがたいのだが。

カネに優る財はない。



『…確認が先だな。』



もう少しスライムを殺して遊びたかったのだが、このカネの価値を確認するのが先だ。

そう思った俺は痛む脇腹を押さえながら公園を後にした。



俺が街を歩いていると、祭りが終わったのか他の連中も市街地の方に歩いている途中だった。

異世界人の俺が歩いていると絡まれるかと思ったが、今着ているスウェットはこの世界の労働着とやや似ており、特に誰からも咎められなかった。



干し柿を喰いながら歩いていると、隣を歩いていた冒険者風の男が驚いたような表情で話し掛けてきた。



「おい、この時期に干し柿なんてよく手に入ったな?

それ腐ってるんじゃないか?」



背は高いが顔つきが幼い。

恐らく、この男はまだ10代だろう。



『俺もそう思ったんだけどさ。

色艶もいいし、変な臭いもしないから

ついつい摘まんでる。


食べる?』



「え?

いいの?」



『ドロップ品だし。』




「ドロップ?」



『ほら、モンスターが落とすじゃない。』




「???

ああ、極まれににモンスターの身体にゴミが引っかかってるよな。

木の枝とか。」




『??

あ、ああ、そうだよね。

モンスターはカネとか食糧とか落とさないものなの?』



「ははははは!!

モンスターが金目の物を落としてくれるなら

俺は今頃大富豪だよ!」




男は、というより少年はハリーと名乗った。

まだ16歳だが冒険者としてはそこそこ有名で、本人は一人前の大人のつもりでいる。

確かに身体つきや喋り方が俺なんかよりずっとしっかりしてたので、大人にカウントして問題ないと思う。


そして、ハリーと話すうちに確信した事だが、この世界にはドロップの概念がそもそも存在しない。

勿論、若い彼がたまたま知らないだけかも知れなかったが、12歳から冒険者家業を開始して4か国を渡り歩いたハリーがそういう初歩に疎いとも思えなかった。



…まあ、冷静に考えればゲームでもあるまいし、殺した生物から金品が湧くと思う方がどうかしているよな。

現に地球にも猟友会やら何やらがあって、日々猪や鹿が駆除されているが、ドロップアイテムの話など来たこともない。



…俺だけのユニークスキルか?

【落ちこぼれ】

文字通り、モンスターの死体から金品が落ちこぼれる能力。


冷静に考えれば、かなり旨味があるスキルだな。

悪くない。



俺はハリーにもう1個干し柿をプレゼントして、宿と冒険者ギルドを教えて貰い、手続きにも立ち会って貰った。



『ねえ、ハリー。

俺の冒険者ランクGって低いの?』



「最初はGから始まるんだだから気にしなくていいって。

ランクEくらいまでは早いよ?」


『ちなみにハリーは?』



「俺はランクC。」



『おお! 凄い!』



「単に歴が長いだけだよ。

Bに上がるのが至難の業でね。

一般的に《Bの壁》って言われてる。」



『へえ。』




ギルドのシステムは概ねラノベ通り。

依頼を請けてどうたらこうたら。

討伐部位をどうたらこうたら。


ギルドの受付嬢は親切だったのだが、俺の姓である「塗間」をどうしても発音出来なかったので、彼らが連呼して来た《マルヌ》で登録した。

よって、《ランクG冒険者 マルヌ・ユン》というのがここでの俺の肩書となる。



宿の相場は素泊まり3千ウェン。

雑魚寝の貸しベッドなら千ウェン。

食事はそこに千ウェンを+するのが相場。


勿論、立地の良い宿屋なら素泊まりで7千ウェン以上取って来る所もあるし

郊外で美人母娘が経営している宿屋などは食事付き2千ウェンという破格の価格らしい。

(女性経営者の宿は売春婦の出入りを禁止している所が多いので逆に人気が無いそうだ。)




この日はギルドの向かいの宿に食事つき4千ウェンで宿泊した。

俺は楽天的な性格をしているのか、この時点で既に勝利を確信していた。

【名前】


マルヌ・ユン




【職業】


冒険者(ランクG)





【ステータス】



《LV》  1


《HP》  18/20

《MP》  10/10


《力》  5

《速度》 3+5

《器用》 3

《魔力》 5

《知性》 2

《精神》 0

《幸運》 4


《経験》 4


※次のレベルまで残り6ポイント。




【スキル】


「落ちこぼれ」 


※必ず落ちこぼれる。



【所持金】


0ウェン    (ドロップコイン1万ウェン取得)

10000ウェン  (宿代4000ウェン取得) 

6000ウェン




【所持品】


石ころ

干し柿 (残数少量)

皮の靴


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ