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第1話


 桜舞い散る4月——新学期を迎えた教室では、同級生たちが新たなクラスメイトに浮き足だっていた。

 俺、逆巻蒼羽(さかまきあおば)はその様子を自席からぼんやりと眺めている。


「なぁなぁ、おまえはどっち派だ?」


 すると、そこかしこから男子たちが興奮気味にそんな話題を口にしているのが聞こえた。

 それは彼らにとって、去年からのテンプレだ。


「俺は断然、月ヶ瀬輝夜(つきがせかぐや)だね。この前の雑誌も買っちゃったしな〜」

「はぁ? 雪妃(ゆきさき)ゆきさきましろだろ。この曲聴いてみろって。マジいいから。絶対にファンになるぜ!」


 男子たちの視線は皆一様に、とある3人グループ——正確にはそのうちの2人に寄せられている。


「あぁ〜今日も可愛いなぁ」

「俺、このクラスになれて幸せだ……」

「マジそれ。今年の運、いや今世の運使い果たしたかも」


 この学園には、2人のSSR美少女がいる。


 1人目は月ヶ瀬輝夜。

 黒髪の容姿端麗、文武両道。コミュニケーション能力にも優れる、学年のリーダーでありアイドル的な存在。よく知らないが、何かの雑誌の読者モデルまでしているとかなんとか。


 2人目は雪妃ましろ。

 銀色の髪が特徴的な深窓の令嬢。月ヶ瀬と違って学校で目立つタイプではなく口数も少ないが、その神秘的とでも言うべき美しさは見る者全てを魅了する。

 歌が上手いらしく、動画サイトでバズっているとかなんとか。

 

 誰でも知っている2人のプロフィールはそんなところだ。

 この学校の男子生徒のほとんどは、彼女たち2人のどちらかに恋しているといっても過言ではない。


(そんなにあの2人がいいかね……まぁ、美少女なのは認めるけどさ)


 俺はひとり置いてけぼりで、冷めていた。


 あまりにも騒がれていると、不思議と距離を置きたくなってしまう。食わず嫌い、毛嫌いしてしまう。

 人気のゲームやアニメでもそうだ。

 こういうのを逆張りと言うんだろうか。


 とにかく、俺はどうにもあの2人に夢中になれなくて、去年から男子たちの間で軽く浮いている状況だ。


「ましろ〜、昨日の曲すごく良かったよ〜! 私もう1000回は聴いてるかも!」

「そう? どんな曲だっけ」


 件の美少女たちの会話が聞こえる。

 今見てもやはり、興味は湧かない。


 俺の視線が吸い寄せられるのはむしろ——誰も注目していないであろう、そのグループ最後の1人の女の子だ。


「昨日の夜からで1000回はさすがに無理なんじゃないかな〜……? あと、ましろんは相変わらず自分の曲に興味ないんだね……」


 あははとから笑いしながら控えめにツッコンでいる彼女の名前は佐藤心春(さとうこはる)

 肩くらいまでの茶髪を揺らしているその姿は、SSR美少女に比べれば素朴そのものだ。

 故に、彼女らは3人グループだと言うのに、男子の間で佐藤が語られることはない。

 もはや視界にすら入っておらず、引き立て役にすらなれていないだろう。


 しかし、佐藤は決して可愛くないわけじゃないと俺は思う。

 客観的に見て、このクラスで3番目に可愛い。

 ただ、他2人の光が強すぎるせいで割を食っている。その飾り気のなさと慎ましい性格も影響しているかもしれない。


(でもやっぱり、可愛いよな……)


 SSR美少女に興味のない俺だけが、この学園で唯一それに気づくことができた。


 だから俺は今日、彼女と同じクラスになれたこの日こそ、行動を起こそうと思う。


 盲目な男子諸君はせいぜい高嶺の花を永遠に眺めているといい。

 世間の意見なんでどうでもいい。

 偶像的なSSR美少女になんて興味はない。


 俺は俺にとっての最高の美少女へ向かって、歩き出す————そう思っていた。

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