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牛丼屋の  作者: あるまじ
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夜の牛丼屋

  深夜一時、グレーのパーカーに着替えて家を飛び出した。向かったのは、最寄り駅の牛丼屋。

 先日、大学時代の友達と飲み会をした時に感じた、なんとなく自分だけ置いていかれる気持ち。その気持ちはねっとりと離れず、確実に俺を蝕んでくる。溜まったストレスを牛丼の特盛を食べる背徳的な解放感で退治してやろうと思いたったのだった。

 牛丼屋に入ると、やたらに混んでいた。深夜だというのにテーブル席が一つしか空いてない。仕事終わりに呑んできたといった感じの二人組の男達、一人で牛丼をかきこむ太った青いTシャツ姿の中年男、男ばかりの殺伐とした店内。

 俺はそのままソファに腰を下ろして、特盛チーズ牛丼を待った。3分ほどで出てきたので紅生姜を入れてから食べ始めようとして箸を出す。これくらい食べないとやってられない、そんな鬱屈とした気分。

 と、その時自動ドアが開く音がした。向こうを見やると、若い女性が一人で券売機を操作している。女は、花柄で薄いピンク色をしたワンピースに足首まで包まれて、雲を纏っているかのように全身がふわふわしている。栗色の明るい髪の毛は首元で少しカールし、お洒落な店の白いショッパーを肩から下げていた。

 牛丼屋に似合わないとは、このことだ。俺以外にも3人くらいの男が若いワンピース姿を盗み見ては、牛丼に食らいつく。

 (食券を買っても満席だから、牛丼は食べられないのだよ。ピンクワンピース君、名付けてピンワン君。)

 『ピンワン君』は随分と酔っ払っているようだった。券売機の画面を高速で叩き、食券が発見されたあとも5秒は叩き続けた。食券を持った彼女は、席を探しているようで幾つかのテーブルの周りをクルクルと徘徊しながら、何やら愚痴を言っている。

 牛丼に眼を戻した俺は温かいお茶を忘れていたことに気が付き取りに席をたった。途中で女とすれ違うと、鼻に良い匂いが香る。お茶をセルフで入れて、席に戻った俺は空のテーブル席がないことに気づいた。本来なら、俺の食べかけの牛丼が誰も座っていないテーブル席に鎮座しているはずである。

 (いったいどうなってるんだ、)

 困惑している俺は、落ち着いて座っていたはずのテーブル席が奥から二番目だったことを思い出して、そちらを見つめた。本来の場所を見つけた俺は衝撃に一瞬、我を忘れた。

 なんとテーブル席では、先程のピンワン君が凄まじい勢いで俺の牛丼をかきこんでいたのだった。その忙殺気味のサラリーマンを思わせる食いつきように、俺は戸惑いながら、彼女の肩を軽く叩いた。

 「あの〜、それ俺の牛丼なんですけど。」

 彼女は身体の向きは変えずに、頭だけを回してこっちに振り向いた。目つきが少しキツイ、しかもお洒落と来た……。苦手なタイプだ。新宿や渋谷にはあまりいないが、品川に居そうな女。ただ、軽やかな服装に似合わず、彼女は大粒の涙を流して泣いていた。

 

 




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