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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

約束を守った犬

作者: モミアゲ

 君達は誰かと約束をした事があるだろうか?


 門限だったり新しい玩具を買って貰う代わりにお手伝いや勉強を増やすとかでも良いし、友達との遊ぶ約束でも約束は約束だが、俺が言いたいのはもっと長期に渡る物、何時までとかの機嫌が決まっていないけれど絶対に決めた事は互いにしよう、そんな感じの物だが、心当たりはあるか?



 俺はあるさ、大切な友人で家族だった奴と俺から申し出た約束がさ。


 あの時、俺は嬉しかった、だから相手に伝わるとか守れるとか考えずに約束をしてしまったんだ。

 相手がずっと約束を信じて守ろうとするだなんて知りもせずにな……。

 


 じゃあ、そろそろ語ろうか、俺が昔した約束でどうなったのかをさ。






「あー、糞っ! あの野郎、ポンコツ掴ませやがって!」


 俺の名は田中太郎、ザ・日本人の名前! って感じの名前の社会人だ。

 今歩いているのは街灯も殆ど無いザ・田舎って地域にある実家へと続く道、ザ・ブラック企業って感じの職場で数年ぶりに取れた連休を使って来たんだが、同僚が新しいのを買うからって安く譲って貰ったバイクが途中でエンスト扱きやがったせいで坂道を押して、雨すら降って来やがった。


「うぇっ! 強くなって来やがったよ」


 ヘルメットを被っているから頭は濡れねぇけれど季節は冬だ、この辺って地盤が緩いから落石も多いし、不吉な事に落石注意の看板を発見、その近くに拳位の石がゴロゴロ落ちていやがるし、雨で体冷やして風邪引いて死ぬか落石食らって死んだりするんじゃねぇの?


 ポツポツからザーザーになって来た雨の中、遠目に実家が見えて来た、叔父さんが急死したからって嫌味と休日明けの割り増し業務を引き換えに取れた休みだが……うーん、あの上司がくたばれば良いのに。



「死神も叔父さんじゃなくって部長を連れて行けよ。……おっ、彼処は」


 この雨じゃこれ以上は限界だ、丁度良い所に一日一往復しか来ないバス停の屋根(ボロボロで穴だらけ)があったから一旦座る。

 バイク? どうせポンコツだ、実家に置いて帰れば良いだろ、同僚は戻ったら返金じゃ、ボケ。

 当然取りに行くのも彼奴、軽トラ有るから大丈夫だろ。


 そんな状態で見たのは古ぼけてヒビの入ったお地蔵さん、前掛けもボロボロになっている有り様だが、俺にとって思い出深い場所だ。


「こりゃ遅れてでもバスで来れば良かった……眠っ」


 二徹三徹は月に何度も、それ以外でも終電で帰るのが当たり前、そんな日常の疲れが出たのか眠気が襲って来た。

 

 出発したのが仕事終わり直ぐ、日を跨ぐギリギリだ。

 普段はエナジードリンクで誤魔化しているけれど手元に無いし、途中参加になってでも明日バスを使えば……いや、もう今日か。



「ちょっとだけ……」


 背もたれはギシギシ嫌な軋み方をしているけれど限界だ、俺は睡魔に身を任せてバス停で眠り始める。


 ……直前に思い出に浸っていたからだろう、夢でその時の光景を見た。




「お前、お腹減ってるのか?」


 俺が小学生三年生だった頃、人口流出の影響で全校生徒が一桁、俺の学年なんて俺一人だった。

 そんな訳で友達だって居ないし、退屈だけれど親は忙しいからって遊んでくれない。

 不満が爆発した俺は食べ物を持って家出したんだが、小学生三年生の足じゃ行ける範囲は限られている。

 地蔵の前で休んでいた時、俺にすり寄って来たのはガリガリに痩せた汚い子犬だった。

 俺はかわいそうになって食べ物をやったら全部食べられちゃうし、仕方が無いから家に帰ろうとしたら付いて来る。


 まあ、その後は何とか親を説得して飼い始める事になった、多分爺ちゃんが可愛がっていた先代の犬が死んでしまったのも理由だったと思う。

 寝たきりで殆ど動かず、吠えもしないから俺とは遊んでくれなかったけれど親は随分と可愛がって世話をしていたよな。


 そして、ポチって有りがちな名前を付けられた其奴は俺にとって遊び相手になってくれる大切な友達だったんだ。



「ポチ、怪我は大丈夫か?」


「ワン!」


 ポチは家族全員によく懐いて、特に俺にベッタリだった。

 賢いから一度言い聞かせれば小学校に行こうとはしなかったけれど芸は直ぐに覚えたし新聞だって取って来る。

 そして、俺が猪に襲われた時は立ち向かって怪我をしながらも追い払ってくれたんだ。

 胴体と左の後ろ足に包帯を巻いたポチの頭を撫でればペロペロと顔を撫でて来るのがくすぐったい。


「ポチ、本当にありがとう。これからも守ってくれ。そうしたらずっとずっと一緒だからな」


「ワン!」


 賢い奴だったけれど流石に通じてはいなかったと思う。

 でも、子供だった俺は通じていると思ったんだ。



 それから俺は実家を出て親戚の家から高校に通い、大学生になって一人暮らしを始めると滅多に家に帰らなくなった。

 ポチが死んでしまったのは就職してから、二年以上会っていなくて庭の墓に顔を出してもいない。


 ああ、葬式のついでにポチの墓参りも……。



「ワン!」


「わっ!」


 突如耳元で響いた犬の鳴き声と背中を強く押す衝撃、俺はビックリして目覚め、そのまま前のめりに倒れ込む。

 直後、俺が座っていたベンチが頭くらいの大きさの石によって破壊された。


「……はっ?」


 全身がびしょ濡れになりながら座り込む俺は何があったのか直ぐには理解出来ない。

 今の鳴き声はもしかして……。


「ワン!」


「ポチ!」


 俺の周囲には犬の姿なんてないのに直ぐ近くから確かに聞こえるのはポチに似た鳴き声。

 名前を呼ぶと背中に体をすり付けられる感覚を覚えたけれど腕を伸ばしても何も居なくて……。



「そうか。お前、死んでも俺を守ってくれたんだな。会いに帰らなくて悪い」


 自然と流れる涙が雨に混ざる、俺は暫くその場で座り込んだままだった。



 翌日、葬式が終わった夕暮れ時に俺は庭のポチの墓の掃除をしていた。

 普段から親が先代の墓と一緒に手入れをしていたらしく綺麗だったが気持ちって奴だ。


「ワンワン!」


「はいはい、あっちに行ってろ」


 ポチの孫に当たる犬がじゃれついて来るのを軽く追い払い、頭を撫でるみたいに墓に手を乗せる。



「ポチ、もう良いからな。俺を守らなくて大丈夫だから成仏しろ」


 何時までも約束に縛られて成仏しないんじゃポチが可哀想だ、俺が静かに言い聞かせるように呟けば頬を舐められた後、横を通り過ぎて行くような気がした。



「さて、行くか」


 帰りは親戚が送ってくれるらしい、糞上司から葬式が終わった頃だから今から仕事に戻れとか連絡が来たし急がないとな。



「はぁ~、本当に嫌になってくるな。ポチと一緒に居られば良かったのに」


 深い溜め息と共に呟く、仕事を辞めたいけれど再就職も不景気で難しいし……。


 だけどまあ、ポチが成仏もしないで守ってくれたんだ、もう少し踏ん張ってみるか。














「この時間帯なら座れるか。……あの糞上司、証拠集めて何時か訴えてやるからな。社長の親戚だから上に言ってもb無駄だけれど」


 時刻は九時前、少し残業で遅くなったって様子のサラリーマンが疲れた顔で帰宅する中、有給中だってのに今から出社だ。

 酒でも飲んでたら仕事にならないからって言い訳したんだが、俺が一口でぶっ倒れる下戸だってのは断ったのに無理に飲まされた飲み会でバレてるからな。

 人材募集の時に広告で見たのは”アットホームで何時も明るい職場、若手が活躍しています”だ。


 アットホームな職場ってのは部長を含む経営者一族が身内贔屓で好き勝手していて、何時も明るく若手が活躍ってのは遅くまで働くから深夜も明かりが付いてて、続かないから新人の負担が大きいって事だ。



「……気が重くなって来たな。電車も来た」


 アナウンスに従い黄色い線の内側で電車がホームに入るのを確認した時だ、不意に俺は背中を押され線路に落ちてしまった。

 混乱の最中聞こえたのは悲鳴とブレーキ音、慌てて飛び退こうとしても上から押さえ付けられ動けない。


 死ぬのか? こんな所で?


 嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ……助けてくれ。



「ポチ!」


 思わず口から出たのは愛犬の名前、無情にも動けない俺に電車が迫り……。








「ワン!」


「……え?」


 背中の上(・・・・)から聞こえたポチの嬉しそうな鳴き声を聞いた瞬間、墓の前で言った言葉を思い出す。


 次の瞬間、俺の居る場所を電車が通過した。




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