【初回10連ガチャ】 勇者×3 賢者×2 聖女×2 剣聖×2 拳聖×1 落ちこぼれ×1
「えーい、ふざけているのかキサマッ!!
何だこのスキル名は!!
【落ちこぼれ】だと!?
キサマを召喚するのに、一体どれだけの魔力が費やされたと思っているのだ!
ユウ・ヌルマ!
貴様は追放だッ!!」
眼前の金縁眼鏡の小役人っぽい人がヒステリックに絶叫する。
後から知った事だが、彼は大臣だったらしい。
さらにもう少し後で知った事だか、俺の召喚コストは日本円換算で500億円程度。
ステルス戦闘機が納品時に墜落する位の痛手ではあったらしい。
普通、何百億も掛けて俺なんか呼ぶかね?
理解に苦しむ。
俺の名前は塗間悠。
平凡なニートだ。
学歴・職歴・貯金・やる気・趣味・特技・覇気なし。
以上!
それ以上の自己紹介は無い。
さっき異世界に召喚され、今こうして追放されかけている。
ラノベとかじゃ、こういう時に手切金を貰えるのだが…
現実はそんなに甘くもなく、何も貰えなさそうだ。
「貴様の様な役立たずにくれてやるカネはッ!
ビタ1ウェンもないわ!!」
なるほど。
この世界の通貨単位は《ウェン》か。
大して貴重でもない情報ありがとよ。
『あっ、そうですか。』
勝手に召喚されて勝手に追放される訳だが、特に異論はない。
何より同時に呼び出された連中が、かなりハイレベルな雰囲気で、別に俺が居ても仕方ないと感じたからだ。
俺は素直に追放なり帰還なりに応じるつもりだったのだが、真顔に戻った大臣がこちらを見ながら衛兵に何事かを耳打ちし始めた。
直感的に危険を感じたので壇上から何気なく飛び降り、会場の熱気を背に、何気なく群衆に溶け込む。
俺こと塗間悠は、何の取柄も無い平凡なニートだが、逃げ癖については一級品である。
何せ高校もバイト面接も筋トレも全て秒で辞めたくらいだからな。
(親父に無理やり入れられたリトルリーグは2年頑張った。)
こう見えてもA級バックラー認定されてるんだぜ?
背後で大臣が叫ぶが一度も振り返らなかったので、状況はよく解らない。
立ち去る俺には群衆は興味がないらしく、皆が祭礼の熱狂に身を委ねていた。
少し後から把握した事だが、この日は《異世界勇者召喚フェスティバル》の開催日だったらしい。
要はこの国の王様がガチャを引いて、俺達地球人を《勇者》として召喚する儀式である。
この世界では王家の人間にしかガチャ(ランダム召喚魔法?)が引けないらしく、信じがたい事だが王位はクジ運の強い者が継ぐしきたりらしい。
今回、《地球人10連ガチャ》を引いたのは国王エドワード7世陛下。
まさかの豪運で10回連続でレア日本人を引き当てた。
そしてボーナスガチャの11回目に出現した俺はCだったそうである。
C… 恐らくはコモンの意味であろう。
確かに要らないな。
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【エドワード7世陛下ガチャ戦果】
01.野田晴彦 SR 賢者 (医師/東大病院勤務)
02.宮原由紀子 SR 聖女 (モデル・配信者)
03.植田翔 SR 剣聖 (海上保安庁勤務)
04.高杉アテナ LR 勇者 (戦場ジャーナリスト)
05.金田勲 SR 剣聖 (総合格闘家)
06.山岸優馬 SR 拳聖 (柔道日本代表)
07.森長彦 LR 勇者 (アルピニスト)
08.佐々木麗奈 SR 聖女 (グラビアアイドル)
09.星野慎平 SR 賢者 (大学教授)
10.西園寺陽菜 LR 勇者 (宮司/著述家)
11.塗間悠 C 落零 (ニート)
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今回、呼び出された11名は以上のメンバー。
みんな【勇者】とか【聖女】とか表記されていたのに、俺だけ【落ちこぼれ】と表記されていた。
あまりいい気分ではないが、地球でも周囲からそう呼ばれていたので疑念はない。
俺は努力と我慢と勤労が大嫌いだ。
当然、地球でも落ちこぼれていた。
チラっと見ただけだが、俺以外のメンバーは俺と対極の人生を歩んできたのだろう。
俺が現れた際の群衆の失望した顔。
見慣れている反応だったので特に何とも思わない。
いつもの反応である。
…去るか。
「ちょっと待って下さいよぉ!!」
会場の外れで、けたたましい声が聞こえる。
やれやれ、祭りってうるさくて嫌だよね。
さて、行きますか。
「ちょっと待って下さいよぉぉおお!!」
不意に巨乳の美女が俺を通せんぼする。
『う、うおっ!』
「ハアハア!
やっと止まってくれましたね。」
そりゃあ、巨乳の美女に呼び止められたら誰だって反射的に止まってしまうだろう。
『アンタ、どちらさま?』
「ハアハア…
私は女神アルカナです!」
背後で王様が演説のようなものを始めたらしく、群衆の歓呼が一際大きくなる。
もう何も聞こえない。
女神、か。
自分で言うかね、普通?
『ほーん。
胸大きいね。
何カップくらいあるの?』
揉ませてくれたら女神認定してやんよ。
「塗間さん、ご当選おめでとうございます。」
『ん?
ひょっとして、アンタってブラとか付けない人?』
「天界を代表して、貴方に祝福の意を伝えに参りました!」
眼前で美女が何やら騒いでいるが、よく聞き取れない。
きっと俺の声も聞こえてないだろう。
この女、何だろう?
役人ではなさそうだし、この世界の神官階級か何かだろうか?
それにしても、いい身体をしてるな。
『なあ、アンタ彼氏とか居るの?
この後、メシでも一緒に行かない?』
「貴方は最高のスキルを引き当てました!
我々天界としても、是非貴方を優遇枠として育成支援を行いと思います!」
いい身体をした女だ。
何を言っているのか分からないが、逆ナン?
これ、人生初逆ナンか?
『ごめん!
ここ五月蠅くて何も聞こえないから!
どこか二人きりになれる場所に行かないか!?』
俺がそう言った瞬間、群衆が熱狂した群衆が舞台の方へ駆け出し始めた。
どうやら粗品が配付されるらしい。
『うおっ!』
「塗間さん!」
俺は持ち前の童貞力を活かして何とか女をキープしようとするが、群衆の波にさらわれて流されてしまう。
「ガチャもドロップも!」
最後に女は叫ぶ。
「本質はっ!」
そこまで聞こえた時、田舎の団体客のようなグループに押されて、俺は5分位かけて会場の端っこまで流されてしまった。
呆然としている俺の眼前では将棋倒し事故のようなものが発生している。
さっきの女を確保したかったので、会場に戻ろうかと思ったのだが、事故が結構深刻っぽかったので、泣く泣くその場を離れた。
少し離れてから未練がましく振り返り、さっきの巨乳女を探す。
目を血眼にして探すが、この人だかりでは無理そうだ。
童貞を捨て損ねた俺は血涙を流してその場を去った。
あーあ、声は聞こえなかったがヤレそうな雰囲気だったんだけどな。
惜しい事をした。
俺は会場と反対方向に見物がてらに歩き続ける。
石造りの建物、洋風の甲冑を身に着けた男女。
ラノベとか見て来た典型的ナーロッパである。
…おお、マジでなろう小説みたいだな。
召喚にナーロッパ風景に追放、なろう小説のテンプレだ。
追放されたのが自分じゃなければ、もう少し明るい気分になっていただろうな。
ん?
じゃあ、アレも出来るか?
異世界って言ったら、勿論アレだよな。
『ステータスオープン!』
俺は人影のない路地に入り込んでから、口の中で叫んだ。
途端に、眼前が輝く!
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【名前】
塗間悠 (ヌルマ ユウ)
【職業】
無職
【ステータス】
《LV》 1
《HP》 20
《MP》 10
《力》 5
《速度》 3
《器用》 3
《魔力》 5
《知性》 2
《精神》 0
《幸運》 4
《経験》 0
※次のレベルまで残り10ポイント。
【スキル】
「落ちこぼれ」
※必ず落ちこぼれる。
【所持金】
0ウェン
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『おお!
見える! 見えるぞお!』
俺は思わず声を出してしまう。
このステータス、強いのか弱いのか?
いや、俺のことだから弱いに決まっているのだが。
精神0って何だよ!
いや、子供の頃から親や教師にそう言われて来たけどさぁ!
0はねーだろ、0は!
後、スキル欄な。
「必ず落ちこぼれる」って何だよ!
いや、思い当たるフシがあり過ぎて文句も言い辛いのだが。
ちなみに分数の掛け算は未だに理解出来ない。
俺が自分の弱さに驚きながら、薄汚い公園のような場所を見つけて腰を下ろした。
参ったな。
この異世界でやって行けるビジョンが見えない。
他人のステータスをまだ見ていないので何とも言えないが…
恐らく俺のパラメーターは低いと予測する。
だって今までの人生、何の蓄積もしてこなかったもの。
ガサっ!
背後で物音がしたので、何気なく振り返ると奇妙なゼリーの様な物体がうごめいていた。
緑色のデカいゼリー。
大型犬くらいのサイズだろうか…
恐らく、これがスライムなのだろう。
ネバネバドロドロしていて、気持ち悪い姿だ。
ふと公園の立札を見ると、子供向けに「スライムはふけつできけんなのでさわってはいけません」と注意書きが書いてある。
なるほど。
確かにベトベトした雰囲気で汚らしいな。
その汚いスライムが近寄って来る。
やや臭い。
『オマエ、俺より臭いんだよ!』
落ちていた石を投げて追い払おうとするが、それで刺激してしまったらしく鈍重にピョンピョン跳ねて体当たりしてくる。
ふっ♪
トロい動きだぜww
ドゴォ!
スライムの体当たりが俺のボディに刺さる。
思い出した。
俺もかなりトロいんだった。
『ぐはあ!』
《HP》 20→18
『てめえ!
俺の数少ないヒットポイントを削りやがって!
10発食らったら死ぬじゃねーか!!』
俺はサッカー漫画読んで鍛えた必殺シュートでスライムを蹴り飛ばそうとするが、回避されてしまい再度ボディに食らう。
『ぐはあ!』
《HP》 18→16
『ちょ、ちょっと待て!
話し合おう!
暴力は良くない!』
俺は戦意を失ったフリをしてゆっくり後退する。
スライムもしばらくこっちを警戒していたが、しばらくすると俺に背(前後があればの話だが)を向けた。
その瞬間。
『嘘じゃボケぇwwwww』
俺は助走を付けて全力で踏みつけてやった。
『人間様を舐めるなぁwww
この下等生物がよぉwwww』
スライムも本気で怒ったらしく、後は命乞いが通じないレベルで容赦ない体当たりを仕掛けてきた。
それから30分ほど、壮絶にレベルが低い死闘を繰り広げて…
『ハアハア、勝ったぞぉ!!!!!』
残りのHPが5まで減ってしまったが、スライムの命の火が消える気配を確認した。
無様だが勝ちは勝ちである。
俺が腹をさすりながらスライムの死体を眺めていると、突然脳内に声が響く。
【ドロップ♪】
ボカロで作ったような人工的な音声。
驚く間もなく、スライムの死体が光り…
俺は自らが獲得したチート能力を垣間見ることになった。
【名前】
塗間悠 (ヌルマ ユウ)
【職業】
無職
【ステータス】
《LV》 1
《HP》 20
《MP》 10
《力》 5
《速度》 3
《器用》 3
《魔力》 5
《知性》 2
《精神》 0
《幸運》 4
《経験》 0
※次のレベルまで残り10ポイント。
【スキル】
「落ちこぼれ」
※必ず落ちこぼれる。
【所持金】
0ウェン
【所持品】
なし