第19話 嘘から出た真
朝バタバタしていて投稿遅刻しました……。すいません汗
ドアを蹴破って部屋に飛び込んできたユリアナ。正気に戻ったエーリヒは、すぐにローゼンクランツ夫人の腕を振り払ってユリアナに駆け寄ろうとした。
「ユリアナ!」
しかし、そうはいかなかった。ローゼンクランツ夫人の10本の指先から、セメントで出来た粘っこい糸が勢いよく飛び出す。エーリヒはあっという間に繭のように包みこまれ、夫人の頭上に吊るされた。
「エーリヒ!」
ユリアナは呼びかけるが、頭のてっぺんから足のつま先までおおわれたエーリヒの反応は分からない。ジタバタともがいているのが辛うじてうかがえるのみだ。
「闇魔法の使い手のはずのあなたが、どうして土魔法を……」
歯噛みするユリアナ。
ローゼンクランツ夫人はせせら笑い、下品な質問をユリアナに浴びせた。
「あんた、エーリヒと寝たって感じがしないわね。反ヴォルフで結託した契約結婚、ってところかしら?」
「なっ……」
夫人の嗅覚に驚くユリアナ。しかし、うろたえたら負けだと思い直す。
「間もなくドン・ギーゼラが憲兵隊を連れて来ます。怒り狂った民衆も一緒ですわ。ヴォルフもあなたに愛想をつかしかけている。無駄な抵抗はおよしになったら?」
ハッタリをかけて夫人を揺さぶる作戦に出た。
夫人は動じない。
「あたし、自分を愛してる男の魔法をコピーできるの。土魔法の使い手のエーリヒがあたしに未練がある限り、この繭は消えないわ」
夫人の高笑いが響く。
「エーリヒに一番愛されているのは、このあたしよ! 嘘の結婚相手のあんたが! エーリヒの虚像ばかり崇める愚民どもが! この魔法を解けるはずがない!」
夫人は手の平から水鉄砲を撃った。おそらくヴォルフ由来の水魔法だろう。ユリアナは床に転がって何とか回避する。
「……それは違う」
ユリアナは息を吸い込み、メガホンを口元に寄せた。
「聞いて! エーリヒの愛は、最初は嘘だったかも知れない。でも……」
ローゼンクランツ夫人の水鉄砲を右に左に避けながら、手にしたメガホンでエーリヒに呼びかける。
「エーリヒの嘘はいつでも真心からくるものだった!」
エーリヒとの思い出が、1つ1つ鮮やかに蘇る。
「私のお母様にシチューの事で嘘をついた時も! 支持者の名前を覚えてるふりをした時も! エーリヒの嘘には、心からの優しさがこもっていたわ!」
ユリアナは必死に叫んだ。
「自分で言ってたじゃない! 愛ある嘘は、いつの間にか本当になるって!」
ピシリ。エーリヒが閉じ込められたセメントの繭に、一筋のヒビが走った。
ローゼンクランツ夫人の顔に焦りが見えた。
「違う! エーリヒはあたしと似たもの同士。愛に飢えて、愛されたくて嘘を重ねて、必死に這い上がってきた!」
夫人は繭に向かって叫んだ。同時に夫人の左右には屈強な埴輪が2体召喚され、ユリアナめがけて殴りかかってくる。
「唯一嘘なしで愛し合える相手、それがあたしたち親子なのよ!」
ユリアナは埴輪の拳をヒラリとかわし、片方がつんのめった隙に頭部にドロップキックを浴びせた。頭部を砕かれた埴輪は、残った1体を巻き込んで轟音と共に床に倒れる。土煙がもうもうと巻き上がった。
「違う! 夫人のは、愛じゃなくて独占欲!」
衝撃音に負けじと、ユリアナは声を張り上げる。
「エーリヒ! 思い出して! 貴方がどんなに私の事を大切にしてくれたか!あなたがどれだけ民衆に尽くしてきたか!」
ピシピシピシピシ。繭のヒビは何本にも増えていく。
ユリアナは息を吸い込んで、昨日言えなかった言葉をメガホンに乗せた。
「私、エーリヒを愛してる!」
繭にひときわ大きな亀裂が入った。
「嘘から始まった結婚でも! 嘘から始まった政治家人生でも!」
枯れそうな喉を叱咤して、ユリアナは叫ぶ。
「あなたは、ちゃんとみんなを愛する事ができているのよ!」
その瞬間、パリンと音を立て、繭が粉々に砕け散った。
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